解説:二分刻の広陵散
テーマ「最後の三分間」。
すいません、「三分間」である必然性ないです。けど思いついちゃったから強引にそこに添うようにしたよ。実際三分間なんて、当時の演奏のルーチンから言ったらイントロもいいとこなんじゃねえのてきな印象もあり。
と言う訳で「嵆康の最後の演奏」が思いついたので、そこを物語にしました。なお洛陽に広陵散が鳴り響いていましたなんて志怪小説は存在していません。
元ネタは世説新語 雅量4。
うーん世説新語ネタが多くなるな、どうしても。
嵇中散臨刑東市、神氣不變。索琴彈之、奏廣陵散。曲終、曰:「袁孝尼嘗請學此散、吾靳固不與、廣陵散於今絕矣!」太學生三千人上書、請以為師、不許。文王亦尋悔焉。
嵆康が洛陽の東の広場で処刑されるとき、その顔に動揺はなかった。琴を所望し、広陵散を爪弾き、「そう言えば友人がこの曲の弾き方を教えてほしいと言ってきたが、断ったのだっけな。そうか、これで広陵散は滅ぶことになるわけだ!」と呟き、処刑された。元々嵆康については学生たちが嘆願書を連ねて、かれから学びたい、と言ったことを言っていた。司馬昭は処刑後、嵆康を処刑したことを悔いるのだった。
ロックですよねー嵆康。元ネタのほうのいやみな感じも好きだけど、ここは飽くまで泰然自若な感じで。
嵆康に歌わせているのは「幽憤詩」という、嵆康自身が作ったものです。第一連から第二連、第三連と入っていくと、どんどん「私が至らぬばかりに現実から罰されることになって行ったのです」みたいな内容が深まっていきます。いままで読んできた漢詩の中でも特にさっぱり意味が取れなくて爆笑しましたよね。
この詩の途中で鍾会が怒りを顔に表して斬り捨てさせたのは、ここから先に登場してくる詩句
咨予不淑,嬰累多虞。
ああ私がいたらぬばかりに
煩わしいことに巻きこまれ
心配が絶えぬ
匪降自天,寔由頑疏。
それは天のなせる業ではなく
実にかたくなで疎漏な性格による
理弊患結,卒致囹圄。
道理は崩れ
災禍は動かぬものとなって
ついに囚獄につながれる身となり
對答鄙訊,縶此幽阻。
いやしい獄吏の訊問に答えつつ
奥深く隔てられ捕らわれている
を歌わせないため。訳は
http://kanbuniinkai7.dousetsu.com/gensekikeikou.html
こちらの内容をお借りしています。
他の作品では割と「分かってもらえる」配慮をしていますが、この作品では、結構そう言ったのをどぶに捨ててます。いや、好きなんすよ、こういうふいんき小説。不親切にもほどがあるから、あんま頻繁にやっちゃうのはアレなんですが。
このエピソードを改めて読むと、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのアルバムジャケット思い出すよね。僧侶の焼身自殺をジャケットにしちゃったってやつ。反体制とロックと死はいつでも不可避。だから今日もぼくは心の中指にドクロの指輪を付けて、ファック・ユー・お前たち、ファック・ユー・俺自身を叫ぶのです。ラブアンドピース!
参考資料
世説新語 雅量2
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054885208853
幽憤詩
http://kanbuniinkai7.dousetsu.com/gensekikeikou.html
あ、三國志と晋書は今回確認してないです。
ふいんき小説なので。
○頂戴したコメント
2019年12月16日 12:49 FZsm様
「成人し、冠を得たところで、」からの訳が素晴らしく読ませます。感動的です。
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