第48話 与太らしき話

 俺、朝起きたら右の爪先がなくなってたんだよ。


 いやいや、あったの。マジでそんなことが。うふふ。


 俺、その日は酔っぱらって日付変わってから帰ってきてさ、自分ちの居間のソファで寝ちゃったの。そしたら夢を見たのね。


 その夢ってのがさ、今寝てる居間のテーブルの下からズルズル~って、アナコンダみたいなでっかい蛇が出てくるんだよ。


 そいつがなぜか、死んだ俺のばあさんの顔をしててさ。鬼みたいな顔で俺の右足の甲を、爪先の方からこう、ガブッと噛んだの。


 そしたらなんか、変な感触がしてさ。なんていうか、自分の足がグミみたいになった感じで……とにかくばあさんの口から足を出さなきゃと思って引っ張ったら、爪先から先がプチーンて千切れちゃったんだよ。


 で、夢の中でうわーっ! と叫んだら目が覚めた。そしたらなんか、右足がすごく寒いんだ。で、見たらないの。先っぽの方がこう、キレーになくなってる。


『げーっ! 何じゃこりゃー』と思ったら血がダバーッと出てきてさ。何騒いでんのよーなんて言いながら部屋に入ってきた嫁が、それ見てキャー!


 で、救急車呼んでもらって何だかんだあって、今に至るというわけよ。


 いやほんとほんと、あったの。そういうこと。フッヒヒヒヒ。あったんだもーん。




 という話を、胡散臭い目つきと口調で語ってくれた安西さんには、実際に右の爪先がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る