第42話 詰まるもの

 湯船に浸かろうと風呂桶の蓋を開けると、時々見知らぬ女が中で体育座りをしている。


 咎めるようにじろりと睨んでくるので、黙って蓋を閉めてやる。そんな日はシャワーしか使えない。


 それ以外の実害はないと思っていたある日、風呂の排水口が詰まった。


 嫌々指先を入れてみると、案の定、大量の長い髪の毛がずるずると出てきた。腰の高さほどまである真っ黒な塊を抜ききったとき、何か堅くて小さなものが四つ、髪の毛の先端と共に飛び出してきた。


 奥歯だった。




 女はまだ時折、風呂桶の中に出る。

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