第29話 山へ行く道

 俺の実家がある町って、田舎の方でね。ちょっと行くとすぐ山に入っちゃうんですよ。


 そんでね、その山の方へ入っていく道がやっぱ、いくつかあるわけですけども。そのうちのひとつに、自殺の名所みたいなとこがあって。


 こう、ぐーっと山に入っていくでしょ。だいぶ入ったとこで、ちょっと脇道があるんですよ。舗装はされてないけど、地面がならされててね。何でそんな道があるか知らないけど、森の中へ50メートルくらい入っていって、そこで行き止まりっていう。


 当然そんな道に入ってく用はないわけだけど、たまーに、そこに車が停まってることがある。見ると、中で自殺してるんです。


 年に1回か2回か……俺が知らないだけかなぁ、もうちょっとあるかもしんないですねぇ。




 まぁ、そこがですね。不謹慎なんだけど、地元で有名な肝試しスポットでもあるわけですよ。


 俺が通ってた高校つうのがまた、あんまり偏差値に恵まれてない感じの高校だったんですよ。大抵男が高校生の頃って、バカな年頃じゃないですか。バカな年頃に、バカが集まっちゃうわけですよ。したらもう、磨きがかかっちゃうんですよ、バカに。


 ねぇ。行きますよねぇ、肝試し。


 実際肝試しに行って、ほんとに自殺見つけちゃったって奴もいたらしくって。で、原付とったらそこに肝試しに行くのが、何というか、お約束というかそんな感じで。


 そんで、高校二年生になった頃かなぁ。真冬ではなかったんですね。俺と友達の2人で、そこに肝試しに行くことになったんです。


 ほんとは2人じゃなくて、もっと大勢で行く予定だったんですよ。なんだけど、直前になって風邪ひいたとか、補習があってやべーとか、そんな奴ばっかになってきて、最終的に俺らだけになっちゃった。まぁでも、中止っつーのもモヤモヤするし、2人で行くべってことになったんです。


 でね、山ん中を原付で走って、その道に行ったんです。


 寒かったなぁ。一応、季節は春だったんですけどね。夜の山道だし。


 街灯もロクになくて、前を走ってる友達のライトと、たまーにすれ違う車のライトが明るいなぁってくらい。


 もう、暗くて静かってだけで、すげぇ怖くなってきちゃって。でも怖いとか言ったらバカにされるじゃないですか。とにかくその、目的地まで行ったわけです。


 そしたら、車が停まってるんですよ。

 白っぽい色の、どこにでもあるような軽自動車なんですけど。


 車からちょっと離れたとこに、2人で原付停めてね。おいアレ、もしかしてって話をしてたんです。


 俺はもう、いい加減びびってたんだけど、友達はテンション上がっちゃって。「見に行こう! 死体あるかも!」っつって騒いでるんですよ。


 でももう、マジでこっちは怖いから。俺もう、今こんなメンタルで死体なんか見たら、精神崩壊するわと思って。


「何かヤバい奴がいたらどうすんだよ」


 とか言ってたんですけど、「いたらとっくに俺らに気づいてるよ! もういいわ、俺ちょっと見てくる!」って。


 遠くからじゃ車の中がよくわかんなかったんですよ。何しろ暗くて、俺らの持ってる懐中電灯と、原付のライトしか明かりがないようなとこで。


 だからよく見えなくて。誰か乗ってるような、乗ってないような。


 まぁ、そんで友達が、ちょこちょこっと走って、車の中を覗きに行った。で、運転席の窓にいきなりこう、べたっと両手をつけてね。


「おお! すげえ!」


 とかいきなり言い出すわけですよ。


「すげえって、何があるんだよ!?」


「見に来りゃいいだろ! うおー! すげぇ!」


 何かそのー、それがあんまり白々しいんで、こりゃ嘘だなと思ったわけです。


 ほんとは車の中には、何にもないんだろうなと。


 急にアホらしくなっちゃって、友達に「おい、帰ろうぜ!」って声かけたんですよ。


 そしたらね。


 急に、友達の横に女の人が立ったんです。


 いきなり現れたんです。車の陰にいたとかじゃなかったと思う。


 友達が運転席の窓を覗きこんでる。その右側に立ってて、友達をじーっと見てるんです。


 こっちから顔が見えるんですけど、その顔がすごい青黒いんですよ。


 暗いんだけど、何でかその、青黒い顔がはっきり見えて。寒いのに膝上のスカート履いてて、足が裸足なんです。


 声も出なかったですよ。全身にぶわあーっと鳥肌が立っちゃって。なのに、


「おい! こっち来いよ!」


 って友達が言うんです。もうすぐ傍、身体に触るくらいのとこに女が立ってるのに、気付いてないんですよ。


「何突っ立ってんだよー。おい!」


 色々言ってるんですけど、行きたい行きたくないじゃなくて、もう、足が動かないんですよ。そしたら女がね、友達にぐっと顔を近づけて、友達が急に「うぎゃっ!」って叫んだ。


「おおー! びっくりしたぁ」


 何か楽しそうに、こっちに走ってきやがって。でもそれ見てたら、身体が動くようになったんですね。安心したのかな。


「帰るぞ!」っつって、さっさと原付に乗って、ぶあーっと山を下りました。


 ちゃんと友達はついてきましたよ。事故とかもなかったし。


 山下りてすぐのコンビニの駐車場で原付停めて、「お前、車んとこで何があった?」って聞いたら、友達は「風が吹いた」って言いました。


「急に顔に生暖かい風が当たったから、すげーびっくりした」


 とか。


 思いましたよ。お前、それあの女の吐息じゃねぇの? って。


 でも何か、友達にその女のこと、言いそびれちゃったんですよ。見間違いだろーとかバカにされそうな気がして。


 それに、まだあの道からあんまり離れてなかったから、話すのが怖かったんです。


 その日は俺のテンションが下がっちゃって、すぐに別れました。俺は家に直行したけど、友達はどうだか。


 まぁ、次の日学校行ったらピンピンしてましたけどね。俺がびびって車に近づけなかったって話が、あっという間に広まりましたわ。


 こんなんで女の話なんかしたら、やっぱ嘘に思われるだろうなぁと思って。結局高校じゃ、誰にも話さなかったなぁ。




 あの女、あそこで亡くなった人なのか、何なのか。何なんでしょうねぇ。


 とにかく顔の色が尋常じゃないし、人間に見えなかったですよ。だから、ひょっとしてあいつがあそこに人を呼んで、自殺させてんじゃないか、なんて思ったりして。


 だから怖かったですよ。そう遠くないうちに、友達があの山道で自殺してんのが見つかるような気がしちゃって。


 まぁ、今もピンピンしてますけどね。今度結婚するらしいですけど、バカは治ったんだかどうだか。ははは。

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