第7話 ピンを抜く

 ねぇお兄さん。話聞いてくれるよね。


 あたし達、昼休みによくあそこでだべってたんだ。学校の屋上に行く階段のとこ。


 あの日もそうだったの。あたしが階段を上り切ったとこにいて、アヤナはすぐ下に立ってたんだ。ミオとエリナとユカは、どの辺にいたかなぁ。


 あたし、アヤナと一番仲よかったんだ。親友だったの。だから、アヤナに何かしたかったわけじゃないんだよ、ほんと。


 階段で話してたらさ、アヤナの首の後ろにピンが刺さってるのが見えたんだよね。


 持つとこが透明の画鋲に似てるかな。キラキラして、透き通っててすごくキレイなの。何だろうコレと思って。アヤナ、なんかついてるよって言ったら、取ってって言われたの。


 それでピンをひっぱったのね。そしたら針がすんごく長くて、どんどん伸びてくの。抜けないの。


 びっくりしたんだけど、なんかおかしくって笑っちゃった。何やってんのーってアヤナが言うから、あたし、待ってーって言いながら、腕を上の方に伸ばしてったのね。もう届かないって思ったところで、ピンが全部抜けたの。


 そしたら何か、変な音がしてさぁ。階段の下でアヤナが倒れてた。壊れた人形みたいだった。


 ミオたちが真っ青な顔してあたしを見てた。どうしたのって聞いたら、3人ともキャー! ってすごい悲鳴をあげて、走ってどこかに行っちゃった。


 あたし、ひとりぼっちになって。右手を見たら、いつの間にかピンは消えてた。




 ねぇお兄さん。


 ミオたち、あたしが笑いながら、アヤナを階段から突き落としたって言ってるんだよね?


 ピンなんか知らない、刺さってたのも抜いてたのも見てないって、そう言ったんでしょ?


 それ、嘘じゃない気がする。あたし、あれからみんなの首の後ろに、キラキラしたピンが見えるようになったんだ。でもみんな、そんなものはないって言う。


 だから、あたしには見えちゃいけないものが見えるようになったんだって、そう思うのね。


 そのピンって、キラキラしててとってもキレイなんだ。だから時々、誰のでもいいから抜いてみたくなるの。


 でも抜いちゃ駄目なんだよね。抜かれたらアヤナみたいに死んじゃうんだと思う。そういうものなんだ。


 だからあたし、あれが見えなくなるまでここにいるのが一番いいと思ってる。


 もちろん、お兄さんの首にもついてるよ。透明の、キラキラしたキレイなやつ。




 抜いてほしくなったら、いつでも会いに来てね。

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