愛の海で溺死する
「優くん」
「あ、蒔苗」
今日は恋人の優くんとデート。
もうすぐ付き合って三か月目。
何かあげないと。
「まずはカフェでいい?」
「うん。良いよ」
元々彼とは幼馴染で、中学一年生の時に彼の方から私に告白してきた。
当時の私は好きな人も恋人もいなかったから、別に良かったんだけれど。
彼とは何となくで付き合った。
彼とは幼馴染だから、性格はよく知っていたし、一緒にいると気楽だったから。
それに、私には誰にも言えない秘密があったから……。
それは女の子のことが好きだってこと。
恋愛対象で見てしまうこと。
それに気がついたのは小学校六年生の時のことだった。
私の初恋は隣の山崎さんだった。
彼女は男子からも人気の超絶美少女だった。
色白でスレンダーで背中まで伸びた黒髪は墨色で綺麗だった。
彼女はいつも本を読んでいて、みんなに人気で、明るい子だった。
私はそんな彼女に恋をしていた。
一日中、彼女のことを考えていた。
その時間は今思えば無駄だったのかもしれない。
でも、私にとってはその人のことを考える時間がとても楽しくて。
自分から気持ちを伝える勇気は出なかった。
周りの女の子達が「男性アイドル」や「好きな男子」に花を咲かせていても、私にはどうしても理解出来なかった。
かわいい女の子のことが私は好きだった。
その時から、他の子と自分は異なると違和感があった。
だから、何も言い出せなくて。
誰にも言えなくて。
優に告白された時も、正直自分の気持ちを誤魔化せると思ったのが本音だ。
男子と付き合えば自分が女の子のことを好きなんだって疑われないから。
だから、何となく付き合ってみた。
相手もうれしそうだし、それで何となくで今までやってきた。
それでいいと私は思っている。
――――夜。
私たちはラブホに行った。
部屋は広く、テレビも大きい。
それにカラオケも付いているし食べ物も豊富にある。
ちょっといい雰囲気なのは認めるけれど……。
でも、ラブホに泊まるってそういう意味だよね。
そういうことをするって意味だよね。
私的には嫌なわけじゃない。
でも、そういうのは好きな人とやりたい。
私が好きなのは男の子じゃなくて女の子だから。
優君は中世的な顔で可愛いし、かっこいいし、運動できるし、頭もいいし。
女子受けも決して悪くない。
寧ろ、良い方に分類される。
私がレズじゃなかったら、好きになっていたのかもしれない。
でも、どうしても好きになれない。
それが私の本心。
やっぱり、彼のことは友達としか見れない。
恐らく、彼は私に迫ってこないだろう。
彼、昆布野郎だから。
無理矢理私に迫ってこないだろう。
性欲はあるけど、勇気の出ないもやし昆布野郎だ。
いっそのこと女の子だったら良いのに。
そういえば、最近SNSで見かけたことがある。
男の子の体が女の子になる。
本当らしいけど。
でも、嘘っぽい話だよね。
もし、これが本当ならどれだけいい話だろう。
「う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
お風呂の方から優君の悲鳴が聞こえてきた。
「ど、どうしたの!?」
お風呂場に行くと、優君が――――いなかった。
優君がいるはずのお風呂場には、ショートヘアの美少女がいた。
「だ、だれ!?」
「わ、私だよ私! 優!」
「優君!? なんで女の子の姿なんかになってるの!?」
「そんなの私が聞きたいよ! 実は、昨日から気分が悪くって。もしかしたら、今流行っている『百合ウイルス』に罹ったのかも」
いや、もしかしても何ももう既に罹っているけどね。
「どうしよう。私……私…………」
あまりの絶望に跪く優君(ちゃん?)とは裏腹に、私は内心狂喜のあまりに小躍りしそうだった。
だって、女の子になったんだよ。
それも私好みの程よい筋付きのスレンダーでショートヘアの女の子。
これで思いっきり好きなことが出来る。
「ねぇ、私は優君が女の子でも良いよ?」
「え?」
「私は優君と付き合うのなら、性別なんて関係ないって言ってるの!」
「でも、女の子だぞ。レズなんだぞ」
「だからなに?」
まただ。
変な偏見で私を拒否しないでよ。
嫌いにならないでよ。
私だって、好きで女の子のこと好きになったわけじゃない。
「好きになるのに男の子とか女の子とかそんなに大切? 私は優君がいるだけでいいの。優君が好きなの。男の子とか、女の子とかそんなのどうでもいいの」
嘘だけど。
でも、感染した以上は戻らないだろう。
例え、戻る手段があったとしても、その手段は使わせない。
絶対に。
どんな手段を使っても阻止して見せる。
「蒔苗……。ありがとう。凄い嬉しい。これからも一緒にいてくれる?」
「もちろん」
寧ろ、今のままの方がいい。
私たちは生まれたままの姿で抱き合う。
ほら、この柔らかさだ。
包容力。
優しさ。
甘い香り。
これが一番好きなんだ。
男の硬い体なんて吐き気がする。
男の子独特の臭いも正直苦手。
好き。
抱き合ったまま唇を重ね合う。
柔らかい感触。
好きが胸の中に広がっていく。
このまま一夜を優ちゃんと過ごすとなると興奮してくる。
やっぱり、私って女の子のことが好きなんだ。
「例え、優君と一緒にいるよ。女の子でも良いの。ずっと一緒にいよう」
「ああ。そうだ。私は女の子になっても蒔苗のことが好きだよ」
「私も」
大丈夫。
優君が女の子になった以上、私が面倒を見てあげる。
「女の子」を教えてあげる。
心の隅々まで。
体の隅々まで私の全てを教えて説教をしてあげる。
私好みの女の子にしてあげる。
そのまま私たちは愛の海に溺れていった。
人類百合化計画 阿賀沢 隼尾 @okhamu
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