第3話 墓を守る街・ブルーマウンテン

 それは大陸の西方、ラーズ帝国の庇護を受けるアムール山脈。

 その麓で、墓を守る者達が住む街「ブルーマウンテン」。


 陽の光が生と死を等しく照らす中、風が背を低くして草をなびかせ時の流れに滞りが無いことを詠っていた。


「そこをなんとか、ナイスバ…綺麗なお姉さん。お茶だけでも一緒にどうかな?」

「お断りします。」


「ぐ…!ホ、ホントにお茶だけだから。さっき胸に向かって話しかけたことは謝るから。」

「お・こ・と・わ・り・します!」


 そんな心地良い風の調べにノコギリの音を足してしまう様な男が、女性の進路を塞ぐ為に街中では必要のない体捌きを駆使していた。


「いい加減にして下さい!!」


 身体ではなく心にダメージの届く音が響き渡り、男は頬につけた赤い勲章と共に踵を返す。


「ふっ…シャイなレディーだ…。」


 慣れた手つきで銀色の髪をかきあげナルシスト独特のポーズをとり、去り行く女性を見送る男。

 彼は一目でダークエルフと分かる見た目をしており、腰にはマチェットとダガーを携えていた。


「躱せるビンタを敢えて受けるのは、そういう趣味を持っているからですか?ディープ。」


「うるせーよ、ヴィッツ。女性の照れ隠しは全て体で受け止める。これが紳士の嗜みってやつだ。」


 籠もった金属音を数々発する大きなリュック。それを背負いながら近寄ってきたのは、ホビット族の少年であった。


「それで、バッシュの旦那はまだなのか?先に行っとけって言うから、こうやって身を呈して情報収集に努めてる訳だが…。」


「ボスならもうすぐ来ると思いますよ。そしたら身を呈した情報収集とやらの成果を、詳しく聞かせてくださいね。」


 適当な軽口にカウンターを合わせられ、これだから理屈っぽいホビット族はとディープは軽く舌を出して反撃する。


「今日の儀式はもう終わったのか?ディープ。」


 二人が振り返ると、そこには白いフルプレートを纏った戦士が腕組みをして立っていた。


 背中には大砲の弾でも防ぐつもりなのかと聞きたくなる様な分厚いタワーシールドが背負われており、その内側には隠される様にバトルハンマーが収められていた。



「それはそれは!あるなら是非とも入信したいなぁ。その宗教。」


「あ、儀式なら仕方がないですね。一般的な成果とは求める形が違うのでしょうから。流石です、ボス。」


 不良少年の睨み合いの様に額を合わせるほど顔を近づけた二人が、ゴールのない持久戦を始めていた。


「二人ともジャレてないで、とにかくまずは目的地へ行こう。」


 決してジャレている訳ではない。それは二人とも同じように思ったが、口には出さなかった。


◆◆◆


 ラーズ帝国国営兆域。それはラーズ帝国に籍のあったもの全てが埋葬されている「国営の霊園」である。


 遺体に火葬を義務付けているのも含め一つの場所に全ての祖霊を祀るのは、世界を広く見渡してもこの国だけであろう。


 それは王族・貴族、農民でも商人でも例外ではない。

 しかし身分によっては大変価値のある物を添えて埋葬する慣例があるので、一攫千金を狙った墓荒らしを常に警戒する必要があった。


 そこで国は腕の立つ者達を集めて家族を持たせ、生活基盤を整えて墓守達の住む街「ブルーマウンテン」を造り上げたのである。


 街に住み始めた当初、墓しかない街に人の流れがあるのかと住民達は心配した。

 だがその考えは大変的外れであった事を直ぐに知ることとなる。


 毎日、帝国中から届く骨壷。その数はもちろん大きく変動するが、日常生活の中からではなかなか気付くことのできない、一日に死を迎える人の多さ。


 共に訪れる遺族の姿が人の目を集めてしまうのはどうしようもなく、決して活気ある街になるとは思えなかった。

 しかし人が集まるという事は理由はどうあれ経済が活性化するという事でもあった。


「おお!相変わらず手入れが行き届いてますね。」

「男三人で歩く雰囲気じゃないのが難点だよなぁ。」


 兆域の中に入ると三人は濃密な花の香りと水のからくりの手厚い出迎えを受け、墓参りに来たという目的を忘れそうになる。


 色と香りの明るい墓地は最早公園と称してもよさそうな空気を漂わせており、用意されている休憩所やベンチでは恋人達や昼休みに来た者達がランチを楽しんでいた。


「俺たちの昼食は用事を済ませてからだぞ。」


 羨ましそうに見つめるディープと物欲しそうに眺めるヴィッツに釘を刺したバッシュは、一人先へと歩みを進める。


「ヘイヘイ、千二百四十五区に向かうんだよな…って、どんだけ広いんだよ、ここは!」


 入り口から直ぐの壁際に立てられている巨大な案内図。それを見たディープの顔が青ざめた。


「あれ?ここに来たのは初めてでしたっけ?ここには帝国内で生活した全ての人が埋葬されているわけですから、逆によくこれだけに収まっていると私は思いますけれど。」


 それにしても…とディープは思う。好奇心から一番最後の区画は何かと探すが、八万を超えた辺りで探すのをやめた。


 入り口から歩いて一時間ほど経った頃、ディープは

「この霊園を作った初代皇帝は馬鹿だったの?本物の馬鹿だったの?」

「もうお昼時を過ぎてるんですけど。これから街に帰ったらおやつの時間なんですけど。」

などと、心の中でグチっていた。


「言いたいことがあるんなら口に出して言ってくださいね。」


 見透かし顔のヴィッツからの指摘に「お前がいるから口に出さないんだよ」と、また心の中でグチる。


「着いたぞ。」


 足を止めたバッシュの前には周りよりも大きな石碑が立っていた。そこには多くの名前が刻まれており、ここが個人の墓ではないことが容易に理解できた。


「久しぶりだな。」


 一言石碑に向かって呟くと、バッシュは片膝をつき両手を組んで祈りを捧げる。

 ヴィッツがそれに倣うがディープは立ったまま頭の後ろで両手を組み、祈りを捧げる二人の姿を眺めた。


 それは決して無宗教を気取っている訳ではない。

 石碑に祈りを捧げる戦士の姿。それに今日出会った女性よりも心惹かれるものがあったなどと、口が裂けても言えないディープのせめてもの隠れ蓑であった。


◆◆◆


「ふぇ?われふぁひひはんほふぁふぁふぁっふぁほふぁ?」

「ちゃんと飲み込んでから喋って下さい!」


 昼下がりの食堂には昼時の混雑を警戒した街の住人達が押し寄せており、テーブルと椅子の間を器用に走り回る子供達の姿もあった。


「え?あれは騎士団の墓だったのか?」

「え?から言い直す必要は無いと思いますけど。」


 ヴィッツからのノールックパスをディープはスルーする。


「でも何でバッシュの旦那が、騎士団の墓に祈りなんかを?」


「ああ、あれはもう三年ほど前になるか。この街にいた時、ギルドから魔獣の緊急討伐依頼が二つ、半日ほどの時間差で出された事があってな。」


「はぁ?!」


 ギルドの情報網と危機管理能力には目を見張るものがある。

 一日に何十何百と各地へ冒険者を派遣するということは、その地にギルドの目が届くという事でもある。


 各地から集められた情報をギルド職員が徹底的に解析し、些細な異変でも報告から感じると直ぐに、報酬額を高めに設定した調査依頼を出す。


 常に念には念を入れた対応をするので、ギルドが裏をかかれる事態とは正に予測不可能な事態が起きたという事になる。

 その中でも緊急討伐依頼が出されるのは数年に一度、優秀なギルドであれば十数年に一度くらいしか出されない。


 そして緊急という言葉が示す危険度から、報酬は法外なものとなる。

 その様な高収入を得るチャンスを嗅覚に優れた冒険者達が見逃すはずはない。


 街に滞在していた冒険者達は街を守る最低限の戦力を残し、討伐部隊となって出発したわけである。


「二つって…バッシュの旦那、討伐対象は何だったんだ?」


「冒険者達が討伐に向ったのは、街から馬車で東に二日の平原に現れたレッドワイルドボア。ワイルドボアの特殊変質個体ユニークモンスターだな。一匹で街一つは容易に壊滅させられる力を持つ。」


「あれは確かに厄介な突進力を持つ相手ですよね。でも手練れを揃えて火力を確保し、策と隊列をしっかりと組んでレッドワイルドボアの行動力を削っていけば、時間はかかったとしても討伐できる相手ですからね。」


 まるで相手にしたことがあるようにヴィッツが語る。


「確かにな。しかし冒険者達が朝早く討伐に出発してから街が活動を始めた頃、街から歩いて一日の南の森にコカトリスが現れて、しかも街に向かっているという報告が入ったんだ。」


「おいおい、旦那。さらっと言うけど、コカトリスって軍が派遣されてもおかしくない程の災害級魔獣じゃないか!」


「ああ、その災害級魔獣とやらで間違いない。それが冒険者が抜けて、最低戦力しかない街に向かって来てたんだ。ギルドや街の人たちの混乱は想像がつくだろう。」


 ディープは絶句する。自身も今まで絶体絶命の危機に遭遇したり、遭遇したという人の話をいくつか聞いたことはあった。

 しかしそれ等はあくまでも個人か組織の話であって、街一つという大きな規模の危機となると受ける衝撃の質が変ってしまう。


「街には墓荒らしに対抗するための兆域警備団もいたが、彼等は皇帝の許可無しには街を出ることができない立場にある。しかし街中での戦闘になってしまったら、家族を巻き込んでしまうという板挟みにあった訳だ。だがそこに運良くか運悪くか、皇帝陛下が五百人の近衛騎士団を連れてこの街に現れたんだ。お忍びの墓参りと称してな。」


「五百人連れてお忍びになるのかよ…。」


「一応お忍びという形だから、街側への事前の連絡も無かったらしい。まぁ本来の目的は視察と街の者達への労い、更には近衛騎士団の練兵なども兼ねてたってところだろうけどな。あの皇帝は本当に思慮深い人だからな。」


 皇帝と知り合いなのか?とツッコミたくなるが、話の先が気になるディープはそれをサラリと流す。


「それでその騎士団と旦那が、そこで関係してくるってことか?」


「ああ。俺はレッドワイルドボアの緊急討伐には参加しなかったからな。十分な戦力は確保できていた様だし、できるだけ早く目的地に急ぐ必要もあったから街に残ったんだ。」


「そこで街に残っている冒険者に、皇帝の名において強制招集が発令されました。なので私とボスは騎士団と共に、コカトリスの討伐に向かうことになりました。とは言っても街に残っていて戦力になるフリーの冒険者は、ボスと私しかいなかったわけですが。」


「え?ヴィッツもいたのか?」


「私とボスの付き合いの長さを舐めないでもらえます?三年前など昨日の事の様ですよ。」


 一見、戦力にならなそうに見えるホビット族である。

 しかし一度戦闘に入れば、ヴィッツがホビット族ならではの手段を加味した恐ろしい力を発揮する事を、ディープは知っていた。


「それで?二人がここにいるって事は、コカトリスを無事討伐できたって事なんだろうが…。あの石碑を見る限りじゃ、かなり苦戦したみたいだな。」


「ええ。騎士は五百名中二百名を皇帝の護衛に残して、警備団はそのままにし、三百名の騎士とボスと私で討伐に向かいました。」


「それで?」


「討伐に向った騎士団は全滅。生き残ったのは私とボスだけです。」


「はぁ!?」


 場が一瞬にして静まった。いつの間にか周りの人達もバッシュ達の話に耳を傾けていた様だ。

 すると厨房から妙に色気のある中年の女性が、ブロンドの髪を揺らしながら鳴り響く足音と共に追加の料理を運んできた。


 どうしても視線に入ってしまう胸の膨らみに、あの男が反応しない訳がない。

 その証拠に髪の乱れをチェックし始めているダークエルフがそこにいた。


「バッシュ!来ていたんなら声をかけておくれよ!」


「久しぶりだな、メルロス。相変わらず美味いな、お前の料理は。」


 拗ねている様な喜んでいる様な…一瞬で左右を足した様な表情になるメルロス。

 それを見て相変わらず天然の女ったらしだなとディープは思う。


 そもそも三十路前後と思われるバッシュの容姿は、一言で言えば「シブめのおっさん」だ。

 若かった時は美少年であっただろうと思われる整った顔立ちに年月と渋さがブレンドされたら、女性達の視線を集めてしまう容姿が出来上がってしまった。


 フルフェイスヘルムを取るだけで周辺の女性が顔を赤らめてしまうのだから、それは反則だよなとディープは何度も項垂れた事がある。


 そんな見た目のバッシュから自分の作った料理を褒められたのだから、拗ね始めていたメルロスが嬉しさを隠しきれなかったのも無理は無かった。


「来ていたんなら声をかけておくれよ!」


 母親の喋り方を真似して、メルロスの背後からニョキっと女の子が顔を出す。

 同じく髪はブロンドで歳の頃は十二か十三歳といったところか。


「ん?アリスか?大きくなったな。」


 バッシュが大雑把に頭を撫でると、少女は少し嬉しそうな顔をしていた。

 だがしばらくすると少女はバッシュの腕を両手で掴み、そのまま目の前まで持ってくるとバッシュを見上げながら言った。


「それでバッシュ。いつになったら他の街に連れてってくれるの?」


「ん?アリスはいつもそれだな。ママが良いって言ったらって約束だろ?」


「でもね、ママはこの街にずーっと居るつもりなんだよ。それじゃ私もずーっとこの街に居る事になっちゃうよ!」


「確かに特殊な街ではあるが、良い街だぞここは。」


 バッシュの言葉にアリスは表情を曇らせる。


「本気で言ってるのバッシュ?私はこんな街、1日でも早く出て行きたいの。だから、ねぇお願いバッシュ!」


「いい加減にしな!アリス!」


 母親から発せられた強い言葉に一瞬アリスは戸惑うが、強い目つきでハッキリと言った。


「ママだってどうかしてるよ!こんな気味の悪い街に、何で住んでるの?」

「こら!アリス。人前でなんて事を言うんだい!」


 メルロスの発した大声に食堂にいた全ての客の動きが止まる。そんな中、アリスは目に少し涙を浮かべながら叫んだ。


「もう!この街のどこが良いのよ!私はこんな気味の悪い街大嫌い!毎日毎日骨ばっかり届いて、一緒に来る人も泣いてる人ばっかり!街は死んだ人達に囲まれて、住む人達はお墓を守る為に生きている。何その生き方?そんな生き方おかしいよ!絶対おかしい!なんでみんなも分かってくれないの!分かってくれないママもバッシュも、みんな嫌い!嫌い!」


 目の前にあった椅子を勢いよく両手で押し倒すと、アリスは周りの視線から逃げるように店の外に出て行った。


 矢継ぎ早の急展開に全員が一瞬呆気にとられる。

 だがその一瞬を使って、ディープは少女への尾行を開始していた。


「やれやれ。綺麗な女性を追いかけるのは大好きだが、これは完全に守備範囲外だ。しかし気になる気配が近くにある事だし、放ってはおけないな…。」


 そう呟くと風と一体化したかの如く建物の上へと駆け上がり、屋根伝いに走りながら少女の後を追った。

 アリスはとにかく店から離れようとしている様で、街の裏門へと続く道を真っ直ぐに走っている。


 先に走り出したとはいっても所詮は女の子の足。ディープは軽々とついて行ったが、今まで動きを見せなかった謎の気配がアリスに近づきつつある事を感じ取る。


「おいおい、アリスちゃんに向かって動くってのはどういうことだ?」


 この街に到着した時から、何者かが正体を隠してこちらの様子を伺っていることにディープは気付いていた。

 しかし随分と距離を置いた所からの監視であって、バッシュとヴィッツはそれを流していた。

 なので警戒だけはしておくという状態に留めていたのである。


 今、確かに感じ取れる気配は複数。そして移動の速さと距離の取り方から、一人一人がそこそこの手練れといったところだろう。


 しかしアリスを追うために軽く消していたディープの気配を、あちらは察知できていない様だった。


 アリスは流石に疲れたようで息を切らしながら裏道へと曲がり、その先の空き地へと入って行く。

 それと同時に複数の気配も空き地へと行き先を定めたようだ。


「飛び込み料金は高めの設定ですよ…ってか。」


 昔、仲間がよく口にしていた言葉を思い出したディープは一瞬だけ口元を緩めた後、自らの発する気配を完全に遮断する。


 気配が完全に無くなるという不自然な状態は、たとえそれが視界に入ったとしても認識のピントがズレてしまう作用を引き起こす。

 それは意識の隙間への侵入を可能にする、暗殺者の技術を極めた者だけが到達できる高みであった。


◆◆◆


「みんな!大騒ぎしてすまないね。」


 店に居た客達は軽く手を挙げたり頷いてりして、了承の意を伝えた。

 各々の慣れた様子から、今の出来事が珍しいものではないということが理解できた。


「言っていることは昔と変わってないが、主張が激しくなったな。」


「それには手を焼いててね…。普段は自ら店の手伝いや家事もしてくれる優しい子なんだけどさ。こればっかりはどうしても納得できないみたいで。」


「今でもお墓を怖がって近づかないんですか?」


 三年前の記憶を振り返りながら、ヴィッツが尋ねた。


「それもだけど、最近では街全体が気味悪いって嫌悪感まで持ち始めてしまってね。始めはお墓の持つ雰囲気から来るものだと思ってたんだけど、本人曰く妙な視線みたいなものを感じるようになったって言うんだ。」


「妙な視線…ですか?」


「ああそうさ。幽霊やゾンビとかが自分を見てるんじゃないかって言ってさ。そんなもの一度も出た事ないよって何回も言い聞かせたんだけど、本人がどうにも怖がってしまってね。最近では幼馴染のカールと少し遊びに出かけるくらいで、それ以外は外に出たがらなくなってしまったし…。」


 メルロスの言葉に引っ掛かりを感じたヴィッツは、バッシュを見た。

「ボス、どう思います?」


「アリスにはディープが付いているからとりあえずは大丈夫だろうが、三年前の事件との繋がりを考えないといけないかもしれないな。」


「はい。私もその線がかなり濃厚だと思います。」


 不安な表情になったメルロスだが、内容は全く理解できていない。


「え?え?三年前ってあの大騒動のことかい?いや、それよりもアリスが狙われてるってどういうことなんだい?」


 言いよるメルロスの肩に、手を置いたバッシュが言う。

「落ち着けメルロス。とりあえずアリスは大丈夫だ。」


「そうですね。それだけは大丈夫ですよ。アリスの後を追いかけた男は、チャラチャラしてますけど実力だけは本物ですから。」


「後を追いかけた男?誰のことだい?…あれ?そういえばもう一人、ここにいた人がいなくなってるねぇ。」


 二人は思わず沈黙した。

 気になる気配があった為、ディープにとっては対象外だったアリスの後を仕方なく追いかけた。

 本来ならば店でメルロスとの距離を近づけたかった筈なのに、居なくなったことにすら気付かれていない。


 どこまでも哀れな男、ディープ。

 二人は今一番働いているであろう男に向けて、ゆっくりと杯を傾けるのであった。

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