第5話
ギルド内の椅子に持たれくだらないことをしゃべっていると、フードを被った見知らぬ人が俺に話しかけてきた。
「すみません。あのシキさんですか?」
「あ、そうです。俺に何か用?」
振り向きざまに返事をするとその人はフードをゆっくり取った。
目の前に高校生ぐらいのニットの服を着た、黒髪のロングの女の子が立っていた。
透き通った黒色の目、和服が似合いそうな美人だ。。
「あの、仲間にして欲しいんです」
「あ、はい。名前は?」
いかにも気品がありそうな子だった、下手したらコハクより巫女服が似合いそうな子だ。
「猫屋敷 桜です」
「俺の名前は一ノ瀬 紫樹、それでとなりにいるのがコハク、でこっちがユキだ」
「よろしく、サクラ」
まっさきに挨拶したのはコハクだった、こいつのこう誰でも初見でしゃべれるところは少しほんの少しだけ尊敬できる、しかしそれと同時に劣等感も来た。
陽キャラと陰キャラの差に。
これでようやく仲間がそろったことでほっとした、本来RPGでもFPSでも基本は
四人か五人で行動するのがセオリーだ。
まぁ実際人数が増えれば俺の危険もなくなるしな。
「よし、クエスト行くか」
「えーなんで行くのーシキ」
毎度毎度のことだがこの巫女さんはクエストに行こうとしない、下手したらこいつ俺より引き篭もりの可能性が出てくる。
これが発展してニートが出来上がるというわけか、お手本が目の前にいてよかった。
こうでも言わないとこいつは動くことがないのは、何度も経験しているからわかっていた。
得る物だけをパット言うとコハクは手を後ろに組み今日はしつこく反対してきた。
「行ったらまた、私がひどい目にあうじゃん」
・・・・「私が?」こいつ何を言っているんだ・・・
この巫女のこういうところが一番嫌いだ、自分だけが被害者と思っているところとかが特に。
「おい、お前は後方だから良いとして俺は前線だぞ、さらに後ろにお前がいる時点で後ろからのこともあるし、こっちはお前より死ぬリスクが高いんだぞ、わかっているか」
今まで思ってきたこと一言一句はっきりと伝える。
あまりの迫力だったのかコハクは一歩後ろに下がった。
「だ、大丈夫よ・・・だって私がいるのよ、たとえシキが死んでも私が蘇生してあげるわ」
怯んだことを確認すると俺は積極的に攻めた、ちょうど引きこもり時代に裁判ゲームをやっていて正解だった。
「何度も言うが、もし両方死んだらどうするんだ?」
人指し指と人指し指を手の中でいじり目を合わせないように下を向きキョロキョロ目が泳いだ。
「クエスト行くよな?」
小さく頭を縦に振った、その様子を見ていたユキとサクラは苦笑いを見せた。
実際ほんとに大丈夫なのかは俺でもわからない。
俺とコハク、ユキ、そしてサクラの四人でクエストに臨むことにした。
「セイカ、この前予約していたあのクエスト今から出来るか?」
クエストは簡単にいうと早いもん勝ちだ、さらに初心者の量に対して星一星二クエストはかなり少ない。
一回も戦わないで終わる冒険者もかなりいる。
こういうときギルドでバイトしていてよかったととことん思う。
「はい、できますよ。頑張ってくださいね、シキさん」
早く結婚したい・・・
翌朝、俺達四人はギルドを後にし、「ゴブリンの群れ討伐」に向かった。
ゴブリンといえばファンタジーだが、実際本物ゴブリンは相手にしたくなかった。
一番人間に近いし、まぁ金のためならしょうがないと割り切るしかないこと自体知っている。
「あ、そういえばサクラはどんな職業なんだ?」
「スナイパーです」
信用できないな・・・うちのパーティ前線守る人俺しかいないし。
この世界にどんだけ職業があるんだよ。
「シキあれじゃないの?」
コハクが指差す方向には、巨大な木が生い茂っている森が目の前に現れた、ところどころ木が腐っており今にも倒れそうな木が何本も生えていた。
何でこの世界やたら大きいものが好きなんだよ・・・
心なしかみんな顔が青い。コハクに当たっては早くも帰りたさそうだ。俺は驚きながらも森の中に足を踏み入れた。
そして毎度毎度のことだがコハクが一番初めに音を上げはじめた。
俺の二の腕を掴みオロオロとしていた、こうみるとやっぱりかわいい。
「シキ、もう帰ろ」
「うるさい、お前の言いたいことは分かってる。早く行くぞ」
あとの二人が全然余裕そうだった、それはこの際気にしないことにする、いや気にしたらやばいと思っている。
森の中もひどい有様で、地盤が緩く。みんなの足元が不安定だった。
「ねえ、シキ。やっぱり帰・・・」
「だから、うるさいって!早く覚悟決めろ」
奥に行くにつれてコハクの顔色は悪くなっている。
ガッサ
音がしたその瞬間コハクは俺の後ろにすぐさま隠れた、俺も腰に付けている剣を抜き始めた、ユキも指を鳴らしアサルトライフルを取り出した。
がそれより気になるのは俺を盾のように扱おうとしているコハクだった。
「おい!何しているんだ!」
「だってシキ」
さっきまでしていた風の音が止んだ。
恐る恐る音がした草むらへ剣を構えた。
そのとき俺の体の半分ぐらいなゴブリンが三匹出てきた、
周りからも続々とゴブリンが出てきてざっと見ても五十匹はいる。
「よし、俺が前で戦うから、ユキとサクラは後方で援護だ、おい!コハクお前は俺のヒールだわかったか?」
後ろを確認せずに俺はコハクたちに伝達した。
少し不安になりながらも俺は無謀にも一人前線に出た。
「おらぁー、かかって来い!全員ミンチにしたるぞ!コラ!」
ゴブリンに切かころうとした瞬間後方のサクラが大声で警告した。
「シキ!避けてください!」
サクラが言ったそのとき無数の弾丸がゴブリンを撃ち穴だらけにした。
「おい!ユキお前!」
「ごめんなさい、シキ君でも我慢できなくて」
いくらRPGのモンスターのゴブリンでも近代兵器には対処できないか。
「でも、危なっ、絶対に今、撃たれたら確実に蜂の巣になっていたわ」
ユキを見るとこの間のスケルトンより歯ごたえがあったのかは知らないが、すごくうれしそうな顔をし満足そうにしていた。
少し安心して、俺はゴブリンに背中を向けているとコハクが叫んだ。
「シキ、後ろ!」
振り返ると俺と同じ身長いやそれ以上のゴブリンが斧を振り下ろしてきた、俺も慌ててゴブリン向けて剣を振りかけた。
・・・・・無理だ、間に合わない
俺は剣を振り下ろしながら後ろ一歩下がったが間に合わなかった。
そのとき―
銃音と共に弾丸がゴブリンの頭を貫通し、ゴブリンの重心は後ろに落ちていった。
「な、なんだ」
後ろを向くとサクラのスナイパーライフルの銃口から煙が出ていた。それに見とれているとコハクが走って俺のところまで近寄ってきた。
ゴブリンもなにが起こったのかまだ完全に把握できていないのか少し俺たちと距離を開けていた。
俺の名前を呼びながら走ってこちらに急いで来たコハクは、足場が不安定なためこけそうになりながらも、俺の服の襟を持ち急いでユキたちがいる後方に下がった。
途中石につまずき俺はコハクに続くようにこけた。
アサルトライフルを両手で持ち俺とコハクが転んだ場所にユキは近づいてきた。
「シキ君、大丈夫ですか」
転んでいる俺とコハクにユキは手を差し出してきた。
手を掴み起き上がりながらこの間ことを思い出し口にした。
「あぁ、初めにユキに殺されるよりはな」
周りを一望すると幸いなことに後ろにゴブリンはいなかったが、物陰からゴブリンが攻撃の隙を伺っていた、様子を伺っているとコハクが肩を叩いてきた。
振り替えると人指し指で俺の頬をついてきた、今の小学生でもめったにしないことを十六歳前後の子が。
「おいふざけてんのか!」
俺の緊張感が一気になくなったがこの状況なら最悪の出来事だ。
きょとんとした顔でコハクはこっちを見てくる、今手を出してはいけないと知っていても毎度毎度のことで、俺は思いっきり頭を叩くと今の状況では一番して欲しくはなかったことをしでかした。
大声で泣き出したのだ・・・
「シキの、バカァァァァァァァァーっ!せっかく緊張ほぐしてあげようとしたのに!」
泣くのを合図に周囲にいたゴブリンたちはコハクと俺目掛けて一斉に襲い掛かってきた。
とても一人では対処しきれない数だった。
「おい!このバカ、ユキ、サクラ援護をよろしく!」
「「はい」」
返事をしたのを合図に二人はゴブリン目掛けて打ち始めた、サクラは後ろから弓矢を撃ってくるゴブリンを確実に殺して行った。
ユキは相変わらず手榴弾とアサルトライフルで殺戮し始めた。
だが以外にもゴブリンたちの知能が高く段々と学習し始めてきた、ゴブリンたちは前列に亀の甲羅で作った盾を前に設置し後方に弓矢部隊を置き距離を置き始めた。
どうやら戦い方を学習したのか知らないが短剣を持ったゴブリンたちがユキとサクラ目掛け攻撃してきた。
ゴブリンがきた瞬間、俺は全速力で後方から密かに近づいてきたゴブリン三匹に飛びこんで行った。
俺の人生初めての戦闘シーンがまさかのあのバカがしでかしたこととはな。
「うぉぉぉ!」
中学の頃まで剣道をやっていた俺は声を張り大きく叫んだ、ゴブリンは唸り声を聞くと少し怯み攻撃をするのを一瞬ためらった。
そのときを見逃さないで、右上から左下に切り下げたが致命傷までには至らず気絶しか入らなかった。
一撃で倒せなかった。俺が攻撃したのを確認すると右左に別れたゴブリンは俺を挟み撃ちし切りかかって来た。
俺が斬られる瞬間、ユキはアサルトライフルを撃つのをやめて左手で腰ポケットからリボルバーを取り出し後ろで斬りかかっているゴブリンの頭向けて二発続けて撃った。
ユキが撃った弾丸はゴブリンの頭を見事貫通し左から斬りかかって来たゴブリンを殺した。タイミングを見逃さず斬りかかって来たゴブリンを中腰の状態で剣で受け止めた。
しかし危機は去っていない。最初に斬りかかったゴブリンがまた動き始めた、するとユキはまた二発続けて撃った、弾丸は始めに斬りかかったゴブリンの心臓と腕に命中し後ろに倒れた。
二匹目のゴブリンが撃たれると三匹目のゴブリンは一瞬力が弱くなり、俺は剣を振り払った、そしてゴブリンの心臓目掛けて思いっきり刺した、動かなくなるまで。
動かなくなるのを確認すると剣を抜きユキたちの場所にすぐさま戻った。
「なんだよ!あいつら一回の攻撃で倒せないだろうが!」
いやこの剣がダメなのか・・・
膝を付いて言っていると後方から一つの魔法が唱えられた。
「剣の舞」・・・自分のパーティメンバーの攻撃力の増加、弓・銃・剣あらゆるもの武器の威力増大。
誰かと思い後ろを振り返るとコハクを中心として魔方陣が出ていた。
コハクの魔方陣を先頭に俺が立っているところにも赤い魔方陣が現れた。
足元を見て俺はコハクの方を振り返った。
「シキ、これで攻撃力が上がったからいけると思う、私も魔法で援護するから」
これだよ!これ、この感じみんなで協力して戦うこと!
夢にでも見たこのザ・パーティという感じ。
俺の気分は今まで以上に高ぶりそして心が燃えた。
次第に俺の剣の刃は赤いオーラに包まれていた。ユキとサクラの銃弾も赤いオーラがまとっていた。
「ユキ、サクラ!後方の敵だけを撃て!前列にいるゴブリンは俺が倒す、これでも中学時代剣道で県大会まで行った実力見せてくる」
意外と言われるかも知れないがこれでも中学の時代県大会ベスト八まで行ったことがあるのだ。
再び先人を切って攻撃を仕掛けた、しかし俺の目の前には盾部隊がいたのだ、ユキが何度も撃っていたが盾は貫通さえしなかった。
現実ではありえないことだがゲームと思えば不思議ではない。
しかし再度ユキが撃つと盾を持っているゴブリンごと貫通した。
だがゴブリンたちも馬鹿ではない、矢に火をともし打ち始めた。
狙いは俺たちではなく、周りの草だった。
こいつら、戦いのセオリーわかっているのか。
撃った矢は次々とまわりを火の海に変えていき、一途の不安と共に俺は火を払いどけゴブリンに斬りかかった。
サポート魔法のおかげで斬ったときの傷の深さがさっきより深くなっていた、ゴブリンはその場で後ろに体を落とし死んだ。
十匹ぐらいを倒したくらいから、剣にまっとっていた赤いオーラが段々と薄くなり切れ味も悪くなってきた、それと同時に剣の耐久性も心配になり始めた。
そのころには火の勢いが弱くなってきておりコハクと目を見て話せるようになってきた。
「おい!コハクなんか力が抜けてきたんだけど」
ユキたちに守られているコハクに聞くと慌ててまた魔法を唱えた、実際魔力の量が問題だった、ユキたちの魔力に関してはさっぱりだがコハクがどこまで魔法を持続させられるか。
「剣の舞」
本日二度目の支援魔法、俺たちの下に魔方陣が再度出現しそして赤いオーラが復活したが、さすがに剣をなんどもは触れる力は残っていない。
打つ手はまだ残っている、だがどうしてもやろうとする勇気が出なかった。
「おい、コハク、ユキ、サクラ今から固有スキルを使うけどその後は、俺は何もできないから、後はよろしく」
そう伝えると俺は全魔力を両手と剣に注いだ。
過去一度セイカと一緒いるときに使ったことはあるが、それをきりに疲れると言う理由でその後使ってはいない。
剣を居合い斬りの構えにした。
次の瞬間頭の中でスキルを使うイメージをし固有スキル「異常」試用した。
横一線に剣を振る。
振りしばらくした後、魔力を含んだ斬撃がゴブリンたち共々木を切り裂いて行った。
それと同時に魔力切れを起こしその場で倒れた。
体は動かず手とかの関節は動くがほとんどの関節は動かないでいた、
幸いなことにしゃべるなど五感は全部正常に機能している。
「ハァ、やっぱ無理か」
使ったあとの疲労感が半端なくて最近は使ってこなかったがやっぱりまだ未完成だったとは……「異常」……魔力の大部分を使って身体力などいつも以上の力を出す。
魔力切れを直すは簡単で魔力を持っている人に触れるだけで多少は回復する。
倒れながらもさっきまで無数に蔓延っていたゴブリンたちを見渡した。
まだ数匹残っていたのかこちらに目掛けて走ってくる。
「ちょ!ちょっと待って!」
俺の願いを聞かず容赦なく短剣を振りかざしてきた。
恐怖のあまり目を瞑り、死を覚悟した瞬間うしろから何か黒い影が飛んでくのが見えた。
その影はゴブリンに当たり爆発した。
すぐさま後ろを向くとユキの手にはロケットランチャーを手にしていた。
さっき飛んできたのはロケットランチャの弾だったのだ。
「終わりましたね・・・シキ君大丈夫?」
こんな女の子はいないだろうロケットランチャを持ち笑って言ってくる女の子は世界中探してもユキだけだ。
コハクが俺を起こすときにちゃっかり魔力を補給した。
魔力を回復してようやくまともに立てるようなった俺にコハクはお構いなしに聞いていた。
「シキ、あれって何?」
倒れたときついた砂を払い落としながら答えた。
「ハァ、俺の固有スキル「異常」だよ、簡単に言えば馬鹿力みたいなもん・・・てかお前がくれたんだろ⁉」
言い終わり振り替えるとコハクたちなぜか拍手をしだした。
「おい!なんで、ここで、拍手なんだよ!」
「いや、やるときはやるんだな~って」
・・・・喧嘩売っているのかこいつら。
一瞬真顔になりコハクのほうに近づいていったら、背後からユキが押してきた。
魔力もまったくない状態のため簡単に倒れ、その状態からコハクとユキは仰向けで押さえつけてきた。
「なにすんだよ・・・サクラこれどうにかして!」
助けを求めるとサクラは笑って無視した。ただコハクたちの誤算は常に俺が魔力を二人から補給していることだった。
しばらくすると体に力が入り押さえつけているコハクの手を引っ張り転ばせその反動で立ち上がった。
「おい!お前ら、ただで済むなよ」
もう一度砂を払い落とし一瞬睨むと、コハクとユキは俺に背中を見せもと来た道を走って逃げていった。
追いかけようとしたが、動ける力が戻ってきただけでとても走れる力は俺には残っていなかった。仕方なく俺はサクラと一緒に帰った。
「そういえばサクラの固定スキルはなんだ?」
唐突に気になり俺は聞いた。
「私の固有スキルは「縮小」と「凍結」です」
言うと実際にサクラは俺に見せてきた。
「これが「縮小」です・・・」
サクラの手にはおもちゃなどおままごとぐらいの小さなスナイパーライフルが、すると見る見るうちに大きくなっていき元の大きさに戻った。
「次に「凍結」です・・・」
おもむろに木の葉を取り、息をそっと吹いた。葉は息が当たった場所から凍っていき十秒もしないうちに完全に凍った。
俺もこんな固有能力が欲しかった。
「コハクとユキは仲良くなれそうか?」
ぶっちゃけ言うとそこが不安だった、普通の人だったらこんなパーティには絶対入りたくはないと思う、だがユキとサクラは入った。
もし気を使っているなら申し訳ないと思ったからだ。
「コハクちゃんのことは・・・好きですよ・・・」
サクラは頬を赤く染め恥ずかしそうに言った。
それを聞き安心した。もし無理をしているなら気をつかわなくていいと言おうとしたがむしろ好きならそれでよかった。
「ありがと、これからもコハクたちをよろしくな」
「はい!喜んで!」
ギルドに着くと、コハクとユキがいつもどおり冒険者に囲まれていた。毎度毎度のことに見飽きた俺は素通りしてくが、それを初めて見たサクラは目が離れなかった。
受付に行き挨拶をするとセイカは作業を一旦やめ、受付窓口に戻ってきた。
「おかえりなさい、シキさん、どうでしたゴブリンのクエスト?」
セイカに聞かれ俺は今日のクエストのことを一から話し始めた。
全部話し終りユキたちと別れ部屋に戻った。
部屋に入るは先にコハクは布団に崩れ落ちた。
「ハァ、シキ今日も疲れたね・・・あと明日大切な用事あるから起こしてね」
コハクはうつ伏せになり枕に顔を埋め聞き取りにくかったが言った。
「おまえなにも・・・いやしたか・・・って自分で起きろよ」
今日はなんやかんやありながらも、こいつのおかげもあったし・・・それに今こいつの魔力も俺はあてにしているし。
チラッと顔を見るとピクリとも動かなくなり静かに寝ていた。
目をつぶると意識がなくなってきた、今日は魔力を使ったせいで早く眠りに着いた。
次の日
毎度毎度こいつは俺の布団の中に侵入してくるが今日はめずらしく入ってこなかった。
やけに静かなことに気づきコハクの顔を見ると呼吸が荒く苦しそうな顔を見せた。
「シ・・・キ・・・頭痛い・・・」
頭を触ってみると明らかに熱の症状と合致した。
「お前は今日ここにいろ、俺がその用事やってくるから」
深いため息をしてコハクの顔を見直すとやけに嬉しそうだ、まるで小学生がずる休みをしたかのように。
用事の内容を聞き、急ぎ足でギルド一階に降りユキと合流した。
「ユキ・・・俺をコハクにしてくれ……間違えたコハクの容姿にしてくれ」
地味にわくわくもあったのかもしれない。
いきなり言われて混乱しているのかユキも若干引き顔だ。
事情を話すとユキはすんなり許可を出してくれ、俺に向けて固有魔法「変化」を唱えてくれた。
鏡を見るとそこには正真正銘俺改めコハクが立っていた。
中身が俺だとわかっていてもどうしても見とれてしまう。
それに声まで一緒とはさすがゲーム恐れ入った。
時計を見て、ユキと別れ急ぎ足で用事を済ませにいった。
身長も違うため見るものすべてがすごく大きく迫力に満ちていた、店の鏡の前で色々なポーズをしてそれをずっと眺めていた。
ふと我に戻るとすごく死にたい気持ちになる。
用事を済ませギルドに帰っている最中、右手をつかまれ路地裏に引っ張らされた。
路地裏に入ると人生初となる壁ドンをされた。
だが実際この女性の姿で壁ドンされると怖いもんで、目をじっと瞑り相手の顔を見ないようにした。
「怖がらないで・・・」
聞いたことがある声だ・・・いや昨日も聞いた声だった。
その声質は明らかに男性ではなく女性の透き通った声だ。
恐る恐る目を開くと俺の目の前にはサクラが立っていて、さらに壁ドンしているのもサクラだった。
「サクラ・・・?」
思わず声が裏返り、拍子抜けたみたいな声をして呟いた。
状況を理解できない俺を後に、コハクの銀色の長い髪を撫で回すかのように触ってきた。
「あぁ可愛いよ・・・可愛すぎるよコハクちゃん・・・もっと触らせてもっと見させて・・・もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと・・・」
俺の肩を両手で押し壁に押し付け何度も何度も下を向き言ってくる。
「・・・・」
あまりの怖さに声が出ない、言っているのが俺ではないとしても声も体も動かせなかった。
次第に行為はエスカレーとしていき俺を抱きしめた。
心が離れたくても体言うことを聞かない。
そして耳元でそっとサクラは呟く。
「・・・好きだよ、コハクちゃん・・・シキさんを殺せば二人っきり、ユキちゃんも一緒に暮らそうね」
え――――――俺殺されるの⁉
耳元で何度も殺害予告をされそれと同じ数好きだよと聞かされた。
ふと昨日のクエスト帰りのことを思い出した。
確かにサクラは言った、「コハクちゃんのことは好きです」と、複数ではなく単体で言ったのだ。
それに俺も言ってしまった、よろしくとその言い方だと確かにコハクはサクラにまかせたという表現にもなる。
元々好意があったらなおさらだ。
未だにサクラは俺の体から離れようとしない。
この姿になってから色々体がおかしい、普段なら女の子に抱きつかれて少し、ほんの少し嬉しいと思うはずが今だと早く離れたくれしょうがない。
気持ち悪くて吐き気がするぐらい気持ち悪い。
「サクラ・・・私達まだ友達だよなんだから……は、早いよ。せめて気持ちだけ作らせて・・・」
抱きつかれ息が苦しいなか俺は相手のことも考えそして自分の身のこと最優先にしたことを伝えた。
すると抱きつくのをやめ俺の両手を握りしめた。
「大丈夫だよコハクちゃん最悪私が養うし、だから!」
理由になってないんだよ!
そう言うと俺の両手を壁に押さえ顔を近づけせた。
さすがにやばいと思い手を解こうと何度も体を動かすが、足を絡め完全に動きを止められた。
かろうじで動く顔を横に向けた。
目から何かが垂れてくる、目を開けるとなぜか涙が一粒二粒流れてきた。
そんな俺に驚きもせずサクラは涙を手で拭き取った。
「泣かないでコハクちゃん・・・笑顔でいて・・・」
そう言うとさらに顔を近づけ鼻が当たるか当たらないかの距離にまで近づいた。
もう逃げれないと判断し力を緩め、ひたすら終わるのを待とうとした。
「コハクここにいたのか!早くバイト手伝え!」
俺だ・・・俺の声がそこから聞こえた、目を開けるとそこには俺がいた。
サクラはとっさに手を離し、何もなかったかのように俺に変装している誰かとちょっとしたらお芝居を。
「シキさん・・・どうしてここに?」
「コハクを連れ戻しに着たに決まっているだろ?」
流れるように話が進んでいった。話が終わったのかサクラは俺の肩を叩き耳元でこっそりと言った。
「今日は邪魔が入ったけど、諦めないから」
サクラが去ろうとしたとき俺は彼女の手を握り締めて俺からも耳元で伝えた。
「サクラの気持ちはうれしいよ・・・だからまずは友達からさ・・・もしデートしたいなら教えて、私もがんばるから」
ようやく気持ちが伝わったと勘違いしたサクラは顔を赤く染め照れながら帰っていった。
「危な!誰かわからないけど助けてくれてありがと・・・」
変な気分だ。目の前にいる俺に礼をいうなんて人生でそう何度もあるはずがない。
つい俺は自分に見とれてしまった。普段鏡で自分の顔を確認するなんてまずないはずなのに今日はずっと見てしまう。
・・・こう見ると以外にイケメンかもな俺。
まさに自画自賛。
すると目の前にいた自分が光に包まれていきようやく素顔を公開した。
「はぁ、紛らわしいことするなよ・・・ユキ・・・でもありがと」
光の中から現れたのはユキだった、まぁだいたいは予測はしていたが本当にユキだと知ったのは「コハク」のところだ。
俺はだいたい面倒ごとがあったときはコハクのことを絶対に罵倒した言い方になるがさっきのときは普通に名前を呼んだと言うことでだいたい分かった。
気がつくと俺も光に包まれ元の姿に戻っていた。
「で、なんでユキが俺に変装しているわけ?」
「シキ君の帰りが遅くて迎えに行ったら、サクラちゃんと路地裏に入っていくのを見て変装しました」
これからどうサクラと接しればいいか悩む、あっちから見て俺は邪魔者だし。
日本に帰りたい。
ギルドに帰えるといつの間にか元気になっていたのか知らないがコハクは受けつけの仕事をしていた。俺たちに気づいたのか仕事を止めこちらへ近づいてくる。
「シキありがとね」
本当だよ・・・
ため息をつきバイトに取り掛かった。
バイトが終わり最近では三人で銭湯に行くのが日課になりつつある、銭湯に着くとそこにはサクラがいた。
顔を合わせられない。
さっきのをコハクだと知らないサクラは俺に詰め寄り話しかけてきた。
「シキさんも銭湯?」
サクラの『殺す』が頭を過ぎり不用意に距離を縮められない。
そんなことを知らないコハクはユキとサクラの手を引っ張り女湯に入って行った。
この時間帯は冒険者など色々な人が、仕事を終わらせ銭湯に入りに来る人が多い。
風呂に入るといつもの常連の人からギルドで合う人までいた。
これが俺の憩いの場でもある。
ゆっくりシャワーをしていると周りの目も気にしないで、隣の女子風呂からコハクが大声で叫んできた。
「ねぇシキ、石鹸貸してくれない?」
ここ最近ではもう気にしなくなった、はじめ言われたときは周りの男の人から、からかわれたり目で睨まれることが何度もあったがそれも無視し始めた。
女子風呂にコハクの声が聞こえるあたりに石鹸を投げた。
「あ痛っありがとう、シキ」
どうやら狙い通りコハクの頭に見事当たったようだ。
風呂から出るとコハクは俺の耳元に近づき言ってきた。
「シキ・・・お風呂からずっと誰かに見られているような気がするんだけど・・・」
だいたい話は読めた、サクラとあったのも偶然ではないってこともだ。
深夜を回ったころかゴソゴソと隣で音がなり始めた。
仰向けの状態からコハクに背を見せまた眠りについた。
「ねぇシキ、シキ・・・」
耳元で名前を呼んでくる・・・
ふと目が覚めると、俺はコハクに卍固めをされていた。
卍固めされているとかかわらず俺もよくそのまま寝ていたと思う。
「ちょっと、い、痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ解けこれを!」
目が覚めたことを確認するとコハクは卍固め解いた、俺は首など関節が動くのを確認していると、人指し指をいじり俺のことを一度見て顔を赤く染めながらも意を決心して話始めた。
「ねぇシキ、ちょっとお願いがあるんだけどいい?」
最後まで聞かなくていいと判断してすぐさま布団の中に包まり即答した。
「嫌だ!」
一瞬唖然としたがそれでもどうしても聞いて欲しいのか、無理やり俺の布団を剥ぎ取り耳元で小さく言った。
「シ、シキ・・・一緒に・・・ト、ト、トイレ着いてきてくれない?」
俺と目を合わせないようにコハクはもじもじとしながら言った、俺もそんな経験小学四年生いらいしたこともない、思わず二度見してもう一度聞いた。
「今なんて・・・」
もう一度言うことを頼むと、コハクは俺との距離を少しあけ顔を赤くしツンデレキャラ+幼馴染キャラのように言ってきた。
「だから、一回で聞いてよ!バカ!トイレ一緒に着いて来て・・・」
地味にツンデレキャラ合うな・・・こんどヘア止め二個と制服買って来ないとな・・・
実際この状況に立たされた男子は噛みまくりって「え、べ、別にいい、よ・・・」とか
言うと思うのだが、いやセイカだったら俺もたぶんそうだろう・・・
しかし今の俺からしたら、こいつは妹キャラにしか見えないのだ。
そしてこのときの女の子は嫌だと言っても、諦めないで何度も言ってくるため非常に、めんどくさい、俺もこれのおかげで何度も妹に起こされたことか。
毛布をどけ、コハクの顔を半開きの目で見た。
「ハァ、着いていくから、一言は?」
「うーん?そっか!シキさっきは起こしてごめんね」
答えを聞くたび俺は立ち上がりコハクの首を腕で絞めた。
「この!バカ!起こす前に俺に卍固めしたことを謝れよ!だからお前はいつまで行ってもお荷物巫女なんだよ!」
絞め技をしたことに驚いたのか、怒ったことに驚いたのか、首を絞めている腕を解きながらさっき言ったことを否定し始めた。
「なによ!シキ!百歩譲って私が悪いとしても、起きなかったシキが悪いじゃない!どうなのよ!」
逆キレかよ!しかもこいつ腕の力強すぎないか!
予想外だったのがコハクの腕の力が俺より強いことだった、一瞬でも気を許すと力負けするほどだった。
しばらく無言の戦いが始まった、力ではコハクが勝っているが俺の力もだいぶん弱まっていった。
先手を打ってきたのはコハクだった、コハクの力が少し弱くなり力を抜くと俺の腕を突然噛み付いてきた。
「痛っ!おい、お前!」
一瞬だった俺が痛みに怯み、力が完全に弱まったことを確認し下から蛇のようにスルッと脱出した。
「そうかお前がそんなに痛い目にあいたいんだな!」
コハクは脱出できたことに虚をつかれ頭が無防備になった。コハクの頭を両手で持ち思いっきり額同士をぶつけた。
鈍い音が部屋に響いた。
先に根をあげたのは俺だった、自分でぶつけたはいいが俺が固いこと前提で考えていたがコハクのほうが固いことは考えていなかった。
「い、痛!おまえどんだけ、石頭なんだよ!」
その場で倒れ怯んでいると、俺に続くようにコハクは突然痛がり始めたが。
演技下手なのか俺から見ると痛そうには一切見えず、見え見えの演技にしか見えなかった文も全部棒読みだった。
「うわ、痛いよーシキー」
少し立つと痛みが段々引いていき、俺は立ち上がり下に落ちていた新聞を丸めGを叩くようにコハクの頭を叩いた。
「痛い!」
叩くとコハクはさっきまでの下手な演技をやめ頭を押さえて本当に痛がり始めた。
「なに、するのよシキ!」
丸めた新聞を手にあてパンパンと威嚇をしながら、下から見上げてくるコハクのことをG
を見るかの目で見て言った。
「演技するんだったらちゃんとしろよ!でなんで、そんなフリをした」
言い終わるとコハクは立ち上がり、俺の腕を掴み勢いよく背負い投げをしてきた。
幸いなことに木の床ではなく布団の上だったため、そこまで俺の背中には負担が掛からなかった。
卍固め・背負い投げまでされておいてキレない人はいないだろう、むしろ一日の間にこんなに柔術をされることは、世界探してもそんなにはいないだろう。
「おい!なんで背負い投げした?」
立ち上がりながらコハクにキレたが、俺の話しを右から左に受け流しているように見えた。
「ほぉ、おまえがその態度なら!」
おもむろに俺はクローゼットをどかし後ろから財布のようなものを取り出すと、さっきまでやさぐれていたコハクが財布を見た瞬間慌てて財布を取ろうとしてきた。
「一、二、三、四、五・・・おーすごい、こんなにお金落ちているなんて奇跡だなー奇跡だなー」
俺がクローゼットの裏から取り出したのは、コハクが密かに貯めていた「へそくり」だった。
この前掃除しているときにたまたま見つけたのだ、本来なら俺達の金は生活費に当てるのだが、こいつは自分の娯楽のために貯めていたのだ。
本来なら没収するのだが、多少ならいいと思いなにも言わないでいた。
「これ、なんだと思う?」
へそくりを見た瞬間、泣きだし俺の服を掴み必死に謝ってきた。
「わああああぁぁぁぁーっ!ごめんなさいシキさま!も、もうやらないから返してください!私が働いたんだから、私のだよ」
疲れはじめたのか、コハクも段々と泣きやんでいきへそくりを返した。
腰を落としその場に座り本来の目的を聞いた。
「おい、それでなんで俺を起こしたんだ?」
へそくりを新しい場所に隠し、俺の問いかけさっきよりはじらいながら答えた、まだ目には涙残っていた。
涙を手で拭きながら割座をして本来の目的をぎこちなく話し始めた。
「ト、とトイレに・・・い、いっ一緒 に…つ、着いて来てく、ださい・・・」
え、なんだろ今俺絶対他人から見られたら犯罪者に間違いられる。
この状況で他人に見られたら犯罪者に見られるのは、無理もない。
泣いている女の子がこんな言葉を言っている時点で職質は間逃れない。
気づくとカーテンの隙間から朝日がもれていた。俺達が喧嘩をしている間に外はすっかり夜から朝になっていた。
「おい、はやくトイレ行けよ」
少し恥ずかしながら言うとコハクは走ってトイレに向かった。コハクに起こされていたせいで俺は眠たくなり、その場で横になると、あっという間に俺はそのままそこで毛布も着かけないで寝てしまった。
「シキー、ただいま、あれ!シキ寝ているの?おーい!」
そっとコハクは俺の体に毛布をかけ、眠りに入った。
二時間ぐらいたったあとだったのだろう俺は起き時計を見ると午前九時だった、とっくにバイト集合時間は過ぎていた。
となりを見るとコハクの布団は綺麗に畳まれており出たあとだったらしい、恐怖のあまり俺は二度寝したそして布団に包まり必死に言い聞かせた。
「これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ・・・」
しばらく自己暗示し始めようやく効果が聞き始めた頃に、急に襟を捕まれ俺は毛布から取り出された。
恐る恐る後ろ見ると教官が俺の襟を持ちながら目じっと睨んできた。
「お、おはようございます・・・清清しい朝ですね・・・教官はな、なんでここにいるんですか?」
恐怖のあまり噛み噛みで言うと教官は俺を降ろしその場で正座させられた、一方教官は腕を組みひたすらこちらを睨んでくる。
「よお、おはよう・・・」
その少しの文だけでも俺には恐怖を感じた。
「お、おお、おはようございます教官」
正座から立ち上がり教官に向かって敬礼をしたが、顔色一つ変わらなかった。
一歩下がるとそれに連れて教官も一歩前に出る、コハクのことは言えないがとっさに言い訳を話し始めた。
「教、教官!こ、これは違うんです、これは誰かの策力です!」
噛み噛みだった、人間あまりの恐怖になると背筋が伸びるという、教官は組んでいた腕を解き俺を見下し優しく言い張った。
怒り顔でもなく、優しい顔で・・・
「ほぉ、そういうことか・・・・・なわけ、ないだろうがこのたわけ!」
また一歩一歩ずつ教官は前に出て俺は窓まで追い込まれ教官は俺の目を睨み命令してきた。
「おい!シキ俺達の約束を全部言ってみろ!」
敬礼をしながら第一条から必死に答えた。
「まず第一条遅刻をしない、第二条言い訳をしない、第三条仕事をサボらない以上です」
さらに距離を詰め教官は俺の肩に手を置き悪魔の囁きをした。
「シキ、お前は何条破り何個の罪を起こした?言ってみろ・・・」
そのときには全筋肉は硬直し過呼吸になる。
「・・・・・三つ?」
怯えながら答えると教官は急に笑い出し俺の服の襟元を持った。
「正解だ!」
言われた瞬間俺の体は二階の窓から投げられ体は空中に浮いた・・・いや落ちたの間違えだ。
悲鳴さえ上げる余裕がないほどすぐに落ち、大きな水しぶきと共に俺の骨に激痛が走った。
幸い俺が落ちたのはコンクリートじゃあなくギルド前の噴水に落ちたため体には目立った外傷はなかったがあまりの痛さに気絶した。
しばらくたち目が覚めると、体の痛みがなくなっていた。
さらにはさっきまで噴水に浮かんでいたのに長椅子の上に寝転がっていた。
「危な、死ぬかと思った」
周りを見ると隣にはコハクが中腰の姿勢でいた、俺と目が合った瞬間背を向けて全速力で逃げていった。
「おい!待って!」
そう言い俺は立ち上がりギルド内を全速力でコハクを追った、反射的に追ったとはいえいつの間にか俺の体は走れるぐらいまで回復していた。
するとコハクはなぜか急にとまりこっちを向いた。
「おい!」
その一言が聞こえた瞬間再び筋肉は硬直した、体は覚えているというがまったくだ。
鶴の一声で俺は立ち止まった、教官は俺との距離を詰め俺の肩に手を置きまじまじと目を睨んできた。
「今、走っていたか?」
ここまで来ると質問ではなく、拷問の間違いだ。
「い、いいえ、は、走ってい、いません」
さっきの落ちたことが頭から離れず、怯えながら否定すると教官は手を離し消えて行った。そして完全に見えなくなると筋肉の硬直は静かに解かれた、教官のことしか見ていなかったため、周りを見るとコハクはとっくにいなくなっていた。
「シキ君、大丈夫でしたか?」
後ろを振り返るとユキはほうきを両手で持ち、心配そうな顔でこちらを見つめてきた。
「ハァ、なんだユキか、びっくりさせるなよ、そういえば俺が落ちたときどうだった?」
ユキに聞くと言うのを躊躇いながらもありのまま俺に真実を伝えてくれた。
「あ、ショックを受けないでくださいね?」
再度警告してきたが若干うなずくのを躊躇ったが、コクリと首を縦に振った。
「あの時、落ちてきたシキ君は、それは見事な現代アート見たいな感じで倒れていました、その・・・落ちた場所は水なんですけど・・・浅いところに落ちまして・・・・
血液も大量に出血もしていて、たぶんあのままでしておくと死んでいましたね。でもそのときコハクちゃんが来て回復魔法をして何とか助かったんですよ・・・」
あいつが助けてくれたのか・・・
コハクのおかげで九死に一生を得たことに気づいた。
「しかしまだ続きがあるんですよ、その後回復魔法を掛け・・・シキ君が気絶しているときに油性のペンで手の平に・・・・・」
手の平を見るとそこにはユキが言ったとうりに油性のペンで「引き篭もり」と書かれていた。
「前言撤回だ、あのバカ」
部屋に入るやいなかコハクが逃げれないように急いでドアを閉め鍵をした。
さらにと言ってはなんだがドアの前に立ちふさいだ。
「おまえ、よくも書いてくれたな」
腕を組み一歩ずつ距離を詰めって行った朝の教官のように。
そんな俺を見たコハクはドアをチラチラと何度も何度もドアを見た。
「まさか、逃げれると思っているのか?」
図星だった、さらに詰めて行った瞬間コハク急に走り出し、止めようとした瞬間ドアが突然開きドアに飛び込むようにコハクの頭に直撃した。
それと同時にコハクの足に引っかかり俺まで巻き添いを食らい、頭をドアにぶつけた。
本日二度目の気絶だった。
気がつく俺は誰かの膝の上に膝枕されていた。
上を少しずつ見上げていくとセイカの顔がチラッと見えた、これがコハクなら何事もなかったようにするがセイカとならば別だ。
飛び上がるようにしてすぐさま謝った。
慌ててどくと、なぜかセイカの顔が悲しそうな顔をした、周りを見るとユキがコハクを膝枕していた。だが未だにコハクは気絶状態だ。
周りを一望して俺はその場で座りこんだ。
「セイカ、一体なにがあったんだ」
聞くと頬を掻きながら少し苦笑いし回想始めた。
「実は、前シキさんに頼まれていたクエストが手に入ったので持って行くためにユキさんと部屋を入ると、ドアがお二人に当たって…それで二人とも気を失ってそれで現在にいたります」
ある程度はわかったがまだ俺には一つ疑問が残っている。
「セイカ二ついいか?」。
「別にいいですけど?」
少し間を空け照れくさそうに俺は一番の疑問を始めに聞いた。
「あの・・・・なんで俺はセイカに膝枕されていて、なんでユキまでいるんだ?」
「ユキさんとはたまたまで、膝枕はユキさんが・・・膝枕すると回復力があがるとか言っていてそれで・・・」
なるほどユキの悪知恵か・・・・・・だがありがと。
しばらくしてコハクの意識がようやく戻りセイカと別れ俺たちは一階ギルドに降りた。
一階に降りギルド内を一望すると一番角の席にサクラは座っていた。
「ユキ サクラ明日って予定あるか?」
座ってからすぐ聞くとユキは仕事のスケジュール表を見て確認すると顔を見合わせユキとサクラは答えた。
「「特にないです」」
まぁ事前にセイカにお願いしてその日だけはシフトを代わってくれるようにお願いしたから無いことは知っていた。
手を前に組み予約していたクエストの件について話し始めた。
「実は、明日クエスト行くんだけど、ユキとサクラ来ないか?」
クエストのことはまだ限られた人にしか言っていない、当然コハクにも言っていない。
こいつに言うとクエスト取り消しをされるからだ。
「私たちはとくに予定がないからいいよ、ねぇ?」
顔を見合わせサクラはユキの返事を待った。
二人はやる気満々だが、問題は隣にいる奴だ。
さっきからずっと下を向き死んだ魚の目をしていた。
しかし毎度のことで段々とこいつの扱いに慣れてきた。肩を叩き耳元でユキたちには聞こえないように案をコハクに提案した。
「今回のクエスト終わったら、何でもいいから買ってあげるからな?」
「シキ!早く行こ!」
「「ちょろいな」」
ユキと顔を見合わせまったく同じタイミングで言った。
ふとさっきから一言もしゃべらないサクラのことが気になり、横を向くと満面の笑みを零し妄想に浸っていた。
・・・そっとしとこう。
翌朝目が覚めるとコハクが俺の布団の中に侵入しており、両手でギュッと俺の腕を握っていた。
まるで中学校二年の林間合宿のときのように・・・
それはハイキングがあった二日目の出来事だった、いつもなら二時まで余裕で起きていれるはずが歩きつかれたのか、二十三時に俺は寝ていた。
朝誰よりも早く起きると俺の布団の中にそこまで仲良くない男子がいた、まだここまでなら時々あることだ、俺が寝ていたところは布団だ、寝相が悪くて俺の布団に入ってきただけだと・・・
しかしその男子が寝ていたところは二段ベットの一番上だった、しかもその男子には彼氏
さんがいたと言う・・・
だが今回はまだ女子だったのが幸いだ。
「おい、起きろ」
軽く頬を二 三回叩いたが起きる気配もなく気持ちよさそうに眠っていた。
一階に降りると約束時間の三十分前というのにとっくにユキとサクラ二人とも待っていた。
本来なら約束時間より早く着いているのはいいのだが、まだ二階で気持ちよく眠っているコハクがいるせいで当分待たせる形になってしまった。
二階へ急いで戻り無理やり起こし始めた。
起こす方法は簡単だ、まず布団を全部撤去し次に口の中にタバスコを入れるだけだ、これだけでだいたいの人間は起きる。
そっとコハクを起こし口の中に少しずつタバスコを流していれた、口の中にタバスコを入れてから数秒たった頃か体から汗が湧き出てきた。
汗が流れ始めすぐだった、コハクは飛び上がるように起きた。
全身の毛穴から汗が湧き出ていた。念のため持っていた水を手に取りがぶ飲みし始めた。
これは見ものだ。
ようやく落ち着いたのか知らないが、だが滑舌が回っていなかった。
「フキ⁉ほ、ほれ何!辛い!」
人の名前を空っぽのフキみたいに言うな。
手に持っていたタバスコを見ると即座に状況を整理し、指を差し問い詰めてきた。
「タバスコを入れたのね!シキ!」
「はいはい、入れました」
軽く受け流すとコハクの手を取り一階に降りた。
「ちょ!シキどこ行くの!」
ひどく抵抗してきたがそれも全部スルーした。
一階に着くとようやく状況を飲み込めたのか抵抗をやめた。
全員揃いやっとクエストのモンスターがいる東巨大樹の森に向かい始めた。
「ねぇ、シキクエストのモンスターって
何?」
「お前昨日言っただろうが・・・」
またこれだ、コハクは一日立てば・・・いや三歩あるいただけで物事をわすれることがある、この前買い物を頼んだときもこいつはカジノのルーレットで一点賭けをしたと言い戻ってきたことがある、だがこいつの腹がたったところは千円を三万に変えたところだ。
怒って良いのかどっちなのか相当迷ったが結局全部没収した。
「はぁ、昨日言っただろモンスターはスライムだと、作戦はいつも同じだと」
ため息をして昨日話したことを四十文字以内で完結させた。
俺の話を搔き消すかのようにコハクは南の森へ通じる道を指差した。
「ねぇ、シキあの人数が多いパーティなのかな?あれなに?」
指差す方を見ると明らかに俺たちよりも格上な冒険者が約二十人はいた。
ふとこの間、セイカから聞いた話が頭を過ぎった。
「たぶんあのパーティは、最近に現れたキメラの退治用に作られたパーティだろう、全員エリート冒険者なんだよ、たぶんセイカもいるはずだ」
確信はなかった、実際詳しい話を聞いたわけでもないただ南の森だけは近づくなと警告されたのは覚えている。
ここで一つの疑問が頭を過ぎった。
手で顎を支え考えているとコハクに袖を引っ張られ集中が途切れた。
「シキ、キメラって私達が行く森にいるの?」
「ハァ、いないよ、俺達が行くのは東の巨大樹の森、キメラがいる森は南の巨大樹の森」
気づくと俺達の目的地の東の巨大樹の森の目の前だった。
中に入り奥に行くが、行っても行ってもスライムどころか動物さえ一体もいなかった。
不自然なほどに、しばらく奥に行くと木は倒され至る場所に切り傷がついていた。
そのときさっきから俺の頭にずっと残っていた疑問がようやく解けた。
傷跡を見るとコハクは俺の後ろに隠れそっと手を握ってきた。
「シ、シキもう帰ろ?」
わずかながらに地響きが聞こえてきた、段々大きくなりまるで俺たちがいる場所に向かっていくかのように、明らかにスライムでも動物でもない大きな足音だ。
その場に立ち止まりみな武器を取り出し剣をかまえた。
そのときコハクの後ろに大きな影が見え、大きな影と共に上から動物の足のようなものがコハクを潰すかのように思いっきり踏んできた。
とっさにコハクの手を引っ張り回避した、さっきまでコハクがいたところは元の地面より段が低くなっておりくっきりと足跡が出来ていた。
影を見上げていくと本来ならここにいないはずのキメラが唸り声を大きくし、人五人分の大きさに鋭い爪そして強靭な顎。
キメラを見てようやく疑問が解けた・・・いや本来ならスライムがいなかった時点でわかりきっていたことだ。
唖然としているともう片方の足で踏もうとしてきた。
リーチが早かった・・・避けれないと判断しコハクを攻撃範囲外に突き飛ばし、剣で足を受け止めた。
多少剣のレベルがあがり砕けはしなかったがなんとか受け止めたがここからが問題だった。
「おい!コハク全員に攻撃上昇魔法と移動魔法を!早く、魔法が掛かった瞬間全速力で来た道を引き返せ!」
スクワット状態までに追い込まれながらも、的確に指示をした。
コハクはユキたちがいる前方にもどり魔法を唱えた。
「剣の舞」
「リフレクト」・・・移動スピード上昇+二分の一の体積になる。
俺たちの下には赤色の魔方陣と青色の魔方陣が同時に現れ紫の魔方陣へと変貌した。
魔法が発動したのを見るとユキはキメラの頭向けてロケットランチーを一発撃った。
こんなにデカイ的を外すはずなく、頭にクリーンヒットした。
一瞬力が弱まり足をはらいどけコハクの手を掴みもしものために持っていた発炎筒を投げ来た道を全速力で引き返した。
だが発炎筒の期限が切れていたのか知らないが不発で終わった。
最悪なことに予備の発炎筒もない。
まっすぐ逃げても追いつかれて殺されるのは目に見えている。
二択だった、このままここに隠れやりすごすか、だが発炎筒は不発で終わっているから絶望的だ。危険を犯してでも逃げるか・・・
空を見ると太陽が段々と隠れていき夕方になっていき、薄暗くなっていった。
暗くなり様子を伺っているとユキがいきなり後ろに向かって発砲したそれも広範囲に。
唐突なことに何も言えないでいると、数発が貫通もせず何かに当たった。
しかしそこには何もいなくただ弾だけがどこかに消えた。
ユキがリロードしそしていつもより低くそして太い声で叫んだ。
「来ます!」
予告をした瞬間大きな唸り声と共に鋭い爪が横から切り裂いてきた。
突然のことに、避けれないと判断しコハクたちを後ろに蹴飛ばした。
剣でガードし後ろに下がったが爪が剣にかすった瞬間・・・
剣は砕け散った。
この剣もはずれか・・・
そんな俺を見てユキとサクラはコハクを連れ後方へと下がり撃ちはじめた。
俺たちはキメラを甘く見ていた、こいつはキメラだ・・・ライオン 羊 ヘビ以外にもいてもおかしくない。
ライオンの頭から生えていた昆虫類の大顎と背後にいたのに見れなかったことを察するに。
「ニジイロクワガタか・・・」
ニジイロクワガタには迷彩効果があると言われている、カラス キツネ フクロウなどの天敵から隠れるための能力。
急いで俺も後方に下がった。
「シキこれからどうするの!」
あの爪相手に近距離戦をしたところで殺されるのは確実だ。
「ユキ銃は!コハクは魔法を」
「後ろに!」
後ろには三丁アサルトライフルが、俺は八十九式小銃(アサルトライフル)を手にしてキメラ向けて撃ちはじめた。
サクラはひたすらスナイパーライフルを使って顔を打ち抜いている、さらに「凍結」を使い動きを止めようとするが一向に動きを止めない。
撃っても撃ってもキメラが倒れる気配はない。
「シキ君・・・私もそろそろ限界かも・・・魔力がもう・・・」
ユキの呼吸が乱れ始めた。
それもそうださっきから魔力の消費が一番多いロケットランチャーなど色々な銃を撃っている、いくら固有スキルだと言え限界はもうとに来ているはずだ。
弾の気道を見ていると当たった場所は確かに出血している。
だが出血はものの数秒で止まっている。
「反則だろ・・・」
プラナリアの再生能力まで持っていたのは予想外というか反則だ。
どうする どうする どうする どうする・・・
一つ策ならある、だが失敗したら全員死ぬ。
どうせ死ぬなら・・・
唇を強く噛み締め、全員に聞こえるように勇気を搾り出し言った。
「みんな!よく聞け、こいつは倒せない!だが方法ならある・・・サクラこいつを凍らせること出来るか!」
撃ちながら俺は俺たちより後方にいるサクラに叫び聞いた。
「た、たぶん行けます!」
だったら行くしかない。
「ユキ時間稼げるか?」
もうすでに呼吸が上がり過呼吸状態になりながらも頷いた。
「サクラ俺が言ったタイミングで撃て!」
そう言い残し後方で支援しているコハクの場所に下がった。
「剣をくれ!」
戻った理由は剣だ、一番最初この世界に来たときコハクは言った。
「もしかしたら伝説の剣になるかもしれない剣かも知れません」となら壊せばいいだけの話だ。
大量に召還した剣を「異常」を使い片っ端から真っ二つに壊し始めた。
「シキ君まだ・・・」
ユキの声が段々と小さくなっていっている、木に体を支えなんとか撃っている状態だ。
何十本折ったのかもうわからないほど壊した、残りの魔力のことも考えると多くて二 三本が限界だ。
俺達に気づいたのかユキを無視してこちらに向けてキメラが走ってきた。
ユキは銃を持ったまま魔力切れを起こし、その場で倒れこんでいた。
頼む・・・来てくれ。
半分に折ろうとした瞬間剣の切れ目から光が漏れ次第に光が全体をまとった。
そして次第に剣の形状が変化していき、日本刀のように変わった。
光がこぼれ落ちやがて姿を露わにして行く。触っただけでわかる名刀だ。
ゆっくりと立ち鞘を抜いた。
「サクラ今だ!」
一発の銃弾が俺を無視しキメラの喉を貫く。そこから侵食するかのようにじわじわと凍らせ動きを鈍らせやがて体全体に広がる。
しかしもって数秒だ、サクラの魔力で凍っているだけで魔力が切れればまたキメラは活動を再開する。
プラナリアは確かに不死身に近いが砕け散った場合再生するのはまず不可能。
残った魔力を「異常」に使い刀 腕に魔力をまわした。
そして勢いよく走りだし、首を斬り胴体を斬り何度も何度も切りつけた、魔力が切れるまで。
「ダ、ダメ・・・もう限界・・・」
サクラはそういい残し凍結が解除された。
そして俺もキメラの砕けた肉片の近くで前のめりに倒れた。
殺したと確信した。
しかし―
誤算だったことが一つだけあった。
それはキメラの腕だった、腕から見る見るうちに形を取り戻し上半身だけ再生したのだ。
「シキ!逃げて!」
逃げろと言われても・・・からだが・・・
回復するために栄養を取るのか俺の体を食おうとした。
そのとき―――
『チェインライトニング』
どっかで聞いたことがある声が聞こえた・・・
次の瞬間キメラに向かってまるで生きているかのような雷がキメラを飲み込んだ。
声がしたほうを向くと、そこにはさっき見た南の森に行ったエリート冒険者たちがゾロゾロと茂みから出てきた、そこの中から出てきたのは息を荒くしたセイカだった。
「セイカ、来るの遅いよー」
過労時で動く手で起き上がろうとしたとき、どこからともなく泣きながらコハクが飛び込み抱きついてきた。
「よかった・・・よかった、生きていてくれてる!」
コハクの魔力を少し奪いすこしぎこちないが、コハクの頭を優しく撫でた。
セイカたちは俺の方に来て俺と目線を合わせるためなのかしゃがんだ。
「よくここがわかったな・・・」
声を掠れながらも言うとセイカはある場所を指差した。
「シキさんですよね?発煙弾投げて居場所教えてくれたの・・・実際その場所行って見ると発煙弾が潰れていたからキメラだとわかったんです」
指を差した方角には赤色の煙があった。
キメラが踏んでくれなきゃ、今頃キメラの胃袋の中か・・・
色々話しているとユキを抱えながらサクラが帰ってきた。
「サクラ大丈夫かそれにユキも・・・」
「ええ大丈夫です・・・」
魔力が切れたのかユキはしゃべる気力さえ残っていなかった。
いかにも大丈夫でなさそうに言われ俺は苦笑した、ふとコハクを見ると泣きつかれ寝てしまった、目に掛かっている髪をそっとどけた。
「ハァ、まったく・・・ありがと・・・コハク・・・」
しばらく俺たちは事情説明のためその場で留まり、どうしてこうなったかしゃべり始めた。
ユキも回復したのか今だとすっかり元気でいる。
サクラと言えばコハクを膝枕し、ニヤニヤと寝顔を楽しんでいる最中だ。
ふとコハクはゆっくりと起き目を掻きながらこちらへ、近づいてくる。
そんな様子に興奮したのかサクラはその場で気絶しかけた。
「シキ~剣見せて~」
「大事に触れよ・・・」
まぁ言わなくてもよかったような気がする、さすがに伝説の剣を折ることもできないし。
それに見るだけだと言っている。
今回の件でもうすこしだけコハクへの態度を改めて良いと思った。
パキッ・・・・
「ん?」
ゆっくり音がしたほうに顔を傾けると唖然とした顔でコハクは座っていた。
手の元へ顔を下げていると、俺の剣が綺麗に真っ二つに折れていた。
「え?」
言葉が出ない。
「シキ・・・ご、ごめんね・・・強度を試したら折れちゃった」
「お、折れるわけないだろうがアァァァァァァァ――――――⁉」
折れた剣をすぐさま回収して直そうとしたが、もう手遅れだった。
見る見るうちに剣は光になっていき完全にこの世からなくなってしまった。
「こ、このバカ!アホ!使えない巫女!お前への態度なんてこれで十分だ‼」
あぁ俺が憧れた冒険者にはいつなれるのか……
使えない巫女と引きこもりニート 琥珀 @kohakuken
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