第3話

戦場へ俺は踏み入れた。

レストランに着くたびなぜかコハクは中腰になる。

そんなことはお構いなくレストランに入った、コハクは入るたび誰かを警戒しているのかあたりを見渡し、いないのを確認するといつもの破天荒のコハクに戻っていた。

カウンターに座り注文した。


「すみません 二人で二千円ぐらいで食べられるものをください」


ワンコインからだいぶん進化したと思う、あの時はあまりのお金のなさに保険金詐欺でもやろうかと思う勢いでいたから、やっとここまで来たという実感が沸く。

注文してから、明日のことについて少しではあるが話し始めた。


「明日はもう一度コウモリの群れ討伐のクエストに行こうと思うんだが」


俺が言うたび嫌そうな顔をして一言。


「嫌です」

「行きます」

「嫌です」


「絶対行きます、反論はなし、それに今回はセイカも来るから安心しろ。あいつ魔導師だから、お前よりは全然使えるから大丈夫」


なぜだろうさっきまでの顔とは一転、絶望の顔から希望に変わっていた。

そうこうしているうちに店員が来た。


「こちらはてんぷらの盛り付けになります ご飯のおかわりは自由なので言ってください」


この世界に来て、初めてまともな食事をすることが出来た。


「シキ、シキ、食べないの?」


言っているが、コハクはもうすでに食べ始めていた。

食い意地に関してはこいつの上に出るものはいないな。


「お前なんで、先に食べてるんだよ」


怒りながら、俺も食べ始めた。おれが店員を呼んだとたんに、コハクは体を低く頭を抱え怯え始めた。

いつもとは明らかに違う姿を見て、見ていた方向を向いた。

そこにはいかついおっさんがこちらに近づいてきた。


「お客様何でしょうか?」


「い・・・いつもお世話になっています」


あのコハクが自分から挨拶しにいくなんて。

挨拶をし終わると俺の耳元でぼそぼそと言った。

驚きながらそのおっさんを見た。

そのおっさんは、コハクをずっと睨みつけていた。


「あ、すみません ご飯のおかわりください」


とりあえず話を変えようととっさに言った。

するとさっきまでのウサギを狩る目から愛らしい目に変わり笑顔で俺の方を見てた。

おっさんは、キッチンのほうに消えていった。


「誰か知ってるのか?」


耳元でコハクだけに聞こえる声で聞くと恐る恐る口を開いた。


「あの人は、私の教官です・・・」


ついキッチンにいるそのおっさんを二度見してしまう。


「え、あの人が お前の教官なのか?」


てか教官ってなんだよ。

すると、会話をしている最中におっさんがご飯を持ってきた。


「お客様、ご飯のおかわりです ごゆっくり」


再びコハクを睨みつけキッチンに戻っていった。

目でおっさんを追いかけているとコハクは俺の袖を引いた。


「シキ、もう帰ろ」


いつもにまして弱気だ。

怯えているコハクを見て、仕方なく急いでご飯を口にほお張り、レストランを出た。

レストランを出たが、まだコハクは怯えていた。

部屋に戻るとコハクは毛布に包まったまま、ブルブル震えていた。

しばらくして震えが止まったのか、毛布から顔を出した。

そんなコハクを見かねて外に強制的に外に連れ出した。

人気のない河川敷きを歩いている途中あのおっさんについて少し触れた。


「あの人そんなに怖いのか?」


「怖いって言うレベルじゃない・・・」


それを聞きその場に立ち止まり顎に手を置きしばらく考えた。


「月曜日から、バイト変えるか?」


提案すると静かに何も言わずただうなずいた。


「じゃあどこでバイトするんだ?」


ずっと下を向いているコハクに聞くと、ずっと閉ざしていた口を開け言葉を発した。


「シキが働いているところがいい・・・」


下を向いているコハクの頭を静かに撫でた、ただ一言だけ言って。


「今日までよくがんばった・・・」


一言だけ言うと、コハクは泣き始めた一滴 二滴 三滴と。


「怖かったよ 疲れた もう本当怖かった」


泣いているコハクを見て、明らかに今までとは違うことだけ理解はしていた。服の袖で涙を拭いた。

そして俺はコハクの手を引き、何も言わず部屋に戻った。

部屋についてコハクは、布団に寝転がってすぐに寝てしまった。

寝たのを確認すると俺は一階に降り、セイカに事情を説明した。


「ごめん 月曜日からコハクをここで働かせてもらってもいいか?」


聞くと嫌な顔をせず答えてくれた。


「別にいいですよ ちょうど人手も足りませんから」


お礼を言い、コハクを辞めさせるためにレストランに向かった。


レストランに着くたび俺は店員を呼び止め。


「すみません、店長いますか」


聞くと店員が、俺を接客室に連れて行った。店員は怯えながら言った。


「今から店長を呼んでくるので、座って待ってください」


ソファで待っているとドアが開いた。

ドア元を見ると、どこかで見たことのある、あのおっさんが入ってきた。


「あの店長は?」


おっさんは俺を睨めつけた、そして一言。


「俺が店長だが 何の用だ?」


目が点になった、まさかの原因を作った人が店長だったとは。

すると目の前のソファに腰を掛け、足と手を組み急かしてきた。


「早く用件を言え時間の無駄だ」


完全に俺の頭の中はパニック状態だ、慌てながらも一言ずつ言った。


「こ、ここで働いているコハクって言う子をやめさせたいんですけどいいですか?」


こちらの要求を言うとおっさんは再度睨みつける。


「ウチも人手が足りないんだ 急にやめると言われても無理な相談だな」


「お願いします」


コハクと同様に相手が言い終わる前に言い手を膝に置き頭を下げる。


「断る!」


「お願いします」

「ダメだ 今すぐこの部屋から出て行け!」


おっさんは立ち上がり上から圧力をかけるかの用に言ってきた。

がなぜかここで俺のくだらないプライドがこのままでは帰れないと言い、土下座までした。


「お願いします!」


深いため息のあと腰に手をおき何か言い始めた。


「仕方ない、ただしお前がここで働くか?」

「それは無理です」


即答してしまった。おもわず言ってしまったことに店長は苦笑だ。


「俺に反論するやつなんて始めて見た……いいだろう、あいつによろしく言っといてくれ」

あれ―案外優しいんではないか?


「あ、ありがとうございます」


接客室を出て、まっすぐ部屋に向かった。

人間目上の相手に勝ったとき気分が飛び上がるとと言う、今日身を持って知った。

部屋に入り第一声は。


「お前月曜日からレストランで働かなくてもいいぞ」


そんなにうれしかったのか子供みたいに飛び跳ね抱きついてきた。

まぁこれはこれとして結構いいな・・・


「ありがとう・・・シキ」


しばらくすると怖くなくなったのか安心したのかまた寝てしまった。


翌朝―


一階のギルド内の社交場に腰を下ろし、一人腕を組み今日のクエストの作戦を考えていた。

いや作戦というよりは、優先目標だ。


第一条件はまずは命だ・・・本音を言うと死にたくない。

第二条件は俺自身のレベルアップ。

この剣の耐久力はクッキーに等しい、なら自分が強くなればいいだけの話。

そしてコハクの魔法書のレベルアップだ、俺とこいつなら悔しいがこいつの方が戦力になる。

だがあのバカが弱かったら意味がない。

第三条件はクエストのクリアだ。

このままだと一生このゲームの中から出られないでずっとここで暮らすことになる。


考えテーブルを叩き同時にしゃべり始めた。


「作戦を伝える、まず三人で一緒に行動する そしてコウモリが出たらセイカに弱らせてもらう。弱ったところを俺たちが倒して経験地を俺たちももらう作戦だ。

わかったな。このクエストが終わったらパーティを募集する」

前のめりになり、バカでもわかるように大雑把に説明した。

それとこれからのことを見越してパーティ募集のことについても事前に説明した。

すると説明を聞いて手を叩き煽るかのようにまた一言余計なことを。

「さすがシキ、意地が悪さでは右に出る人なんっていないわ」

「おい今なんか言わなかったか?」

「言っていない」

時間を見ると待ち合わせ時刻は当に過ぎていた。セイカとの約束場所である、ギルド前の噴水に向かった。

着くとセイカが先に着いて座っていた。

セイカの私服を見ると見とれてしまった。可憐で清潔感がありどこからどう見ても俺の好みに、どストレートだ。

それに比べてコハクはいつもと同じ巫女服、もっと別の服も着ればいいのにべースは可愛

いのに。

思わずセイカとコハクを見返していると左隣にいるコハクにキツイ一言が。

「ちょっとシキ、 目が犯罪者の目をしていたわよ」

「うるさい」

反論はできない、現に一回鏡の前で見たことがあるからだ。

すると俺たちに気づきわざわざこっちに来てしゃべりかけてきた。

「おはようございます、シキさん コハクさん」

いつか、こんな彼女が欲しい・・・

「おはよう、今日はありがとな」

「別にいいですよ」

髪を耳にかけ、さっきまで隠れていた耳があらわになった。

うん・・・最高。

俺は少し同様しながらも平然を装い朝から考えた作戦をぺらぺらと話はじめた。

「これでお願いできる?」

「わかりました」

まずは一安心だ。俺は念のためセイカに質問した。

「いちおう聞くが、セイカのレベルってレベルいくつなんだ?俺たちのレベル一だけど」

冒険者の証でもある冒険者カードを胸ポケットから取り出し。

「私ですか⁉」

冒険者の証でもある冒険者カードを胸ポケットから取り出し見た。

うん、 照れ顔も最高。

「私のレベルは・・・六」

六レベかな?

「六十五で、武器が七十です!」

うん・・・・・・ん?

目が点になった、それはそうだろう俺達とセイカとのレベル差は六十以上の差があるんだから。

「え、そのレベルで悪魔は倒せなかったのか?」

聞くと苦笑いしながら答えてくれた。

「はい、私と同じぐらいのレベル、二十人ぐらいで戦いましたが負けました」

そのことを聞き気が長くなった、いや長いなどの問題ではない。

右側にいるコハクの耳元で再度確認を取った。


「おい何が簡単に戻れるだ、こんなの無理ゲーだろう」


必死で俺の目を見ないようにしようとしているが、すっと俺は信望し目を見続けた。

すると開き直ったかのように泣き顔になりながら必死に言い訳を並べた。


「ごめんなさい、だってだって知らなかったんだもん」


見事な言い訳を並べ謝ってくるコハクを見て、どうでもよく感じ無視した。

そんな俺たちの話しを見てセイカはさっきからずっと苦笑いをしていた。


「聞いてもいいか?セイカって今何歳なんだ?」


ふと気になり、歩く最中で質問した。

「いま十九です」


年齢を聞くと今までの出来事を思い出しすぐさま謝った。


「ごめんなさい!今まで敬語でしゃべらなくて」


頭を下げて謝っている俺を見て、を前でわたわたとしてしながら返事に困りながら答えた。


「別にいいですよ、私も敬語よりこっちがいいので」


頭を上げた、話しているうちに一週間ぶりに例の洞窟に着いた。

俺達が眺めているとセイカは一人洞窟の中に入って行った。

暗闇・・・女子・・・いま絶対手握っても嫌がらないよね?

突然奇声が聞こえた、どうやら俺たちが入ってきたのかわかったのか、羽をバタバタと空気を切る音が段々と近づいてきた。

剣を抜き警戒態勢に入った、すると洞窟の奥からコウモリの群れがこちら目掛けて飛び込んできた。

肉眼でコウモリが来ていることを確認したセイカは、俺たちより一歩手前に出た。

当然コウモリのターゲットは孤立しているセイカだ。

一直線にセイカ目掛けて二十匹ぐらいのコウモリが突進してきた。

庇おうと手を伸ばした。


「危ない!」


助けようとするが時は遅く、身代わりになる時間さえなかった。

コウモリは一直線に来たがセイカはたった一言唱えた。


『ライトニング………』


セイカが魔法を唱えた瞬間コウモリは一斉に感電状態になった。そして振り返り一言。


「今のうちにどうぞ」


なんだろうこの虚しさは・・・

俺達は感電しているコウモリを片っ端からコウモリの討伐 いや駆逐を始めた。

そのあともセイカの後ろにコソコソと隠れ、駆除を再開した。

そして広い部屋のような場所に辿りついた。

そのとき先頭を行っていたセイカが急に立ち止まり手でジェスチャしてきた。

止まって下さいと。

なにがあるか気になり岩の陰から洞窟の奥を覗いた。

洞窟の奥にはさっきまでのコウモリとは桁にならないぐらい大きい奴が一匹いた、十倍ぐらいのあるのだろうか洞窟の天井に張り付いていた。

たぶんボスコウモリだろう。

その周囲にもさっきと同じ大きさのコウモリがボスコウモリを守るかのように囲い張り付いていた。

見とれているとセイカは勢いよく走り魔法が使える圏内まで行きさっきと同様に同じ魔法を唱えた。


『ライトニング』


唱えた瞬間さっきとどうように次々と天井から落ちていくが、体が大きかったボスコウモリは完全には感電しなかった、俺たちに気づいたのかボスコウモリは奇声を発した、洞窟内で奇声が反射した。

たまらず耳を塞いだ。

奇声が鳴っているにも関わらず、セイカは堂々と俺達を守るかのように立っていた。

いまだに鳴っている最中セイカは俺の耳元で「手伝ってください」と言った。

はっきりとは聞こえなかったが押さえながら合図地をうった。

しばらくして段々と奇声が鳴り止んでいき完全に止まった瞬間セイカは俺の右手側に来、恋人繋ぎをした。

手を握った瞬間、体温が直に伝わり、こっちの胸の鼓動も相手に伝わっているかと思った。

え?・・・ん?これどこかで・・・

するとセイカは手を握りながらまた一歩一歩前に出て、握った腕を前に突き出し唱えた。


『バ○ス』


え・・・・・それダメじゃない・・・パクリじゃない?

ム○カ大佐を滅ぼす呪文を唱えた、するとボスコウモリが一瞬で火に包まれ地面に倒れこんだ。

そんな状況を見ていた俺とコハクは改めてバ○スの恐ろしさを知った。

セイカは俺達が唖然している様子を見て何かに気づきしゃべった


「あ、ごめんなさいこれだと倒せませんね」


繋いでいた手を解き指で一つ。

指を「パチン」と鳴らすとボスコウモリの体を覆うっていた火は一瞬で消えた。


「はいこれで倒せますね」


俺達のほうを振り向き笑顔で言った。

言われ二人虚しくコウモリに徐々にダメージを与え、コウモリは光に消えた。

なんだか無性に疲れた気がする。


洞窟を出るとコハクは俺の肩を叩き聞いてきた。


「シキ、レベルどれだけ上がった?」


聞かれ胸ポケットから冒険者カードを取り出した。

カードが更新されていた。


「えーと、レベルは三上がってこの剣が三になった、お前はどうだった?」


「私も同じ~」


しばらく洞窟の前でセイカと無駄話をしているとコハクは丘でスヤスヤと寝てしまっていた。

このまま置いていくという手段もあったがセイカがいる前ではそんな事は出来ない、仕方が無く背中に背よってギルドへ帰った。


「今日は最後まで助けもらってありがと」


右となりにいるセイカに告げると後ろで手を組み笑顔で。


「別にいいですよ、またなんかあったときは言ってください」


この時間が何時間でも続けばいいと思っていたが楽しい時間はすぐ終わる、いつもなら三十分ぐらいの道のりも今は五分に感じる。

寝ているコハクを部屋に置き急ぎ足で報酬を受け取りに行った。


「すいません、終わりました」


店員にクエスト応募用紙とボスを倒したときに、落ちた紙切れを渡した。

今から思うと大胆な設定だよな、この世界。


「お待たせしましたこちらが報酬の一万です。おつかれさまでした」


バイトの給料の二倍も入っていた、報酬を受け取るとギルド内で座っているセイカを引っ張り一緒に夕食を食べにいった。


「シキさん私今日お金持っていませんよ!」


「今日は俺がおごりますか。大丈夫ですよ」


なんならこのまま結婚までいけるのでは?

くだらないことを考えながら店内に入った。

店内のカウンターへと案内された。


「すいません、注文いいですか、えーと、若鶏のから揚げとお茶を一つ。セイカは何を飲む?」


「じゃあ、ビールと枝豆をください」


注文するとあることが引っかかり、右の席に座っているセイカに質問した。


「アルコールって何歳から飲めるんだ?」


日本では二十歳からだがこの世界でどうなのか疑問だ。


「十八からアルコールは飲めますけどそれがなにか?」


そんなに不思議そうに言われ日本のことについて話しはじめた。


「俺の故郷ではアルコールとか二十歳になるまで飲めないんだ、タバコも二十歳からだし、だからちょっと気になって」


言うと納得した顔をした。


「そのたばこはわかりませんが、そうなんですね?」


ややタバコのイントネーションが変わっていて、もう一度聞きたい。

くだらない会話をしている間に頼んだ物が来た。

俺は片手に飲み物を持ち、セイカはビールを両手で持ち乾杯した。


「「ではお疲れさまでした、乾杯!」」


セイカは枝豆を食べながらビールを飲んでいたコハクと違って食べ方が綺麗だ。

しばらくするとセイカの体が右左揺れ始めた。


「おい、セイカ大丈夫か?」


するとテーブルに肘を置きこれまでにないテンションで返事をした。


「なんですかー!シキさーん」


箸を落とし呆然とした。

はじめてアルコールの効果がここまで出ると知った。さっきまで冷静だったセイカをここまで変えるなんて。

そう考えていると酔いながらしゃべりかけてきた。


「なんで私だけこんなに仕事が多いんですか⁉」


急にセイカは仕事の愚痴をしゃべりだした。途惑いながらも愚痴を聞きできるだけ答えた。


「でもしょうがないじゃあないですか?冒険者の大半はセイカのこと好きな人が多いですし」


心の中で俺もそのなかにカウントしていた。


「私がかわいいからかなぁ」


苦笑いしながら答え合図地をうった。

しゃべっているとなぜか恋愛トークが始まった、酒の席ではよくあると言うが日本と同じくこの世界でもあるのは正直驚きだ。


「シキさんって付き会っている人とかいないんですか?」


セイカの声が多少真面目なトーンに戻ってきた。その質問をなぜか真面目に答えてしまう。


「い・ま・は、いません」


そう答えると顔の近くまで詰めよりからかうかのように。


「じゃあ私と付き合おうよ」


言ったことに驚きを隠せなかった。

まぁ確かに付き合うのは問題ない、てかむしろ付き合いたい。

頭の中で考えているとセイカは急に笑いだした。


「なに本気で考えているの? 冗談に決まっているでしょマジ面白いんですけど受ける!」


人間は酔うと別人に変わると言うがここまで変わるとは。

初めてコハクと同じレベルでムカついたその直後、セイカは俺の膝に倒れこんだ。


「おい、大丈夫か?」


膝を見ると可愛い寝顔でスウスウと気持ちよく寝てしまった。

やべぇ・・・カメラほしい。

本日二度目セイカを背中に背負い勢いよくレストランを出たのは良いが、家がわからない。

しかたがなく、俺たちの部屋にセイカを背負って向かった。

部屋に入るとまだコハクは寝ていた。セイカに毛布を掛けて一人で銭湯に向かった。


着くと風呂には誰もいなかった。

今日の疲れを湯船につかりながら癒し、湯船から出ると入り口からあのレストランのおっさんが入ってきた。

俺は一歩後ろに下がり湯船の中で隠れようとしようとしたが時はすでに遅く、おっさんと目が合ってしまった。


「おぉ あのときのガキじゃあないか」


言われた瞬間背筋が凍り、甲高い声で返事をした。


「はい・・・なんですか?」


怯えながら答えるとおっさんは真っ直ぐ湯船に入って来た。出ようとすると手をものすごい握力で握られ俺の右となりに来た。

「なんで出るんだ?もう少し入っていろよ」

そう言われ半分まで出ていた体を湯船に浸からせた、この気まずさから出ようと周りを見回してた。


「おい、まわりを見渡すな、他の客の迷惑だろうが」


突然言われまた心臓が止まりそうになる。


「いま自分たちだけしかいませんが?」


言い湯船から再度脱出しようと立ち上がると、俺の中にある危険信号が感知した。

今出たら確実に殺されると、怖気ついてしまった。

深いため息をしたのち、おっさんを見た。


「どうした?」


「なんで、そんなにもあいつがほしいですか?」


あいつとはコハクのことだ、ずっとなぜあいつのことを欲しがっていたか気になったからだ。

聞くとおっさんはしばらく考え無表情で言った。


「俺が・・・あいつのことが好きだからだ」


複雑な気持ちになったがそのまま何も考えないで湯船から立ち上がりおっさんに向かって言った。


「ぜ、絶対に!渡しませんから!」


自分でもそのとき取った行動はわからない。

おっさんは俺を見上げて慌てた顔でこちらを見る。


「なんで急に立った?」


自分で何を言っているからわからなくなったがそのまま話を進めた。


「あいつのどこがいいんですか?」


「なんでと言われても?でもあいつの笑った顔が好きだからかな?」


そのとき俺の脳裏にコハクの笑顔が思い浮かんだ。


「あいつは俺の仲間ですから無理です……絶対に」


この間とは違う形で断った。

すると奥から床を歩いてくる音が聞こえた。

風呂のドアが開いた瞬間俺とおっさんは急いで湯船に潜った、時刻を見ると当に営業時間は通り過ぎていた、ここの番台は一時間に一回見回りに来る。

だがそんな事では普通は潜らない、ここの銭湯は営業妨害と言う名目で金を取る、もしここでバレたら金を請求させるに違いない。

おっさんはジェスチャーをして伝えた。


「う え に 番 台 の 人 が い る」


俺も手を動かしジェスチャーで伝えた。


「ど う す る ん だ」


「ど う す る も こ う す る も 待 つ し か な い だ ろ う」


番台がいなくなることを待った。


1分後―――


「ほ ん と う に い る の か」


俺はもがき苦しみながら伝えた。

「ま だ」


おっさんにそう伝えられると俺は急いで返した。


「ガ チ で 限 界 な ん だ が」


さらに1分後―――


「も う 本 当 に 無 理」


と俺は送るとおっさんがジェスチャーで伝えてきたが、俺はその無視し湯船から出た。

そこには客どころか番台をいなかった。


「ハァ ハァ番・・・・・番台は?」


言うとおっさんも浮上してドヤ顔で言った。


「いなくなったな」


ドヤ顔で言うな!

おっさんはわかれ俺はギルドに戻った、こころと体を癒すはずがなにも癒せないで帰った。

ギルドの帰り道で俺はため息を付きながらおっさんのことを改め今日にことに関しては理解ができなかった。

ギルドに着くと暗く誰一人ともいなかった、気になりながら二階にある部屋に向かった。


「ただいま」


部屋に入りながら言うとまだコハクとセイカはまだ寝ていた、俺は部屋に隅で毛布に包まり寝た。

クエストと風呂の件で疲れているのか、目を閉じるとすぐ寝てしまった。


また昨日と同じ朝のように小うるさい声が耳元に聞こえた。


「シキ! シキ!」


目をかきながら俺は右となりに座っているコハクを見た。


「なんだよ」


コハクのほうを見ると少し寂しそうな顔をして俺の手を握っていた。


「なんで なんで他の女が寝ているの」


ん?他の女?

慌てて横を見るとそこにはスヤスヤと眠っているセイカが俺の手を握って寝ていた。


「なんだセイカだろ、別にいいだろお前と付き合ってるわけじゃないんだし」


「まぁそうだけど」


少し悲しげな表情を見せた。うるさかったのかセイカがゆっくりと起きはじめた。


「おはようございます シキさん、コハクさん」


「おはよう、セイカ 昨日はよく眠れたか?」


「あ、はいありがとうございます」


一階に下りると冒険者たちは驚きを隠せないでこちらを見てくる。周りの視線を気にしながらも更衣室で制服に着替え仕事に取り掛かった。

冒険者たちが散らかしたゴミを処分場に捨て、帰る途中で三人の冒険者に道を塞がれ囲まれた。


「おい、お前。何でお前なんかとセイカさんと気安くしゃべりかけているんだよ」


まったくモテル男は辛い。

しかしここで言い返すとまた面倒なことが起きる、来弱い感じに説明した。


「こ、これはですね。あのですね、この間、えーっとあのセイカさんが酔っ払って、それであのー、セイカさんの家が分からなくて。それで、ぼ、僕たちの部屋に連れて行ったんですよ」


しどろもどろになった感じで出来るだけ面倒にならないように。


「嘘つくなよ。お前何したのか分かってるのか? お前は邪魔なんだよ」


・・・人が何も解さないから偉そうな態度取るなよ、変な言いがかり付けやがって。

我慢の限界だ、それはそうだろう何もしていないのに、胸倉を掴み自分の言い分しか言ってこないで人の話しを聞こうともしていない。

ただでさえ怒らないであげていると言うのにこいつらは・・・

我慢の限界が来た俺は俺の胸倉を掴んでる男に向かって手を出しそうになった、すると帰りが遅く心配したのかセイカが通り過ぎた。


「あ、そこで何をしているんですか?シキさん」


セイカの声が聞こえた瞬間、胸倉を掴むのをやめ冒険者たちは一斉にセイカに振り向いた。


「おはようございます。セイカさん。今日もいい天気ですね」


俺はそんな光景を見ながら胸元の襟を綺麗に直した。

すると三人のうち一人が俺の耳元で脅迫した。


「おい、セイカさんにまた何かしたら、どうなるか分かってるよな。覚えとけよ!」


台詞が完全に雑魚キャラだ・・・

セイカは三人を見送り俺のほうを振り返った。


「さぁ、シキさん。仕事に戻りますよ」


手を引かれ急ぎ足で仕事に戻った。そして戻る途中セイカの口が開いた。


「あの人たちには気をつけてくださいね。あの人たちは私のストーカーですから。私も何度か危ない目にあったんですよ。なので、シキさんも気をつけてくださいね」


それは大体予想は出来ていた、こんな美人がいるんだ。

ストーカーの一人は二人はいることは想定内だ。


「そういえば、今日からですよね。コハクさんが受付でバイトをするのは?」


セイカに言われるまで今の今まで眼中になかった。


「あ、そうだな。コハクのことよろしく」


仕事が終わり、俺は二人が居る受付に向かった。

なぜか、クエストカウンターの周りには人だかり出来ていた、人と人の間か誰がいるか見たら、なぜかコハクは冒険者たちに囲まれていた。

どうしてこうなったのか、人だかりから離れたところにいるセイカに小声で聞いた。

「どうしたんだ。何でコハクが囲まれてるんだ?」

セイカは困り変わった顔でしばらく考えまとめて話した。


「えーっと、今日の朝のあの人たちが、今度はコハクさんのことが好きになっちゃったみたいで。それで、周りにいた冒険者たちも、便乗しちゃって。それで・・・」


なるほど、人間裏の顔を持つと言われるが全くとおりだ。


「理由は分かった。でこれからどうしようか。このままだと今度こそ俺は殺されるかもしれないぞ」


いや、確定だ。俺はその場から逃げるように離れようとコハクにばれないようにゆっくりとギルドを出ようとしたが、コハクは俺に気づき、大声で一言。


「シキ、お疲れ」

コハクが言うと、周りの冒険者たちが一斉に俺のことを振り返って見た。

あ、なんだかみなさん目が怖い・・・


「また、あんたか。次はどうなるか言ったよな」


また、あの冒険者たちに俺はいつの間にか囲まれてしまった。殺すが頭をよぎり周りの冒険者たちを振り切り、ギルドを飛び出した。


「おい、待て、お前らあいつを捕まえろ!捕まえたあかつきにはセイカさんとコハクちゃんからのほっぺにチュがあるぞ!」


「「ちょ!私達そんなこと言った、覚えないんだけど!」」


二人同時にまったく同じことを言ったが、欲望が開放した人間は止まらないとという。

セイカとコハクの話を無視して俺を追いかけてくる。

まるで犯罪者のように追われてしまった。

町を逃げ回っていると、偶然教官と出くわした。


「おぉ、新人。どうしてそんなに慌ててるんだ?」


答える暇もなく、走り続けた。持続的に走っているにも関わらず一瞬のうちに差が縮まってきた。

ついには俺と平行だ、それも息切れ一つなく。


「おい、どうしたんだ。答えろ新人!」


このまま着いてきてもらっても困る、息を上げながら必死扱いて説明し始めた


「はぁ、はぁ・・・後ろ見たら分かると思います」


言ったことに気づき後ろを振り返ると教官は見て驚いた。


「おい、新人…これはどういうことだ!」


「し、知りませんって・・・」


教官の理解力がないことにイライラしながら、逃げ切れないことを察し最後の力を振り絞り言った。


「た、助けてください」


体力の限界だった、ここ数年まともに運動をしていなかった俺がよくここまで走れたことに自分でも驚きだ。


「分からんが、今回は助けてやる」


角を曲がり細い路地に入った。

数年振りの本気の鬼ごっこでふくらはぎパンパンだった、崩れ落ちるかのようにその場に座りこんだ。

路地裏から後ろを見ると教官は一人立ち止まり、鬼のように追いかけてくる冒険者たちを迎え撃った。


「おい、あいつに手を出してみろ。俺がお前らを天国へ送ってやる・・・」


殺意全開でこの一言だ。冒険者たちは恐怖を感じ、諦め戻って行った。


「これでいいか?」


息切れが半端なかった、走っている最中よりも走り終わった方がきついとよく言われるが今日改めて把握した。


「ハァハァ、あ、ありがとうございます。教官」


ようやく冒険者たちとの本当の鬼ごっこを終え、ゆっくりではあったが部屋に戻った。


「あぁ、お帰り シキ。大丈夫だった?」


仰向きの状態で本を手に、相変わらずコハクはのんびりした口調で聞いてきた。


「大丈夫なわけ、ないだろうが」


荷物を降ろしイスに座りこみぐったりとしながら、あの後どうなったか聞いた。


「お前は大丈夫だったのか?」



「うん。全然大丈夫だったよ。シキが帰ってくる少し前にあの子(冒険者)たちが、私たちに謝ってきたから」


「何でお前に謝るんだよ。俺に謝れよ!」


誰に怒っていいのか分からずコハクにキレてしまった。


「そんなに怒らないで、シキ。あの子たちそんなに悪い人たちじゃないんだから」


なにを思ったのかコハクは冒険者たちを庇った。


「お前、本当の鬼ごっこやってみろ?言っておくが教官がいなかったら、俺は今頃あいつらにまだ追われている身だぞ」


「あっそ。シキご飯食べに行こう」


怒りを無視して、コハクは先にレストランに行ってしまった。自分の顔がばれないように、帽子を深くかぶってレストランに向かった。


「シキ、何で帽子被っているの?」


「ほっとけ」


まだイライラしている俺をコハクは冷ややかな目で見てくる。


「なんだよ。顔になんか付いているのか?」


「別にー。イライラしているなーって」


当たり前だろうがこっちは鬼ごっこして、謝罪の一言もないんだから。


「ハァーあいつら。さっさとこんな世界出て行きたい」


「ん、今なんか言った?」


「なんにも」


「シキ、明日はどうするの?」


「当たり前のことを聞くな。もちろんバイトだ。ただでさえ金が無いのに、働く以外何するつもりなんだ」


正論を言うとコハクは黙る。


朝起きるとコハクと俺の顔がすぐ近くにあった。

そんなことが俺の人生の中で起きるとは思っていなかったが、こいつなのが残念だ。

ギルドに着くとこないだの冒険者たちがコハクを迎えに来ていた。


「おはようございますコハクちゃん!」


なぜ「ちゃん」付け・・・

一斉にコハクに挨拶をしてきた。それを無視し教官の所に行ったがそこには教官はいない、ギルドのいたる場所を探しても教官の姿は見つからなかった。

すると荷物を持ちたまたまセイカが通りかかった。


「あ、おはようございますシキさん、教官さんなら休暇ですよ。なのでコハクさんのサポートをお願いします」


クソが!

今日はいつもより足取りが重く感じた、なんで毎晩顔を見ている奴と仕事なんてしなければいけないのか。

しかたがなくコハクがいる受付カウンターに向かった。

するとコハクは仕事の準備をしてなくイスに座り夢中で本を読んでいた。


「おい・・仕事をやれ」


聞き覚えがある声だと思ったのか急いで本を閉じ机のしたに隠しこっちを向いた。


「え、なんでシキがここにいるの?」


腰に手を置き呆れ顔をしたのち準備をしながら説明し始めた。


「今日教官がいないからセイカに言われて今日だけは、ここの仕事を手伝うだけだ」


一から十すべて説明するとコハクはなんだかうれしそうな顔をして、準備に取り掛かった。

ここだけを見ればかわいいが・・・


「じゃあここでは私が先輩ってことよね?だってこの仕事では私のほうがやっているから私がここでは上ですよね?」


こいつはまたいらんことを一つ足して。


「いやお前ここではまだ二日だよな?俺はここの仕事を三日やったぞ」


実際そうだ、俺の方が一日早くやっている。

上下関係のことを言ったら一日でも早い俺のほうが先輩になるのは当たり前だ。

しばらくやっていると冒険者たちの視線が気になったがそのまま気にしないで仕事をした。

いやそう信じこまないと仕事ができなかった。

しかし驚いたのはコハクの裏の顔だ、品行方正、清潔感があり、それに加え可愛い。

ここだけを見ればそれはあんなにも冒険者が寄ってくるのもわかる。

だがこいつのダメなところギャップだ、ギャップ萌えは俺も好きだ。

どうしても表を知っている分こいつのことは好きにはなれないのかも知れない。

定時になりいつもよりぞっと疲れが体に負担をかける。


「やっと終わった」


そうコハク言い残すと手を上に伸ばした、そのときに制服が伸ばされお腹がチラリと見えた。

なんだろう・・・なんにも思わない。

仮にも女子のお腹を見たのになんにも思わず、ただボーっとしていた。

ストレッチをしてテーブルにコハクはぐったりと持たれかかり、うとうとし始めた。

こいつの悪い癖だ。

寝ぼけているコハクの肩を叩いた。


「寝ぼけてる暇は無いぞ。今からパーティーの募集の紙を貼りに行くぞ」


「ん?なにをするの?」


このバカはつい先日言ったことも忘れていた。


「だから、この間話しただろ!」


「あ、あれね!」


絶対こいつ覚えてないだろう。

パーティーの募集の紙をギルドの募集掲示板に貼り付けた。

募集用紙には初心者歓迎と書かれており最後に俺の名前が書かれていた。


「よし。これで大丈夫だな」


その矢先後ろから肩を叩かれた。

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