第2話

目を開けるときにはそこに中世半ば頃だと思われるきれいな町なみが広がっていた、モダン建築のような町並みだ。

圧倒されている俺を見てコハクはクスクスと後ろで手を組み自慢げな表情を見せる。


「どうです!すごいでしょ!」


ゆっくりとコハクに近づき鈍い音を立て頭を打った、痛そうにうずまくり今にも泣きそうな顔をした。


「乙女に何するんですか!痛いじゃないですか!」


「最初からそういうのは教えとけ!」


「それはですね・・・あの――物事には順序ってものがあるじゃないですか・・・」


こいつの順序はどんなのだよ。


「とりあえず行くぞ」 


いまだに頭を抱えているコハクをあとに都の中心部にあるギルドへ向かった。

俺の足跡をなぞるかのようにちょこまかと付回し、やがて並んだ。

コハクが、ずっとニッコリしながらこっちを見てくる。

それを不気味思って俺は苦笑いでコハクに聞いた。


「コ、コハク何でこっちを見てるんだ?」


少し嫌々聞いた。


「え、だって楽しくないですか?こんな風に誰かと並んで外の町並みを見るのって?」


上目遣いで最後にニッコッと微笑んだ。

妙に照れくさい、さっきの会話以降ずっと静寂が続いている。


「こ、この世界も通貨はあるだろ所持金はいくらぐらい持っているんだ?」


やっと話を考え出た言葉がこれだった。

話を振るのを待っていたのか後ろを振り向き目を合わせ、コハクは胸ポケットから財布を取り出しちまちまとお金を数えだした。


「一、二、……二千円ですね」


「二千円」その言葉が聞こえた時に俺はその場から立ち去ろうとした、しかしそんな行動を許してくれる訳でもなくコハクは服の袖を精一杯にぎり離そうとしなかった。


「放しませんよ」


恐怖に満ちた声を始めて聞いた。

一向に離してくれる気配がないことに気づき渋々残ることを決意した。

そして想像した冒険者生活とは違う現実と共に使えないお荷物が一つ増えた……


「はぁ」


そっとため息を一つ付いた。


「ねぇ知っている?ため息一つするごとに幸せがなくなるんですよ?」


「あ―そんなこと言ったら、教師とか永久に幸せはこないな」


うんちくネタを言ってくるコハクに対して冷たく接した。

半年間引きこもっていたせいか、スタミナがあっても足腰の負担が半端なかった。

さっきまで俺の方が歩幅が大きかったのに今ではコハクより小さくなっている始末だ。

ふと正面を向きなおすとご丁寧に看板にギルドまで百メートルと書かれていた。

いやそれより気になったのは、まったく見たことないこの文字なのになぜ俺が読めたのか、意識して読んだつもりはない、ただ反射的に読めた。


「なぁ?あれってなんて読むんだ?」


看板を指差した。


「ギルドまで残り百メートルですけど、どうしたの?」


「いや、なんでもない」


コハクの反応からしても読めて当然見たいな言い方に俺は途惑いながらもギルドに向かった。

急にコハクは歩くのをやめ、その場でたたずんだ。

前を見ていなかった俺は急に止まったコハクに体をぶつけた。


「おい、止まるなよ」


いつの間にかギルド入り口についていた。

中に入ろうと入り口に差し掛かったとき、ふと後ろを振り向いた。

そこにはさっきまでハイテンションだったコハクが魂を抜き取られたいかのように棒のようにたたずんでいた。


「おい・・・・・おい⁉」


「え、あ―ごめんシキ。何の話していたっけ?」


いつもの声に一瞬聞こえたが、心ここにあらずかのような冷たい声だった。


「どうしたの?いこ・・・・」


俺を追い抜き先にギルドの中に入って行った、さっきのは気のせいだったのかはわからないが、まるで何かに憑依されたようだった。


中に入ると多くの冒険者が会議をしていたり、討伐したモンスターの自慢話がいたるところでされていた。

冒険者に圧巻されながらも受付の人に話を聞きに行った。


「すみません。初めてなんですけど、ここってなんですか」


「はい、ここでは、クエストの発注や職業が決められます。他には自分のステータスを知ることもできますよ」


「なるほど、じゃあ面倒で悪いけど、そのことについて詳しく教えてください」


見ず知らずの人とこんなにしゃべったのは約半年ぶりだったが、うまく舌を噛まずに言えたか不安だ。


「面倒なんて滅相もございません。好きでやってる仕事ですから」


「じゃあ説明いたしますね。クエストはランクが分かれていて、星一から二までが初級クエスト・星三から四が中級クエスト・最後星五から六が上級になります。

そのクエストをクリアしていくごとにレベルが上がっていきます。クエストカウンター横の掲示板で発注できます。まぁ言ってみれば古典的なクエスト方法です」


この子凄いな。平然と自分の職場をディスってる。

そんな事を思っている暇もなく説明が始まった。


「ステータスの説明です、敵と戦うごとにレベルを上げていくことが出来ます。

パーティーメンバーのステータスや体力も冒険者カードで確認できます、敵を倒すごとにステータスは更新されていきます、

あとこのギルドにあるステータスを測る魔道具では限界がありまして、細かいところまでは見れません、申し訳ありません………使えねーなこのギルド」


「それはご忠告どうも………えっ?」


ん?今なんか小さい声で言ったよね?

受付が言った言葉に驚いたが構えなく話は進んでいった


「では次で最後です。職業ですね。職業はですね色々ございます。例えばなんですが、主流の冒険者や剣士・魔法使いなどですかね。


あ、ですがアーチャーやガンマンなど貴重役職で滅多にいません。

その代わりと言ってはなんですが弓兵がいるぐらいですかね。まだ他にもたくさんございます。ですが魔法使いにも種類などございます。私からは以上です。

なにかご質問はありますか?」

今更だがこれを作った当の本人は何で、RPGなのにガンマンを職業に入れた、アーチャーいらないだろ。


「質問かどうかは分かりませんが、今のステータスの詳細確認をお願い出来ますか?」


「はい、問題ございません、では少々お待ちください」


案内されるとそこには、俺をこのゲームの世界に送ったアイオスがあった。


「すいません、これは?」


「あーこれはステータスを測る魔道具ですよ」


安心したこれが、俺が知っているアイオスだったら壊すとろだった。

指示され俺はベットの上に仰向きの状態で寝転がり、魔道具(アイオス)を頭に被り目を瞑った。


三分後―


「解析ができました。えっと・・・シキさんのステータスは、悲しくなるぐらい全部平均以下ですね。でも人には不得意なものもありますし、きっと・・・きっとだ、大丈夫です!」


この受付さんはとどめを自分で刺しておいて自分で慰める雨とムチの使い方が凄すぎる。


「あ、あ、ありがとうございます。じゃあ冒険者で・・・」


「分かりました。では、ここにお名前と先ほどのなりたい職業希望を書いてください」


うっかり涙が垂れてこないように必死に目を擦り押さえた。


「ではお預かりします。えーと、本名は一之瀬 紫樹さんで職業は冒険者で間違いはありませんか?」


「間違いありませんか」この言葉が辛かった。


「はい」



五分後―


「お待たせしました。ではこれが一ノ瀬 紫樹さんの冒険者手帳です」


手渡されたのは、一枚の自分専用の身分証明みたいなカードだった。


「で、武器が手に入りましたらスキルが覚えられます。スキルの覚え方は、ポイントを貯めて相手の手を握りスキルを見せて貰えば習得できます。魔力切れを起こした場合は他人の素肌を触れることによって回復できます。本名は個人情報になりますのでこちらでは厳重に保存させてもらいます。これで以上になります」


「ありがとうございます。また来きます」


「はい是非!」


さぁ、冒険の準備でもしようかと思った矢先周りを見ると、あの巫女がいなくなっていた。

いまだに入り口でのことが気がかりだ。


適当にギルド内を散策しているとクエスト受け付けのところに見慣れた巫女服を着た子がしゃがみこみ何かをしていた。


「おまえ、ここで何をしている」


とっさに話しかけられて驚いたのか背筋をピンとさせ小さく奇声を出した。


「きゃあ!」


こいつもこんな声を出すのか……

コハクは全身をビクビクとさせ、ゆっくりとこっちを見て慌てて手に持っていた物を後ろに隠した。


「い、いや何もしてないで、です……ま、全くシキさんは少しぐらいわ、わわ私を信じてみたらどうですか、ほ、本当に何ももって無いですから!」


人間嘘を吐く人と吐けない人と白黒出ると言うが、まさか本当に嘘が下手な奴もいるもんだ。

微妙な空気が漂った、コハクが瞬きした瞬間後ろに隠していた物を奪い取った。


「これなんだよ、なんで星四のクエストを受けたんだよ!」


中級クエストなんて今の俺たちがやったらどうなるかなんて目に見えている。

深いため息を一回した。


「取ってしまったのはもう仕方がない」


「え?じゃあ」


「取り消しに行くぞ」


嫌がるコハクの襟を掴み強引にクエストを取り消しに行くため受付に向かった。


「おい、コハク、おまえは職業は決めたのか?」


それを聞いて欲しかったように自慢げに言ってきた。


「はい、もう決めました!ちなみに私は魔法使いです!どうですか?どうですか?」


自慢をするコハクの話をすべて聞き流し冷たく返した。


「あっそ」


「えーそんな冷たく返さなくてもいいじゃないですか!シキさん絶対向こう世界では友達いn……ん!んんーんー」


口を思いっきり塞ぎその先を言わせないように必死で止めた。


その後俺たちは、ギルド内のレストランで昼食を食べることにした。残念ながら金もプライドもない俺たちは、

「すみません店員さん!」と、とりあえず呼ぶことしかできなかった。


「えっと、ちょっと困るかもしれませんが五百円で食べれるものください」


今まで生きてきた中で「こんだけの、お金で食べれるものをください」と言ったのは生まれて一回もない。


「あの、シキワンコインで、二人分なんて食べれるんですか?」


「いや俺はいい、この世界着いてそんなに時間たってないからお腹すいてないし。だからコハクだけ食べればいいよ」


現実世界でこんな言葉を一回でも言ってみたかった。

出来るだけ裏と表を分けるように外では優しいキャラを作るよう。

少し経つと料理が運ばれてきた。


「おまたせしました、こちらイグアナの唐揚げです」


「わあ!シキさん! すごいですよ!」


「そうだな」


少しコハクとの距離を置き俺は若干の不安と苦笑いを極限まで抑えて答えた。


「ふぃしさん(シキさん)ほぉんとぉうにたべらいんですふぁ(本当に食べないんですか)」


世界中探しても、どこに女の子が口にものを入れて話す馬鹿がいるんだよ。


「いいから、飲み込んでから話せバカ」


「!」

コハクは口に入っていたものを急いで飲み込みキレ気味の口調で発言した。


「シキさん、今のは聞き捨てなりません‼、なんで私がバカ巫女なんですか!」


「お前無駄に何も考えず色々するから、面倒事が増えるだろ。もしお前がバカじゃなかったらもっとスムーズに行動が進んだはずなんだよ!」


堪忍袋がキレ俺も向きになって口論し始めた。


「わあぁあああああ―――シキのばかあぁああああああーっ!」


突然コハクは叫び出し怒り泣きの感情豊かなコハクが叫ぶ。


「ちょっとお客さん他のお客さんに迷惑です、静かにしてください!」


言われて冷静に周りを見た俺は、他の客の反応に気づきコハクと共に謝った。

その後すぐコハクの口に食事を無理に詰め、半強制に食べ終わらせ俺は言った。


「よし!クエスト受けに行くぞ!」


そう俺が言うとコハクは苦しそうで尚且つ嫌な顔をして言った。


「んーっは!死ぬかと思った。シキは私を殺す気ですか⁉」


なんで俺だよ。

ため息を付きよそ見しながら小さい声で一言。


「ごめん」


「っえ?・・・いま・・・ま、まぁいいです。現に死んでないわけですし」


こいつ、ちょろいな・・・。


「と、というか待ってくださいよ、何で今からクエストなんて受けないとダメなんですか!」


クエストを受けることが嫌なのかクエストに行きモンスターと戦うのがいやなのか判らなかったが、少なくともコハクは怒りながら訴えた。

しかしそんな反論聞き耳待たずコハクに現実を受けつけた。


「お前のせいで金が無いんだろう!」


少し強くコハク当たると、コハクはいつも反抗してきた。


「なんで、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!私なんですか!」


「いつもが多いだろ!一回言えばいいだろが!」


そんなこと言われたら、本気でコイツをどこかに捨てようか俺の頭に浮かんだ。


「はぁ、お前が料理を見るたびに目で追ったりして、金がないのに俺に視線でお腹空いたって、ずっと見つめてくるもんだから昼食を食べさせてあげようかと思ってやってきたって言うのに何で!絶対お前がいなければこんなに苦労することもなかったんだ。

だからふざけるなよ!俺だって当たり前のように腹ぐらい減ってるわ、この調子でいれば明日からは食べるものさえないんだぞ!」


説教で涙目になっていたコハクは何も学ばないようで、また叫んだ。


「わぁあああああーっ!シキ絶対が言っちゃいけない事言ったぁあああーっ!」


まさかの逆キレは想定してなかった。


「お客さん!だから他のお客さんにご迷惑です、静かにしてください!」


定員に二度目の注意を受けてコハクと俺はほほを赤くして黙った。


「とりあえず、簡単なクエストを受けるぞ」


クエストカウンターに貼られているクエストを片っ端から探した。

腕を組みながら探すが、自分達に合ったクエストが一向に見つからなかった。


「ねぇ、ねぇシキさんこれなんてどうですか?」


コハクが指さす方向を見た。


「何々、巨大樹に住んでいるケルベロスの討伐星六?なぁコハクさんよ、こんなクエストじゃあ今の俺たちだと一発で死ぬぞ」


絶対こんなクエストやったら腕を二・三本あげなきゃ帰ってくれないでしょ。


「うぅ・・・でもシキ、このクエストの報酬が三百万なんですよ!」


「お前、このクエストで生き残って帰れると思うのか?」


正論を言うがコハクは気軽に話した。


「大丈夫ですよ!たとえシキが死んでも生き返らせますから!」


なんなんだこのよく分からん低脳巫女は、俺とお前が両方死んだときのことは一切考えてないのかよ。


「どうせ無理なんだから別のクエストにするぞ、もっといいクエストがあるはずだろ」


言うと子供みたいに、いやもう子供と同じようなもんだ。


「えーでもー」


「でもじゃねーよ、文句言ってる暇があるなら探せ」


真面目にやらないコハクをにらめつけるようやく、やる気を出したようだった。


「分かりましたよ・・・んーじゃあこれ!シキさんこれいいだったら私たちでもできるんじゃないですか?コウモリの群れの討伐」


こいつが持ってきた割にはまともなクエストだ。


「星二なら初心者の俺たちでも行けるな」


クエストの応募用紙を持ち俺たちは受付に行った。


「あの、すみませんこちらのクエスト受けたいんですけど」


「はい。ではお預かりいたします。こちらのクエストの期限は明日の日没までなのでお忘れの無い様にお願いしますね…………では、お怪我が無いように」


応募用紙を貰うと俺とコハクはギルドを後にした。

そしてコウモリがいる洞窟に向かった。

洞窟に向かう最中コハクに質問をした。


「なぁコハク、この世界って上限みたいなのってどこまであるんだ?」


ふと気になり歩きながら言った。


「そんなこと私がわかるとでも思ってたんですか?この世界がどこまであるかなんてわからないですよ」


なんて頼りようも無い巫女なんだろう、本当にお荷物なんだと実感する。


「じゃあこの世界で俺以外のプレーヤーはいるのか?」


一番これが気になっていたことだ、高橋があと四人いると言っていたが本当のところ何人いるか気になった。


「えーっと、私が知っている限りはシキと、そのほか二人ですかね」


「じゃあその二人の名前は?」


「え?名前を聞いてどうするの?」


質問を質問で返すな。


「分からないのか?その二人を入れてパーティを組むための情報だよ」


RPGの常識的なことを初心者に等しいコハクに教え込んだ。


「おぉ、さすがシキさんですね!私なんてそんな事、考えてすらなかったですよ!」


まるでそんな事を始めて知ったかのようにコハクは驚いていたが、俺にとってはどうでもそういうのいらないから早く名前を言って欲しかった。


「そんなどうでもいい情報はいいから、はよその二人の名前を教えろ?」


必死でがんばって二人の名前を思い出そうと目を閉じて考えこんだ。


「どうでもいいとか言わないでくださいよ!えっと・・・分かんないです」


咳払いをし、俺はもう一回聞いた。


「名前は?」


「ですから、分からないですって」


わからないの一点張りだ。


「マジかよ、おまえは、いつも肝心なところが分からないんだよ!」


心底呆れるしかなく、考えるのを止めコハク頬を引っ張った。


「ひたひ!ひゃめて!ひゃめてけだしゃいヒキしゃん!(痛い!やめて!やめてくださいシキしゃん) ほおをひっはらないれけだしゃい! ひゃかったかゆおから! ひっはらないれ!(頬を引っ張らないでください!分かったら!引っ張らないで!)」


言うというのを条件に頬を引っ張るのをやめた。


「正直二人の名前、本名は分からないけど、ゲーム名なら分かるかも知れません」


自信満々に言われたが、どうやって知るんだろうか分からなかった。


「なんでおまえがその二人のゲーム名が分かるかも知れないんだ?」


疑問に思ったことを質問すると説明しだした。

「えっとですね、そのお二人がこの世界に入って来たときの個人情報はすべてスマホに入っていて、同じIDなのでパソコンにあるはず。そこに入り込めれば・・・・よし!出来ました」


コハクが手馴れた手つきでスマホをいじった。


「え・・・じゃあ、もしかして俺のパソコンのデータも見たのか⁉」


「えぇ、そりゃもちろんのことですよ。これから一緒に冒険する人ですから、いつもの情報収集より念入りにデータの隅々まで調べましたよ。シキのパソコンのデータはすごかったです」


あくどい顔をしながら公開処刑をはじめようとした。


「シキって、他のゲーム名って片翼の座天使とか無名の騎士とかにしてるんですね、それを知ったときは久々に爆笑しましたよ」


俺は顔を真っ赤にし沈黙のまま、再びコハクの頬を引っ張った。


「ごめんなさい! ごめんなさい! もう言わないから! ひっはらないれっー(引っ張らないでー)」


「痛たた・・・私の大事で綺麗なお顔が膨らんじゃったらどうしてくれたんですか!」


「あ、話し戻すんだけど、シキのフレンド名ってそのままなんですね」


よそを向きそっけなく答えた。


「まぁそうだけど」


「シキって、現実の世界では、ボッチですよね?」


こいつは人が気にしていることを平然に言ってくるな。


「あの、シキはどうしてネットの中でもボッチになっちゃたんですか?」


この質問にはさすがの俺も飲んでいた水を噴いた。


「少なくとも現実世界ではな‼ネットの中ではそうじゃあない、 二人もいるわ!」


コハクはまたもや俺の心を砕きに鋭いところをついてきた。


「現実ではご愁傷様なのは分かりましたでも、なんで二人しかいないんですか?」


俺は深くため息を吐いて、口を開けコハクに話をした。


高校一年の春、俺は名門高に進学した。

都内の高校じゃあなかったため、当然中学の友達は一人もいなく希望に満ちた高校生活のはじまりは絶望の始まりになった。

この高校に入ったのがそもそもの間違えだった。

教室に入るとクラスメートがグループを作りためスマホを取り出しSLNEを交換していた。

段々グループが出来てきたが俺はそんな状況に耐え切れなくなり寝たフリをしていた、そして俺にとって最後の友達を作る運命の自己紹介がきた。

俺の順番は、ア行だから前から四人目だった、ここが俺の友達が一人も出来なく原点になった。

「一ノ瀬 紫樹です、趣味はアニメとネトゲです。よろしくお願いします」と。

友達を作ることで夢中で俺は、このとき忘れていたここがそこらの高校ではなく名門高ということに、このときのクラスメイトの顔は決して忘れることはない。

自己紹介後からだんだん人から避けられ俺は、学校をサボり始めそして完全に不登校になりそして引き篭もりになった。

留年になり二度目の高校一年生がはじまったが、いまだに引き篭もった状態だった。

そのうちネットのフレンドもいなくなっていた。初めは五十人いたフレンドも気づいたときには二人まで減っていた。


「どうしたのシキ、一人でブツブツしゃべっているの?」


「おい! 今の話聞いていたか?」


コックリと小さく首を振った。


目的地の洞窟についた、想像だともう少し小さいと思っていたが、一回り以上ある洞窟というよりは巨大なトンネルだ。

「おい、本当にここでいいんだよな?」

半分そうではないことを祈っていたのかも知れない。


「た、たぶん」


自分の声もガタガタだったがコハクの声もガタガタだ。

恐る恐る暗闇の洞窟の中に足を踏み入れていく。

しばらくすると引き篭もりの特徴なのか、この空間の居心地の良さに気づき遠足気分になっていた。

奥へ奥へ行くほど道は細く湿っぽくなっていく。

歩いていくと分かれ道になった。


「シキ、一緒にこっち行かない?」


俺の袖をギュッと握り意地でも離さない。


「イヤだ。お前は左を行け!」


無理やり袖から手を放し右の道に進んだ。

一人行ってしまうと胸に手を置きキョロキョロと目を泳がせゆっくりではあったが、左の道に進みはじめた。

各自別れてコウモリを探し始めたしばらく探していると、トンネルに反響して大きな奇声がした後コハクの叫び声がこだまのように何回も聞こえた。


「きゃあああああああああああああーっ! 」


急いで来た道を引き返しコハクの声が大きくなるほうに走った。


「コハクこっちだ!」


ライトで照らすと黒く大きな物体が動いているのがわかった。

さらに距離を縮め光を当てるとそこには、通常のコウモリの五倍ぐらいの大きさのコウモリが五匹もいた。

何か裏はあると思っていたが予想の上をいったな。

コウモリは光る物音がなる物に敏感と聞き、ゆっくりとライトを消しコハクに背を向けて全速力で走りだした。

助けず逃げる俺を見てコハクは自分が持っていたライトを俺に当て始めた。


「おい!やめろ、コウモリは光があるほうに行く習性を持っているんだぞ・・・だから早く消せ!」


息が上がり酸素もなくなりかけ、しゃべることも困難になった。


「なんで、逃げるの・・・シキ! たすけてよ!うわぁ」


しゃべりながら走っていたせいで、自分の足元を見てなかったのか石につまずきこけた。

こけたにも関わらずいまだに諦めないでずっとライトを振り回しい泣きながら助けを求めていた。


「シキさんああああああーっ!」


ここで見捨てるのも一驚だが、ここで見捨てるのも後味が悪いし死んで出てきてもらってもいやだしなぁ。

意を決し後ろでころんで動けないコハクをかついだ、いまだにに追ってくるコウモリに向かってひたすら小石をコウモリに向かって投げつけた。

適当に投げた石が一匹のコウモリの目に当たり、ますます興奮状態になり攻撃をしようと突撃してきた。

腰に刺さっていた剣を鞘から抜き刃を確認し、コウモリの心臓目掛けて剣を突き刺した。

そううまくいくはずもなく予想とはだいぶん外れた羽に突き刺さった。

その攻撃が原因なのか余計コウモリを刺激させた。

さらに凶暴になったコウモリたちは奇声を浴びて足の爪で俺たちに攻撃してきた。

とっさに剣で防いだが、クッキーを割るかのようにひび割れ、粉砕された。


「え、えぇぇ―――――――⁉」


粉砕された剣を見て驚きを隠せないでいた。

そう言えば武器を選ぶときコハクが確か「ちなみに耐久力が低いです」とか何とか・・・

マジでクソ武器だろ!

ん?待てよ、この剣をレベル百ってそれ伝説の剣あてるまで無理じゃあない?

最悪のタイミングで気づいてしまった、この世界から一生抜け出せないことに。

勝てないと判断した俺は、砂埃を起こしてコウモリの気を逸らして洞窟の出口まで全速力で走った、とりあえず出口まで行くことをだけを考え走った、ただ走った。

太陽の光がチラチラと洞窟の入り口を照らしているのが見えた。

外に出ると自然と体が地面に倒れうつ伏せ状態になった。


「ハァ ハァ ハァ 疲れた・・・・・やっぱ運動してないから体力がないな・・・・」


体に力が入らない。


「シキ、たすけてくれてありがとう」


「どういたまして、それより手を貸してくれないか?それとお前・・・この剣を百にするなんて無理だからな」


剣の残骸をコハクに見せると苦笑いをした。


「あちゃ・・・さっそく一本壊しましたか・・・」


「いや、無理だから。」


気がつくと日没だった、手を貸してもらいゆっくりと帰り道を通った。

都に着くと俺達は行きに見つけた冒険者専用温泉施設により今日のクエストで汚れた服を洗濯した。

てか、ここRPGなのになんで洗濯機とか乾燥機があるんだよ・・・


「昨日のクエストは一回取り消してもらう。明日から俺たちはバイトをするぞ」


「なんで? バイトなんかするの?」


「お金がほしいからだ」


「私もほしいからクエストをやったんじゃあないの? クエストのほうがお金たくさん入るからいいのに?」


このクソ巫女は天然でもなくただの救いようもないバカだ。


「今の、俺たちの力じゃあ受けれるクエストなんて無いからだ! 今の俺の服装なんてカッターシャツだぞ!」


このバカは普通の人に説明する二倍説明を足さないとこいつは理解できないのか。


「俺はギルドの受付の仕事をやる、おまえはギルドのレストランの仕事をやれ」


コクリと頷いた。


「で、シキ今日どこで寝るの?」


もっともの意見だ。

宿に泊まるとしても金が持っていない、このままだと野宿することになる。ギルド着くとすぐさまコハクは座りこみ俺は受付の人に泊まれるか交渉しに行った。


「すみません 今日一日だけ寝てもいいですか?」


頭を下げてお願いすると受付の人は苦笑いすることもなく笑顔で。


「ほんとは、駄目なんですけどしょうがないのでいいですよ」


「ありがとうございます」


頭を上げると俺の目の前にはどこからどう見ても美人といえる美少女がいた。

うすがかった金髪 髪形はロング、たれ目で青い瞳をしているまさに俺の好きなタイプを具現化した感じだ。


・・・・ここに居たんだ・・・俺の「メインヒロイン」


あのバカさえいなければこんなことにならなかったが、逆にあいつのおかげで知ることが出来た、そこだけは感謝している・・・・そこだけは。


「待っててください、いま毛布を取ってきます」


優しいことに寝場所を提供してくれるうえに毛布までくれるとは、日本とは大違いだった。


「お待たせしました、こちらが毛布ですが一つしかありませんでした、すみません!」


本当はこっちが謝るほうなのに、一つないだけなのに謝っている受付係を見てすごく

日本との違いがはっきりわかった。


「いえ全然大丈夫です!ほんと何から何まですみません。あの・・・あなたの名前は?」


口がすべり、名前を聞いてしまった。


「私の名前はセイカです、これからもよろしくお願いしますシキさん」


セイカ・・・・良い名前だ。

不気味な笑みが顔に出そうになっていた。


「なんで俺の名前を?」


頬が赤くなりながらも何で知っているか気になり少し照れながら聞いた。


「今日の朝の受付にいたじゃありません?」


・・・・え、あの愚痴のお姉さん・・・そんなバカなありえないだろ。

心の中でどうしても信じたくなかったのか、心を誤魔化した。


「とりあえず、これからもよろしくセイカ」


その瞬間俺は今日の疲れでひざから崩れ落ちてしまった。


「大丈夫ですか、シキさん!」


今日の朝から何も食っていなかったことを今の今まで気づいてなかった。

あまりにもお腹がすきすぎてその場で倒れ込んだ。


かすかに目を見開きまわりを見渡した。

見るとセイカはレストランのキッチンで何かを作っていたのがチラッと見えた。

そのときはっきりと未来の映像が見えた、小さな家のキッチンでエプロンをしたセイカがこちらに気づき「あなた・・・ご飯よ」と言っている姿を。

そんな妄想に浸りながら、ゆっくりと体を起こしキッチンに向かった。


「な、なにを作ってるんだ?」


ダ、ダメだ、妄想が止まらない…………

一言会話するだけで未来の家計が目に次々と浮かんでくる。

妄想に浸りふらつきながら俺はセイカが作っている料理を覗き込んだ。


「あまりにもお腹がすいていたみたいなので、キッチンに残っているもので作りました!」


しばらくするとテーブルの上にはスープが置かれた。


「こちら、オマール海老のスープです!」


今日始めて食べる料理を見て俺は思わず子供みたいに、そのスープを口にかきこんだ。

飲んだ瞬間口の中に海老の濃厚なスープの味が入ってきた。


「シキさん! 口に付いていますよ!」


慌てて食べたせいで口の周りついてしまった。

口に付いたスープを手で取りペロッと指を舐めた。

………なんかエッチすぎではありませんか

内心を搔き消すかのように、顔を赤らめ言葉につまずいた。


「セ、セイカって料理うまいんだな・・・」


なにこれ・・・これ告白の流れ・・・そうだよね!絶対そうだよね!

一人気分が上げまくり戸惑いながらも告白しようとした矢先、においに釣られてさっきまで寝ていたバカが急に起き、こちらに向かって走ってきた。


「シキ! シキ! 私にもそのスープくれない⁉」


やっぱり、こいつ空気読めない系女子だわ。

なんとなく予想していたがまさかこんなに嗅覚がいいとは。

・・・・警察犬にでもするか。

スープをコハクの手が届かない場所に置いてから言った。


「お前は昼食食べたんだからいいだろ!」


少しきつく言うと手を合わせてまるで神でも崇めるかのように頼み込んできた。


「シキさんお願いします! 一生のお願いだから一口だけお願い!」


「ハァ、一口」


「ありがとう! シキ!」


・・・待って、これ関節キスでは・・・まぁいっか。

コハクはスープを受け取り俺の目にも留まらぬ速さで飲んだ。


「おい待て⁉」


俺とセイカが見えないスピードで取り全部飲み干した。

それを見た俺はコハクが持っているスープを取り上げたが手遅れだった


「おい! このバカ、クソ飲みやがって!」


ショックのあまりにコハクを怒鳴りつけたが無視した、それにさらに怒りはまし頭をどついた。


「この! クソ巫女!」


頬をとにかくひっぱった。

俺の妄想全部返しやがれ!


「ごめんなさい! もうしないから! ほおをひっはらないれっ!」


ひっぱった場所は赤く腫れ、痛そうに頬をさわり涙目になった。


「ほんとだな! つぎやったら本気でやるぞ!」


すこし脅しながら、コハクの目を睨み忠告した。


「ごめん せっかく作ってもらったのに」


「別にいいですよ。明日からも作りますね」


はじめてこの世界に来てまともな人に出会ったと思った。


「でもいいのか?ギルドの仕事で忙しいんじゃないのか?」


「いえ、冒険者の面倒を見るのも私の仕事なので!」


言い終わると俺は頬を赤くしながら心の中で思っていたことが口からでてセイカに向かって言った。

・・・・これは恋だ。

一瞬自分が言ったことを思い出し顔を赤くした。

なぜ顔を赤くしているかを聞かれた。


「どうしたんですかシキさん! 熱でもあるんですか?」


そう言い頭に手を当ててきた。さっきまで赤かった頬がまたいっそう赤くなった。


「大丈夫ですね! これからも体調が悪くなったら遠慮なく言ってくださいね! 先ほどはなにを言ったんですか?」


さっきまであった熱がぶり返した。


「大丈夫ですか⁉また顔が赤いですよ!」


顔を赤くしたせいで心臓が破裂しそうなぐらいに恥ずかしい。


「大丈夫 今日はありがとう じゃあ」


急いでその場を去り、急ぎ足でコハクのいる場所に戻った。


「お帰りなさい、シキ」


俺が戻るとコハク毛布に包まってギルドの長椅子に寝ころがってくつろいでいた。

なにも言わず毛布をはぎ取った。


「なにするの!」


コハクは毛布の裾を掴んで離さなかったから、俺は仕方なく手を離しコハクの目を見ながらしゃべりかけた。

「明日からバイトだ、誰が金を管理するか決めよう」

自信満々でコハクは手を上げる。


「シキ シキ 私に管理させて!」


ものすごく不安になりながら、コハクの目を二度見て考えた。


「お前、本当にできるのか?」


用心して聞くとコハクは体を前に出した。


「おねがいします! シキさん一生のおねがい!」


しつこく言ってくるので、めんどくさくなり諦め一回顔を見直した。


「わかった そのかわりちゃんと管理しろよ!」


言ったとき俺は先ほどコハクが言った「一生」が先ほど言ったことに気が付いてコハクを問いただした。


「ん?おい、巫女 さっきも言わなかったか」


気づき問いただすが首を少し傾げた。

「まぁシキ、細かいことは気にしないで」


平手にして漫才のツッコミのようにコハクの頭をどついた。


「シキのバカ!」


こいつに預けるのがまた心配になり、冷静にコハクに奇異。

「本当に管理ができるんだよな?」


話を搔き消すかのように割り込んでくる。


「私を誰だと思っているの?」


こいつに何に言っても無理だと、悟った俺は正直に答えた。


「お荷物」


正直に答えると体を前乗りになり俺の顔の近くに自分の顔を寄せた。


「巫女よ だからお荷物なんっていわないで!」


今までに無いぐらいに巫女を強く主張して言った。でも巫女とお金の関係が俺の中で疑問になりコハクに聞いた。


「なんで?巫女とお金が関係あるんだ?」


疑問に思ったことを聞くと少し笑みを浮かべて答え始めた。


「巫女と言ったら神社。神社と言ったらお賽銭でしょ?だからよ!」


・・・・全然信用できね。


「まぁ、お金のことはお前にまかせるよ」


信用できなかったがコハクの目を見て少し信用してしまった。

不思議そうな顔をしてずっと目を見てくる。


「なんで俺の目ばかり見るんだよ?」


疑問を抱きながらコハクはずっと目を見て首を傾げた。


「めずらしいね! シキが私を信用するなんて」


先ほどまでの緊張感があった部屋の空気が無くなっていた。

毛布が一つしかないため半分にして使った。

コハク十分立たないうちに寝たが威吹がうるさく、なかなか寝付けなかった。

しかたがなく、眠たくなるまで都を見て回った、途中裏路地に一つの店を見つけ興味本位で店に入るとそこにはギャンブルのルーレットなど色々な機会が無数ににあった、見ていると一人の定員に声を掛けられた。


「お客様はじめてですか?」


突然声を掛けられ、半年間の間でコミ症になっていた俺は反応的に一歩後ろに下り聞いた。


「ここは?」


「ここは、ギャンブル場です。 ここではルーレット、トランプなどがあります、お客様は何をなさりますか?」


ぐいぐい来る定員を見てヤバイと確信し、一歩後ろに下がり頭を下げた。


「すいません!今日はお金が無いのでこれで帰させてもらいます」


そのまま後ろ歩きで店を出るといそいでギルドに戻った。


朝になりコハクを起こしたが、起きなかったため仕方がなく頭を叩き痛みで起きた。


「なにするのよ、せっかく寝ていたのに!」


寝ていたコハクは急に起こされ逆ギレし始めたがそんな事お構いなく俺はコハクの頭を何度も叩き少し逆ギレをしたことに怒りながら自覚させた。


「今日から俺達はバイトをやるんだいいか」


もはや調教に近い。

しかし少し起きたとは言えまだ寝ボケていた、起き上がり歩くとイスの足に引っかかりこけた。


「おーい、大丈夫か」


少し心配して近づくと仰向けになり、自力で立つことも、めんどくさくなったようで頼んできた。


「起こしてください」


少々めんどくさかったが言われどおりにコハクの手を取り引っ張り起こしたが転んだだけでは起きなかったようで半分まだ寝ていた。


「なんとか間にあった!」


用意を急いで済ませ別々の仕事場に向かった、コハクはギルドのレストランでバイト、俺はギルド受付なのでセイカと一緒だからまだよかった。


「おい!新入りここまだゴミがあるか取っとけよ、それに俺のことは教官と呼べいいか」


これがバイトなのか・・・

ずっと引き篭もっていたせいだから体の動きが遅かった、さらに教官はセイカじゃあなく筋肉ががっちり付いているおっさんだった、なんでそんな体なのに冒険者をやらなかったかが不思議でしょうがなかった。


「教官! できました!」


敬礼し教官に言った、教官はギルドの中を見渡したあと教官は俺に新しい任務を命令された。


「新入りセイカさんの手伝いをしてこい」


「わかりました!」


少し笑みを浮かべたが、それが悟られないようにした。

さっきまでの疲れがふっとび急いでセイカがいる受付に行った。

そのまま急ぎ足で俺は受けつけに行った。


「俺は何をやればいい?」


少し子供も見たいにテーブルに手を置きでかい声で言った、するとセイカは手を前でわさわさしたあと耳元で小さく囁いた。


「シキさん! ここでは私のことを呼び捨てで言っちゃダメですよ、私たちはここでは先輩と後輩ですか? だから仕事中は私のことを先輩と言ってくださいね」 


顔を下に下げ小さい声で謝った。


「すいません、先輩」


申し訳なさそうに言うと突然俺の頭を撫でてきた、この年にもなって撫でられたせいで慌てて三歩後ろに下がった。


「なにするんですか先輩!」


「ごめんなさい! シキさん」


自分が何しているか気づき耳を赤くした。


「別にいいですけど・・・」


目線を逸らし言うと何を思ったのか俺の近くに来た。


「つい、弟に似ていたから」


・・・「弟」・・・・・・


「セイカの弟さんは今どこでなにをしているですか?」


聞くと顔色が悪くなったが、しばらくして弟さんについて話してくれた。


「今は悪魔界の四天王になったんですよ」


セイカの言葉に俺は口に含んでいた水を吐きそうになりながらも水を飲み込んだ。


「あ、あのもう一回言ってくれないか?」


少し顔を引きずらせながら聞いた。


「はい! 四天王になりました」


笑顔でこっちを見てくるセイカに何かの間違えだと信じたかった俺はもう一回聞いた。


「ごめん、もう一回!」 


何度も聞くとさすがに聞きすぎたようだがもう一回言ってくれた。


「これが最後ですよ! 私の弟は悪魔の四天王の中の一人でした」


驚いていると、不思議に思い俺に聞いてきた。


「なんでそんなにも驚くですか? うちの弟は普通ですよ」


その言葉を聞き再び冷静さを取り戻し一呼吸置いたあと質問をした。


「悪魔って本物?」 


聞くと笑いながら馬鹿げたことでも言ったかのように笑った。


「なに、言ってるんですか?本物ですよ」


その事を聞くとセイカにバレない様にそれを聞き少しセイカから離れた。


「なんで、離れるんですか?」


離れるとセイカは慌ててしゃべり始めた。


「でも、弟は四天王はやっていませよ…この世界ではそんな悪魔とかは珍しくはありませんよ」


今言った言葉で一つ気になることがあった。


「セイカ、この世界で悪魔ってそんなに珍しくないのか?」


「はい、この世界では色々な種族が共存していますから、ですからもう四天王はやっていません二年交代なので」


あの高橋の野郎、説明しとけよ・・・

他の事に気を取られて肝心なことを忘れていたが、四天王じゃあないと聞き俺はさっきまで合った緊張感がなくなり近くに戻った。少し安心して自分の家計について俺にしゃべりはじめた。


「私の家計は私の祖先に黒魔導師がいまして、その子孫が私たちで特に弟はモンスターが嫌う火属性の技が得だったので悪魔たちが住んでいる町からモンスターなどから町を守る四天王に選ばれたんです、だから悪魔と言っても人に被害を出したことはありませんから大丈夫ですから」


説明を聞き少し安心した。

仕事に戻った。時間が過ぎ昼になりお昼休みをもらった。

セイカは自分で持ってきた弁当を食べていたが俺は節約のために昼食は水の中に昨日もらった片栗粉をいれ口を紛らわした。


「シキさん…それだけで大丈夫ですか?」


全然大丈夫じゃあなかったが、苦笑いしながら聞いてきたセイカにバレないように言った。

「大丈夫だから気にしなくいいよ、俺はこれだけで足りるか」


大丈夫とは言ったがセイカは自分のおにぎりを俺にくれた


「これ、あげますね」


おにぎりだ………米だ……日本に戻りたい。

いかん今の俺はなんでも日本につなげてしまう。


「本当に貰ってもいいのか」


「別にいいですよ! お腹もあまり空いてませんから」


ありがたく一口ずつ味わって食べた。

何日ぶりに米を食べて知らず間に涙がポタポタと垂れてきた、そんな俺にセイカはお茶をくれ涙を手で拭き取ってくれた。


「ここに来てセイカに助けてもらってばっかりで、本当にいままで助けてくれてありがとう……」


そう俺が必死で謝り頭を下げた。


「別にそんなこと気にしないでください!冒険者の面倒を見るのも受付の仕事ですから、頭を上げてください!」


言われがままゆっくりと顔を上げた。

この世界に来て苦労ばかりやっていった。

とくに役に多々ないお荷物巫女。

しかし神はこんな俺にある運命を作ってくれたのだ……それはセイカとの出会いだ。

もしも俺は出会っていなかったら、俺はいまずれ空腹で死ぬかモンスターに殺されていたかどっちかだった。


「大丈夫ですか・・・」


とセイカは驚いて言った、俺はこの言葉を聴き安心した。


「いや、なんでもない」


テーブルに手を置きつきゆっくりと立ち上がった。


「おい!新入り昼休憩は終わりだぞ」


仕事は午前と同じギルド内の掃除などを午後六時までやり俺の始めてのバイトは終わった

コハクを呼びに行くと疲れきった姿でテーブルに寝そべっていた。


「おーい、戻ったぞ」


起こしたが反応が無い。

肩を思いっきり叩くとコハクは何が起こったかわからずただキョロキョロして慌てていた。


「お前の方はどうだった?」


隣の席に腰を下ろした。しばらくしてコハクの顔が暗くなり答え始めた。


「こっちはこっちで厳しかったですよ……」


「注文を間違えると頭を叩かれて、皿を割ると叩かれてほんと大変でしたよ……ははは」


涙目になりながら今日あったことを全部話し終わった。


「今日は掃除とかかな、それよりお前昼は何を食べたんだ?」


「注文間違えの料理を食べました………ははははは」


良い社会経験になると思ったが予想以上の結果だな。

肩を叩いてコハクをなぐさめた。

しかし予想外だったのはこいつの立ち直りの早さだ、十分もしないうちにいつものコハクに戻っていた。


十時―

ゲームとかだと冒険者は夜遅くまで起きているのが主流なんだが、誰一人もギルドにはいなかった、それどころか夜九時の段階で人はほとんど消えていた。


「残り九百円…二日で給料日、だからお金はまだ大丈夫のはずなんだけどな⁉」


ビクッと体が動いていた・・・


「…………なんか隠してないか」


目を合わせないようにしているのか、ずっと下を向きなにもしゃべらない。

「「…………」」

静寂だ。

「な に に つ か っ た」

一文字言うごとに何かに撃たれたかのようにビクッとなんかいも動く。


「金を出せ…もう一度言う………か ね を だ せ」


静かにポケットをまさぐり机にお金を置く。


「おい、こんだけか?」


人形化のようにコクッと頷く。


「残りの六百円なにに使った?」


下を向いたまま一向にしゃべる気配を見せない。

「何に使った・・・」


「ギャンブルです………ギャンブルで使いました」


人間は自分が思っている以上のことが起こった場合冷静になるんだ。


「なんで?」

深いため息だ。

「だって、シキがほしいと言ったから…だから」


下を向いていた顔がようやく表を向けた。

上目目線で俺の目をじっと見てくる。


ちょ、その目線マジでやめて…うっかり惚れそうになるから。


陰キャラの特徴なのか、

なぜか「こいつ、俺に気が・・・」と不覚にも思ってしまう。

心臓の鼓動が早く、呼吸も乱れ始めた。

さっきまで怒っていた気持ちが段々落ち着いき、なぜかコハクのことが愛おしく見える。


「わ、悪気はな、ないんだな……」


明らかにおかしい今まで俺ならここで頭を叩くはずがいや、普通ならこんな言葉は出ないはずだ。

それに言い方もややぎこちない。


「本当に悪気は無かったの、でもごめんなさい!」


「「・・・・」」


「あ、うん…もういいよ、俺も怒りすぎたごめん・・・・今日からは俺がお金の管理をするからわかった?」


いつもなら平気なコハクの目線もなぜか今だけは正面を向けない。


「シキ?どうしたの?」


「あ、いやなんでもない・・・」


俺は相変わらずコハクの目を見ないように目をよそに向けていた。


「じゃあ、いこ?」


そう言うとコハクは一人歩き始めた、俺はそのあとをついて行った。


朝の七時になり仕事が始じまった、ロッカーに行く際中教官に道中を塞がれた。


「今日からおまえはセイカさんの受付の仕事を手伝えわかったな!返事をしろ!」


なぜか青春系主人公みたいに泣きながら教官の手にギュッと握った。

ここで言っとくが、俺はホモでもない。


「教官あなたに、会えてよかったです!ありがとうございました」


そこから先は話が早かった、急ぎ足でセイカのいるクエストカウンターに向かった。

受付の仕事は主にクエストの管理など俺にもできる仕事ばっかりだ。

楽しい時間は早く過ぎると言われるが、まったくそのとおりだあっという間に時間が過ぎ終了時間になっていた。

バイトを切り上げリュックサックを、肩にかけコハクを迎えに行った。

コハクはクエストカウンターの前の机にスライム見たいにぐったりしていた。


「おーいコハク風呂いくぞ」


呼びかけてもコハクは起きなかった、俺はコハクの右肩を揺らし再度呼びかけて。

目をかきながらゆっくりおと起き、あたりを見渡し一言。


「シキ、どうしたの?なんかあった?」


「いや、だから 風 呂 」


眠そうなコハクを強制的に起こし、風呂につれて出した。

ふと浴槽の中で一番大事なことを思い出した。

ん、部屋やばくね・・・

風呂を出た直後コハクに意見を求めた、いや実際めんどうだったから他人の意見が欲しかったのかも知れない。

目を閉じしばらく考えた、コハク何を思ったか俺の手を握り一言。


「ゆっくり考えましょう」


まただ、この間と同様に心臓の鼓動が早くなり頭が真っ白になったが、今度の俺はこのことも織り込み済みだ。

その変な気持ちを押し殺し話を続けた。


「あ、わかった・・・てかお前キャラブレブレだぞ?」


「ん?何のこと?」


帰る最中妙にそわそわとしていることに気づいた。


「どうして、私を許してくれたの?」


唐突だ。


「さあ?俺にもわからない」


実際そうだ俺もなぜあの時、あのようなことを言ったのかは俺にもわからない。

あざ笑うかのようにクスッと笑みを零した。


「なにそれ?」


「お前、本当にキャラが定まってないぞ?」

「ん?だから何のこと?」


・・・いかん、無限ループだ。


ギルド内


「そういえば今日はどうだった?」


鈍い反応を見せた、それを見てだいたい想像できる。

どうせ注文を間違えてばかりだから、今日から皿洗い係になっただろ。


「皿洗い係になりました」


ほらな、予想通りだ。

店長にこっぴどく叱られたんだろう。

その場でうずくまり一歩も動こうとしない。

五分後―――

いまだに手の指一つも動かさないのは気がかりだ、過労死でもしてれば店に損害賠償を払わすことができる。

腕の間から顔を見ると、今にも落ちそうな涎を垂らし爆睡していた。

損害賠償を受け取れる日は来るのだろうか・・・それより今は。


「あ、シキさんもう出来ていますよ」


今日の朝からの楽しみだった時間だ、これの一杯が一日のご褒美だ。

セイカの作ったスープを一口一口感謝の気持ちで飲んだ、個人的にもコハクが寝たことは好都合だ。

話題がない・・・まぁしょうがない彼女いない歴年齢の俺がよくここまで女子と話していること自体すごいのに、ここから面白くなんて一流芸人でも無理だわ。

ここは一番無難なことを。

話を切り出した。


「セイカは、このギルドの仕事は何年間やっているんだ?」


これが彼女いない歴年齢の俺が必死扱いて考えた限界だ、俺はお笑い芸人でもないし哲学者でもない。

そんな俺が言えることは何かと聞かれたらこれしかないのは当然だ。


「えーと?二年間ですね」


以外にも飽きずに話を聞いてくれる。誰かとは大違いだ。

だがここからが俺のいけないところだ、せっかくの話を広げるチャンスもすべて捨ててしまう。

自分が陰キャラなことを呪った。

話の方向性を変えたくなく質問してこなかったが、この状況に耐えれなくなりついにしゃべってしまった。


「あの前やったあのクエストってまだあるか?」


「はい、まだありますよ」


席を立ちクエスト応募用紙を俺に手渡した。

しかし問題がある・・・とても今の俺たちがやったところで勝てるかの問題だ。

金はほしいがまだ死にたくはない。


「よっかたら、私も手伝いましょうか? 一応魔導師ですから力にはなれると思います」


状況を理解していたのか知らないが突然そう呟いた。

ギルドの使っていない部屋を一部屋借りて、荷物を二階の部屋に持って行った。

そして最後はこのお荷物巫女だ。

肩を叩くと今回はすんなりと起きてくれた。


「シキおはよう もう朝?」


寝ぼけているコハクの手を引き、二階の部屋に上がった。

念願の部屋と、一人一つの毛布に入った。もう夜中の十二時だった。


朝起きるとコハクはなぜか俺の毛布の中で寝ていた、コハクの頭何回も叩いたが起きなかった。仕方無く大声で起こした。


「おい!コハク起きろ」


寝ぼけているコハクを差し置いてギルド一階に下りた、まだ朝早いのか人はいなく俺だけだった。

周りを一望すると俺だけだと思っていたが教官がまん前ににいた。

慌ててテーブルの下に体を丸めてうずくまった、なぜ隠れる必要があったのかは俺にもわからないが本能的に体が動いた。

しばらく教官はギルドを立ち去り消えていった。

教官と入れ替わるかのように寝癖を直さないまま目をかきながらゆっくりとコハクは下りてきた。


「眠たい・・・ん?シキ何かあった?」


いまだにテーブルの下でうずくまっている俺に対して哀れみの目を向ける。


「別になんでもない・・・ただ黒い彗星が通り過ぎただけ」


テーブルの下からようやく開放され、全身のストレッチをした。


「なに言っているの?それを言うなら赤い彗星か黒い三連星よ?」


そこに食いつくのかは予想外だ。

「あ、黒い」


するとこいつの悪い癖でもある、人の話を遮ることだ。


「え、黒い三連星がいたの?」


さっきの目とは大違いに輝いていた。


「あ―――あれは黒い三連星と言うか黒い一連………」


「誰?誰? マッシュ オルテガ ガイア?」


一人興奮しているコハクを置いて黙って部屋に荷物を取りに戻った。

すると急ぎ足でコハクが来た。


「あ、シキ今日給料日ですよ!」


コハクに話を聞くまで今の今まで忘れていた。

いままで給料なんてもらったことがないから、個人的に興味がある。

準備が完了して一階に降りるとさっきまでガラガラだったギルドが人でいっぱいになっていた、二階から降りてくる俺たちを見つけたのか急ぎ足でセイカが側まで来た。


「おはようございます、今日もがんばりましょう!」


これが差だ、今までコハクはこんな風に挨拶をしてくれたことなんてない。

これに一番近かった挨拶と言えば「シキおはよ、ご飯まだ?」だけだ。

しゃべっていると元教官、ではなく教官がまだかまだかと急かしてくる、その場は一旦放置し仕事を始めた。

いつもと同じで今日も荷物整理、さすがに元引き篭もりの俺には結構な重労働だ。


「これって、どれだけあるんですか?」


返事がない、無視それとも答えたくないどっち?

作業をしていると、休憩時間の合図のチャイムが鳴った。

休憩室に入るとそこにはセイカが俺より早くに先にいた、理想の家庭が目に浮かぶ。


「はい シキさん弁当です」


最近セイカが俺のために弁当を作ってくれるおかげで、お金に余裕ができた。前みたいに水の中に片栗粉を混ぜるだけの悲しい昼食をとることも無くなった。


「そういえば、こないだのことだけど明日ってギルドの仕事はあるか?」


セイカは胸ポケットからメモ帳とメガネを取り出し髪を束ね確認しはじめた。

ポニーテール+メガネって破壊力やばくないか?


「はい、大丈夫です コウモリの群れの討伐ですよね?」


仕事が終わり片付けも済んだ、そして待ちに待った人生最初の給料だ。

先輩でもあるセイカから恐る恐る受け取った。


「はい、シキさん 給料です」


どきどきしながら給料袋の中を見た、こんな気持ちここ十年味わったことがない。中には予想した二倍の五千円も入っていた。

金額の多さに驚き、思わず袋の中を二度見した。


「こんなにももらっていいですか?」


「今までがんばってきたんですから、この額は普通ですよ」


ギルドをあとにコハクがいるギルド内の社交場に向かった。

着くとコハクは、毎度同じくぐったりしてテーブルで寝ていた。


「おい、起きろ」


きつい言い方でコハクを起こそうとしたが起きなかった、仕方がなく肩を三回叩くと要約起きた。


「あ、シキおはよう」


コハクは髪がぼさぼさだった。もっていた櫛でコハクの髪を上から下へと髪をといだ。


「一応女の子なんだから、髪の毛ぐらいちゃんとしろよ」


けして俺は女装趣味があるわけではない、そこのところは誤解を招かないようにしなければ。

一応と言ったが、コハクは気にせずに話を進めた。


「シキ、給料はもらった?」


聞かれ、俺は無言で給料袋をコハクに渡した。

するとコハクはその中身を見ると金額の多さに驚いた。


「シキはこんなにももらったの!」


俺と全く同じ反応だった。

「お前はいくらもらったんだ?」


「あそこ絶対ブラックよ だって、だって、あんなに働いたのにたった二千円しかもらえなかったもん」


その金額にいろいろな意味で驚いた。

櫛でといていない左手で後ろからコハクの頭をなでた。

以外にもコハクの頭を撫でると少し顔を赤らめて下を向いた。

さぁ決戦だ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る