第1話

「ようこそ一ノ瀬 紫樹さんアスタロト ギア オンラインの世界へ」


頭の中にアナウンスが流れる。

次第に機械音は消え、違う声に変わった。

耳元で女性の声がこだまのように何度も聞こえる。


「おきてください!おきてください!」


肩を何度もたたかれ、渋々目を開けると真っ先に入ってきたのは見知らぬ神社。

状況がさっぱりわからない。

だが不思議だ、それは周りの景色が変わっていることではない、土の感触があるのだ。

バーチャル世界ではまず有り得ない、土の湿り気まで完璧に再現されている、いやむしろ現実と言っても過言はないだろう。

体を起こし、ぶつけた衝撃なのか頭痛がしていた。

思い出せない、記憶がところどころ欠損しているかのようだった。

周りを見渡すと紅葉がきれいで日本にはない絵に書いたような場所だった。

見渡し後ろを振り返ると年齢が同じくらいの銀髪の巫女服を着た女の子が座ってこっちをじっと見ていた。

慌てて距離を置くと彼女はクスクスと笑いながらゆっくりと立ち上がり耳に髪の毛をかけ目の前に立ち中腰の体制で話始めた。


「こんにちは、シキさん」


ここからでもわかる彼女は俺よりも身長は小さいということに。


「いま絶対小さいと思いましたよね」


図星だ、軽い苦笑いした。

・・・・・何だよ、こいつ。


「お、思ってないから」


「えー本当ですか?」


「本当に思っていないって……あ、君の名前はなに?」


話を無理やり終わらせ彼女に名前を尋ねると中腰をやめ後ろに手を組み目を合わせた。


「私は秋積神社の巫女のコハクです」


最後にニコッと微笑み俺に手を差し出した。

途惑った俺は手を取るか取らないかしばらく悩んでいるとコハクは手を握り勢いよく俺を起こした。

母と妹以外の女性の手を触ったのは何年ぶりだろうか。

起き上がりまわりを見渡して質問した。


「じゃあコハク、何で俺は神社の前にいるんだ?」


この展開は読める、ただ家に引きこもっていたわけではない日々ゲームの研究をしてシナリオのことならだいたいの流れはわかるここはどうせ………


「あなたは選ばれたのです、さぁ魔王を討伐しに行きましょう」とか言ってチート系能力を手に入れる王道中の王道。

しかし予想していなかった答えが返ってきた。


「シキさんなに言っているすか?今からあなたには、この世界で生きてもらいます。

そこで、メインとなる様々な武器の中から一つだけ選んでその武器のレベルを百にまで上げてもらいます。それと、この世界のどこかにいる悪魔を倒してクリアするまで帰れません、というか帰しません」


ハァ⁉こいつ笑いながらなんて恐ろしい事言ってんだよ。


「あのー聞いてますか?なにぼーっとしてるんですか?」


「ごめん、もう一回いってくれないか?」


手を合わせ頼む呆れ顔をして片手を腰に置いた。


「しょうがないですね、じゃあもう一度言うので絶対に聞いておいてくださいね」


嘘だと思いたかった俺は全神経を研ぎ澄まし聞いた、一群一句聞き落とさないように。


「では早速、シキさんこのままのあなたではすぐに死んでしまいますよね」


過去異世界やゲームの世界でいきなりの余命宣告を受けたのは俺だけだろう・・・

信じたくはなかった、しかし俺の心とは裏腹にコハクの顔はいたって真剣だった、まじまじと俺の目を見てきた、その目からは嘘には見えない。

だが俺も信じたくはなかった、冷や汗が流れる中微かに震える唇を決死の覚悟で動かした。


「いや、そんなすぐに死ぬわけ、、、」


「じゃあ、シキさん今のレベルを教えてください」


反論しようした矢先割り込むかのごとく反論をきっぱりと終わらせた。


「え⁉今のレベル?それは一に決まってるだろ?」


笑った・・・コハクは話を終わる前にあざ笑うかのごとくただ鼻で笑った。


「そうですよね、そうに決まってますよね」


なぜだろう、さっきまでは死ぬと言われ無償に怯え、今はただ目の前で笑うコハクを黙らせたいことだけが頭にある。

さっきまでの敬語とは打って変わって人のことを挑発する言い方に変わっていった。


「じゃあシキさん、あなたはこの世界に来て間もない、言わば赤ちゃん同然のレベル一で、

しかも丸腰、ついでに職業も決まっていな」


ついでは余計だ。


「こんな状態であなたは全く知らないこの世界で生き残れると思いますか?

ねぇシキさん答えてくださいよぉー。ねーねー生きられますかぁ?」


こいつ、今の俺よりこの世界でより長く生きているからってだから初心者の俺をそこまで言わなくてもいいだろう。

昔からそうだ相手にボロクソ言われると頭が白くなってつい反論してしまう。


「だ、だけどよ、この世界って言ってもゲームだろ?ゲームならリスポーンとかあるだろ⁉」


もっともの正論をコハクに突きつけた、うろたえ以下にものリアクションを取った。

ボロが出て証拠だ。


「うぐぅ…………た、たしかにありますけど」


「どんなのがあるんだよ」


続けざまに攻めた、一歩だった・・・コハクは一歩下がり明らかに怯んでいる様子を見せた。

一歩詰め寄った、そして一歩下がるこの流れを五回やり終えるとコハクは渋々口を開き小さな声で口を割った。


「確かに、この世界には魔法使いと言う職業があります。」


「で、それが?」


当然と言ってはなんだが、思った以上に平凡な答えが返ってきた。

RPGゲーでは魔法職がないほうがおかしい、なかったらクソゲーと決め込む奴までいるほどだからだ。

答えが気に食わなかったのか、地面に一定のリズムを付き貧乏ゆすりをするかのように冷め切った顔でこっちを見てきた。


「ちゃんと話は最後まで聞いてください!魔法職には蘇生魔力とかもあるんです!!」


声のトーンが明らかに違かった、さっきの優しい声とは裏腹にとてもその容姿から出るはずもない声が出ていた、それに途中の間が妙に短く感じたのは俺だけだろうか。

その間に少しゾッとし小さく頷いた。


「はぁもう、いいです。この話は一旦後で」


明らかに切れている、どこが気に食わなかったのか検討も着かないが今は無理にこっちのペースに持って行ってはいけないと言うことはわかる。


「今からシキさんには、この世界で生きるために職業を選んでもらいます」


その声はさっきの声とは比べ物にならないほど可愛い声だった。


「職業を身につけてもらうために都のギルドまで行かないとなりません。」


口調の変化が激しかった、さっきまでは煽り口調だったが今のコハクはどこからどうみてもできる女になっていた。


「あ、シキさんまだ武器のことを言っていなかったですね、ちなみに三つの武器から選ら

んでもらいます」


胸ポケットからコハクは長方形の物体を取り出した。

それはどこから見てもスマートフォンだ、それも気になったが俺が一番気になったのは初対面の人スマホなんてマジマジ見ないはずだが。

コハクの持っている機種は最近どこかで見たものと色 形まったく一緒の奴をどこかで見たはずなのにそれが思い出せない。

ひたすらスマホを見る。

慣れた手つきでコハクは片手でスイスイ使っていく、顎に手を置き考えていると目の前に画面を突きつけてきた。

画面を覗くと武器の写真と共に説明まで付けてある、まるで武器図鑑と言ったものだった。


「まず一つ目の武器は使い魔です」


おぉ!うん?使い魔って武器か?

疑問に思いながらもコハクのスマホに写る使い魔を見ると明らかにいや完全に使い魔とは違う中年男性のおっさんが写っていた。


「おい!バカにしているのか?いや、してるよな?」


手をバキバキと鳴らした。


「違うんです、シキさんこいつは最終形態まで行くとそこらにいるモンスターだったら一撃で倒せることができるんです!」


興味が沸いた、確かにこのゲームの中でやっぱり痛みを感じるものだし、わざわざ自分が危険な目に合わなくていい。

少し気になりはじめた。俺が描いたゲーム生活があっという間にできる。


「で、こいつは いままで最終形態まで行った人はいないのか?」


ふとした疑問だった。


「いいえ、いませんこいつめちゃくちゃご飯食べるから食事だけで手がいっぱいになってしまいますし、命令も聞かないし」


まったくもって使えないだろうが・・・


「では気を直して二つ目は鉄の剣です」


さっきのよりはマシだがなぜ鉄をつけるか疑問だ。


「見た目も普通の剣ですが、もしかしたら伝説の剣になるかもしれない剣かも知れません、

ちなみに耐久力が低いですからこっちに大量に変えはあります・・・あと一度装備したら

最後他の武器は使えないのでご注意を」


呪いの剣だろう…

コハクの足元には無造作に剣が置かれて、いや放置されていた。


「で、最後は?」


さっきまでノリノリで武器を紹介していたのに今はモジモジしながら俺の顔をチラチラと何度も見て顔色をうかがっていた。

小さな声でコハクは言う。


「最後はこの私で………」


「すまん、二番目で」


即答だった、話しを中断させ、迷うことなく二番を選らんだ。

一番はまだ使えるかも知れないが、三番は論外だ。


「なんで⁉お願いします‼いろいろ出来ますから‼」


「例えば?」


逆に聞かれるとは思わなかったのか、キョロキョロと目を泳がせひたすら考えこんだ。

五分後―――

なにか思いついたのか目を輝かせた。


「道案内とか、荷物もちとかだからお願いします、一緒に連れて行ってください!」


五分待ってこれか、正直驚いた・・・悪い意味で。

中学生の妹でももっとマシなことを言うぞ。

断ろうと思ったが必死で頭を下げ頼みこんでくる、コハクを見て何を思ったのか彫っとけ

なんでそんなに行きたいか疑問に思い聞いてみた。


「なんでお前はそんなにも行きたがっているんだよ?他の人に頼めば良いだろうが?」


見下すのではなくコハクと同じ視線になるまで背を縮めた。


「だってここの生活つまらないんだもん・・・毎朝決まった時間に起きて言われた仕事を何回も何回も何回も、それにもう頼める人シキさんしかいないしみんな満場一致でいやだって」


満場一致って、、、


「…一緒に来るか?」


コハクは頷き手を差し出した、それに答えるかのように俺の手にそっと手を重ねた。

力いっぱい引っ張り宙に浮くかの勢いで起こした。

しょうがないか。

内心ホッとしたのかも知れない、昔の頃から人の後ろを歩き人の顔をうかがい、他人に依存していた。


「あと、シキさんこれ!」


内ホケットからトランプらしきカードを取り出し目の前に絵柄が俺に見えるように向けた。

「お前ババ抜きがしたいなら他所でやれ…」


冷め切った顔で告げるとコハクは溜まらず顔を赤くさせ。


「違いますよ!固有能力を選んで欲しいだけなんです!」


固有能力?


「固有能力と言うのはですね、この世界の誰もが生まれつきそなわっている能力のことな

んです、それでいまからシキさんにはこのカードの中から二枚選んでもらいます、ちなみにこの世界の人は一つしか能力を持ってません…まぁ主人公補正と考えてもらえれば結構です」


こう言うイベントだよ!俺が待っていたのは、ようやくRPGゲーの主人公になってきた!

そうこうしているうちに一人黙々と慣れた手つきでコハクはカードを切っていく。

ついこういう時間は色々妄想してしまう、能力を持ち将来どんな姿で敵を倒してくのか、ゲームとは違った感覚だ。

見るものすべたが色鮮やかでどうしても空想世界とは思えないできだ。

カードの切る音が止んだ・・・

いよいよだ、俺の冒険者人生の始めの一歩がこの瞬間から始まる。

目を瞑り手の感触で選んでいった、これかこれかと何度もカードを触っては緊張感を上げていく。

緊張の中いまだにカードを触ってははなしての繰り返しだ。

いい加減痺れを切らしたのかコハクは、俺が今触ってはなそうとしたカード以外全部取り上げた。

思わず目を見開いた、俺の手元には取るはずもなかったカード二枚が残っていた。


「シキ・・・長い」


「おい、お前!」


それは誰でも怒るだろう、この能力しだいでは英雄にもなれるかも知れない先代一隅の機会を長いという理由だけで適当な能力になるなんて、誰も望んでいるはずもない。

歯を食いしばり裏面を一枚ずつゆっくりと見ると感じ二文字で書かれていた。


「「異常」「自爆」………えっ⁉」


絶対「自爆」は使わないとこ。

その場で立ち尽くしその二文字を何度も読み返した、そんな俺を見て一人必死に笑い声を止めようと口とお腹を押さえいまにも大爆笑しそうなぐらいに、もがき苦しんでいた。


「しょ………しょぼい……」


「お、お前のせいだろうがァァ‼」


頭を抱え込み膝から崩れ落ちるかのように崩れた。

そんな俺を見てついに笑いの限界を超えたのか大爆笑しながら俺も見下ろしてくる。


「能力の説明はこれ読んでください」


手渡されたのは一冊の本だった、ペラペラとページをめくっていくと能力などの説明が全部書かれていた。

お互いようやく冷静に戻ったのか、コハクの顔からはさっきの顔の影が見えなかった。

どうようにようやく現実を目の辺りにして、冷めたというか諦めたのほうに近い顔つきになっていた。


「ここからどこに行くんだよ?」


「いまから始まりの都に向かいます」


始まりと付けばだいたい想像はつく、初心者が集まり 初心者のための初心者だけのところだ。


「ここから十六時間で着きますね」


慣れた手つきでコハクはスマホをいじり時間を確認し知らせた。


「え?」


「だから十六時間ですって」


最初耳を疑ったがコハクが言い直したのとそのときの表情をみて嘘はついてないらしいと判断したが。


「十六時間⁉」


この丸腰で、この世界に来て早々に死ねと言いたいのか?


「なんでそんなにも時間がかかるんだよ⁉」


当たり前の模範解答みたいな返しで聞いたせいか、不思議そうな顔でコハクが言った。


「だってあなた方このゲームの内容を決めたんじゃないですか?」


・・・そうだった、あくまでこのゲームはあのバカ高橋が作ったんだった、ここに来る前にパソコンで高橋が地図を開きなんかやっていたな。

今更だと思うがやっぱりあのとき高橋殴っていくべきだった。

それとさっきからコハクがニッコリしながらこちらを見ている何かあったのだろうか。


「コハクどうした?」


俺が聞くのを待っていたかのようだった。


「実はですねシキさん私には…………」


パチン


指を鳴らす光に包まれた。

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