第4話 幼少

とある存在の住む世界。

いつも通り、なにもすることがなくて暇潰しに下界を観察していたときのこと。



「……!?ついに、現れたのね」



私がかけた暗示から逃れた人間がついに現れたことを感知した。



「…あら?この子は…」



まさかあのときの子が打ち破るとは。私はクスリと笑って、この子の成長を見守ることにした。



「もしかしたら、あの子なら」と密かに、期待を寄せながら。優しく、微笑むのだった。



◇◇◇◇



家に帰ると、既にリーナは待っていた。このあと、リーナの家でお菓子を食べる約束をしていたのだ。



「また傷だらけ…いつもいつも何してるの?」



リーナが心配そうに顔を覗き込んできて、顔の汚れを拭いてくれた。



実はただ単に山を走り回っているだけで危ないことはしていないのだけど、草木に擦れてどうしても汚れてしまう。

踏んだ石が思ったより不安定で転んでしまうことも多々ある。



それだけ聞くと、ただの奇行に思われるかもしれないが、山を走り回るキチンとした理由がいくつかある。

第一にまず、運動神経を鍛えるためだ。



身体能力の向上は筋力だと思ったが、幼少の頃から筋トレというのは良くないらしいので、とりあえずは足場が不安定な所を、ごく普通の「走る」という遊びで運動神経、反射神経、動体視力を鍛えるということをやっている。



それに僕はもともと自然が好きで、走ると次々と流れる景色を見るのは楽しいし、本で得た知識から、見つけた植物のことがわかるというのも、成長している気がして嬉しい。



少し変わってはいるが、レイにとって山というのは大きなアスレチックのような存在なのだ。




「少し派手に遊んでるだけだよ。危ないことはしてないから安心して」




「心配かけてごめんね」と頭をよしよしと撫でてやると、リーナは嬉しそうにはにかんだ。



レイは性格の悪いアレクを見て、普段から誰にでも優しく接することを心掛けており、言葉遣いにも気を配っている。



だからこそ、周りの女子女性はレイに好感を抱くわけだが、自分と仲の良い異性がいのいのが自分の性格が悪いためだとは一ミリも思っていないアレクは、勝手にレイを妬むのだ。



また、レイもレイでアレクから妬まれていること、友達以上にリーナ達から好かれていることに気づかない、自己向上心の鬼であった。



◇◇◇◇




「へぇ、これが魔力か」



もうあまり、なりふり構わず走り回るような年齢ではない、六歳になったある日。

自室に籠り、テレサに借りた「魔法~初級編~」の本を読みながら、自分の中の魔力を感じ取る練習をしていた。



暖かくて、強い。魔力に初めて触れてそう感じた。

適正魔法を調べる魔道具なんて家にはないから、今は誰でも出来る無属性の魔法を練習している。



無属性魔法は、練習すれば練習した分だけ効果に反映される。

強化、感知、結界etcさまざまなことが出来る、最も汎用性の高い魔法だ。



ただ、魔力をそのまま使うため、魔力消費が激しく、実践では殆ど使用されないためあまり一般的ではない。



だが、魔力を扱う練習をするにはうってつけだろう。しかし、これもまた、そんな練習をするよりも、レベルを上げた方が効率的だという意見が多い。



そういった思考が原因で、魔法は才能がある者しか使わないというイメージが強く、魔法使いの人数は少ない。



まずは手始めに、全身に魔力を巡らせて強化する。



「……うわー、すっご!」



二階の窓から飛び降りても全然平気だ。

軽くジャンプするだけで二階の窓に手が届く。

気分が高揚して、万能感に見舞われた。



「すごい…けど、今人に見られるはまずいな…」



レベルを上げずにこんなことをしていると思われると、僕はますます変人になる。

そう思い、部屋に戻って強化を解除する。



すると、途端に全身に針を指すような激痛が走った。



「いっったぁぁ!!?」



筋肉痛のような感じか。強化し過ぎたのが問題か!初めは若干強化するくらいにすべきだった!



だが、強化を使うには耐えられるだけの筋力をつける必要があるとわかった。これは大きな収穫だ。



程なくして、僕は糸が切れたように意識を失った。

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