第3話 とある兄弟


僕の兄は優秀だ。



それを僕は、幼いながらに自覚していた。兄は双子で、育った環境は同じだが、それでも兄は僕より優秀だった。



双子だけれど、弟より優秀な兄。僕がアレクの兄ではなくて良かったと心の底から思った。



だから、兄にためには他と同じようにはしないと決めた。



そう決めたあの日から、僕は常日頃考えるようになった。



この世界で優位に生きるにはレベルを上げることが一番手っ取り早い。だが、それは皆同じことだ。



そして僕は思った。

レベルが同じだと、実力も同じなのか、と。



僕は、それは違うだろう、と考えた。相手にも得て不得手はあるだろう。

それに、剣術を磨くより、レベルを上げた方が効率的だという意見が多いのは確かだが、それでも技術面の差異は、少なからず勝敗には影響する。




……………





……………




……いや、違う。そんなことを言おうとしたのではない。



この瞬間、何かが僕から切れた気がした。



…そうだ。僕は、レベルが同じなら、身体能力も全く一緒なのかと気になったんだ。



人それぞれ体のの成長は違うのに、というかレベルが上がりにくいという人だっているのに、レベルアップによる能力の成長が皆同じだと無意識にそう思ってしまっていた。



…何故、こんなことが考えられなかった…?

ただその発想に至らなかっただけ?



偶然かもしれないが、僕にはどうしても違和感が残る。



まあ、いい。

かといって検証したわけでもない。確証なんて全くなく、憶測、むしろ妄想といってもいい。



それにもし、検証するとしたら結構リスクが大きい。



なぜなら、もしそれに才能が関係してくるとか、神からの愛情度が関係するのだとしたらお手上げだからだ。また、これを試すには年単位で時間がかかる。

違っていたら確実に他よりも出遅れることになるだろう。



そうじゃない、もっとまともな推測だと、「素の身体能力」が要因だと考えるのが妥当だろう。



この世界において、初めのレベルアップは誤差はあれど、皆幼少の頃。病への免疫力を少しでもつけておくためだ。



もし、能力の成長が、「素の身体能力」に比例して、割合で増えるのであれば、これまで上がり幅の差異に違和感を感じなかったのにも頷ける。



よし、やることは決まった。

もしダメでも、それならそれで商人とか出来るように勉強もしておこう。



身体が少し早熟な兄アレクと、精神が非常に早熟な弟。



この日は、この兄弟が、ライバルとなった日だった。



◇◇◇◇



五歳の誕生日を迎えた。



アレクは同年代と競べてもかなり早く、レベル5となった。相変わらず、人を見下した性格は直らず、近所の取り巻き達を連れている。



「おい、臆病者。いつになったらレベルの一つや二つ、上げようって気になるんだ?」

「まあ、そのうちね」

「無駄だよ、アレク君。天才の君と違って、レイは小心者なんだ」

「それもそうだな。ははは」



取り巻きの一人がレイを小馬鹿にしてアレクを煽てると、愉快そうに笑った。



レイはアレクの性格が嫌いだ。

だから、レイは人を見下すような態度は取らないと決め、他人には極力優しく接することにしていた。



そうすると、横の家のリーナやその横のテレサ達とは仲良くやれている。男友達は居な…少ないけれど寂しくはない。



その代わり、リーナ達と遊ぶようになってからアレクの当たりが強くなった気がするけど、理由はわからない。



もしかすると仲間に入れて欲しいのかもしれないが、それならまずは性格を直して出直してほしい。結局、リーナもテレサもアレクのことはあまりよく思っていなかった。




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