エピローグ
「すみません、最初にお詫びしないといけないんですが……」
銀行に戻ったシロとエルザを迎えたクロエは、済まなさそうにそう切り出した。
バーンズは涼しい顔のまま丁寧にお辞儀をすると、気絶しているノギルを小脇に抱えて受付の奥の方にある扉へ姿を消し、代わりにクロエが出てきたところだった。
「実はシロ様が保険金の請求に来られたとき、先に一度請求があったことは分かってたんです」
「すでに?」
「ええ、誰かが。ただ、書類が揃わないので受付してません。証書もなく、復活証明がどうも偽造っぽかったと……そう記録が残っていました」
「それはいつ?」
「シロ様より二日早く」
「あ……それあたしの復活のじゃないの?」
エルザが声を上げた。
「そうかもしれませんね」
三人は応接の席に座った。彼女はなにやらカップに入った黒い飲み物を勧めながら、自分も一口すする。
「詐欺や違法な請求の可能性もありますし、もしかしたら、犯人が分かるかも……というより、ノギルさまを疑ってました。よくある話なので、上司と相談の上、バーンズを派遣したんです」
「それで仲間を聞かれたのか……」
「彼、何者よ?」
「マッパーですよ。ただし、王都でも彼に勝てる人は五人といないぐらいの武芸達者ですが。当行専属の保険調査官兼護衛です」
「ドラゴンを短剣一つで追い払うんだもんなぁ」
シロがため息混じりに言った。
「いい特約でしょう?」
「確かにねえ」
エルザも感心している。
「ノギルはどうなります?」
「まあ、詐欺と殺人……どちらも未遂ですけれど……衛兵に引き渡されます。あなたが被害者として殺人を不問にしても、保険金詐欺は当行が被害者ですから無罪放免はちょっと……」
「……計画的だったんだろうなぁ」
シロは考え込んだ。クロエは少し間を置いてから続けた。
「それでは請求を受け付けますね」
シロは頷くと冒険者カードを差し出す。
「書類は完璧です。あとは受付証を発行しますね……それと、このご契約は終了してしまったわけなんですが、新規のご契約はいかがですか?掛け金は少し上がりますけど」
「あ、あたしはちょっと……」
エルザは戸惑ったように手を振る。
「……契約します」
少し考えていたシロは、硬かった表情を崩して答えた。
「地獄の沙汰もなんとやらって言いますし、条件付きとはいえ、ドラゴンと渡り合う経験が出来るなら……ね」
シロがはにかみ、クロエは笑顔で頷くと、机の下から羊皮紙を取り出した。
冒険者復活保険~彼はいかにして保険金を受けとることができたか~ 春成 源貴 @Yotarou2019
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