美しく穢れた世界と、
椋畏泪
美しく穢れた世界と、俺
現在
左足の
『
「待ちやがれ! 俺の金を返せ!!」
後方からの無駄に身なりの良い太った男の怒声に
「やだね! そもそも、お前みたいな、薄汚い、ドブネズミが持ってて、良い金じゃ、ねぇんだよ。俺ならもっと世の、ため、人の、ため、
『国境付近』。国境警備隊が
精霊術でさらなる肉体の強化を試みるも俺の貧弱な精霊量では叶わず、また簡易的な精霊術で応戦しようにも、俺の技術では
つまり攻撃手段は無いに等しい。仕方がないので周囲にあるもので追跡者の足止めをできそうなモノを探す。出来るだけ軽く、
すると、酒屋の店先の
――これしかない。――
そう考えた俺は、走行距離のロスも
「バカ、避けろ!」
投擲と同時に男の生命の危険を感じ取った俺は瞬時に叫ぶ。男は
――今日のスリはやめておきなさい――
不意に、先刻のマイからの忠告を思い出す。マイはこの事が予測できていたのだろうか?予測していたなら、
過去
数時間前、金持ち
「
スリに成功し、そこそこの大物がかかった日は久しぶりだったので、言い
周囲の
しかし、どんなに気分が良くてもこの薄汚れた路地裏が俺の愛すべきホームなのに対し、外の世界が
俺も表の人間にはそんな風に見られているのか、そうであれば俺がスリだと簡単にバレてしまうのではないか、
ネガティブになり今日の本来の目的を見失ってはならないと瞬時に考え直し、無理して顔を上げる。壁と壁の
「大将、その
馴染みのオヤジの顔から原虫焼きを連想して空腹に襲われたので声を掛けた。腹の虫が盛大に鳴く。遠くからではさほど気にならないが、店主の体は
「お、にーちゃん、今日は気前が良いね。
毛深く
「まぁね。表のゴミ連中から
大将につられて俺も笑う。大将は
串に刺された肉は、かつて世界最強の種族と
路地裏特有の下水とカビの臭気に原虫焼きの
「ま、そう
串をひっくり返して大将はまた笑った。笑顔からは、
「おかげで大将の
大将に
「少年、分け前を
不意に後方から声をかけられる。相変わらず
「聞いてたのか、マイ。少なくともお前の分は無いぞ」
その女性マイは
「ちょっと! それは無いんじゃないの? 大体、精霊術のイロハを叩き込んでやったのは、どこの美人なおねぇサンだったか思い出してみなさいな!」
マイはいつものキツイ口調で
「精霊術を教えて貰った事には感謝してるが、スリに精霊術は使ってないから、マイの分け前はない」
マイのペースに乗せられないよう
「ちょいちょい、にーちゃん。
大将は
「とりあえず一本やるよ。
俺は
「あら、悪いわね」
マイは不快な
「で、今日は何だよ。
マイは「面倒ではないと思うわ」と言うやニヤつき始めた。嫌な予感を早々に察知した俺はマイの言葉を
「金なら貸さない。宿なら
マイに会った時の
「いいじゃん、ケチ」
「それ食ったら帰れ。迷惑だ」
突き放すように言うとマイは
「じゃ、いくつか忠告。今日のスリはやめておきなさい。それとこの街、
と、マイはそこで言葉を
「お金貸して」
真面目に、発言の内容とは反対に誠実そうな口調で言った。こちらを
「断る」
キツイ口調での返答で自分の負け犬思考を断ち切る。マイはわざとらしく残念な表情を浮かべるも、俺の返答は予想できたのか気にした様子も無さそうだった。
「じゃ、
マイは
「忠告の方は
ため
「コージンサマに見える所は
『
「第一、俺は自分の手と頭で金持ちになって、路地裏の薄汚い連中に良い暮らしをさせてやるって決めてんだ!」
人混みで羞恥の感覚もあったが、これから始まる大一番のため自身に全力の活を入れる。『路地裏の薄汚い連中』には当然マイも入っていたが、
そんなことを考えていると、すぐに目的の場所へ着いた。足を止めて見上げると、
「行くか」
俺は重い足を引きずり、会場へ続く大きな扉に向かう。年に一度の大博打だけあり、
奥は
「失礼、入館許可証のご提示をお願い出来ますか?」
不意に背後から声を
「失礼しました。
「失礼致しました!! まさか西の
こんなに丁寧な
「西の貴婦人、どんな人物なんだ……?」
マイがどんな大物の証明書を偽造したか気になるが、今は
ぐるりと室内を見回すも、どの人物も太ってはいるが腹に
根気よく巡回する。慎重に、しかし確実に獲物を見極める。戦闘になっても俺が圧倒できるレベルの
「あら、あんたまた負けたの? 情けないったらありゃしない!」
「うるさい! お前が赤だといったんだろ!! お前の言うとおりに賭けたじゃないか!」
男女の
と、足を止めた。目の前には標的に格好の、想像した通りの男がいた。身なりは良い。
おそらく、この時の俺も一種の博打の
もう半歩。そこまで近づく。男は現在行われている
「よ、よし! 当たったぞ!! 俺の賭けた数字だぁ!!」
一瞬スリがバレたのかと
先程の賭博の換金が開始され、勝てた人々は換金所の方へ、反対に負けた人々は別の
余りに簡単なことで俺は
「おい……。俺の財布、どこだ? 落とした……のか?」
先程の男の声が
後々考えると無視して歩けばバレなかったろうが、焦りが
「くそ! クソ!!」
走る。ただ、出口へ向かって。何人かは俺が犯人だと気付いたようだが、積極的に関わろうとしないのは幸運だった。
「お前か! クソガキ!! 待ちやがれ!!!」
逃げたことで男は俺に気づく。身体の一部と骨格が金属の鉱人はそれほど早くは走れないだろうと
現在
そんなこんなで俺はこの鉱人から逃走を続け、
重力が真横にかかったような
しかし、すぐに逃走者という立場であることを思い出す。
もう、男は追ってこない。だが俺に安息は訪れず、鉱人に精霊術を使ってしまったという
どのくらい走っただろう。正確な時間は分からないが、日の傾きと鈍い痛みを脳に訴え続ける
初めて来る場所だが妙に懐かしい感覚に襲われ、足を止めた。疲労が急激に襲ってき、近くに設置されている半分に大きな穴が空いてしまってほとんど機能していない、
このままでは眠ってしまうと思い目を開け、せっかくだから今日の儲けでも確認をして元気を出そうと、男から
財布の中身を確認する。
「あー、その可能性もあったな……」
冷静に考えてみれば、その可能性の方が高かった。がっかりする気持ちがありつつも、不思議と
「ま、仕方ないかぁ……」
俺は、財布から数枚の
「完全にマイナスだな、今日は」
「骨折り損のくたびれもうけ、ね」
意味が正しいのか、はたまたこんな変な
美しく穢れた世界と、 椋畏泪 @ndwl_2nd
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