十七月十八日
昨日はとにかく酒を飲み、飲み、そして飲んだ。気が付くとアルコール摂取量が致死量を超えていたらしくわたしは死んでいた。隣で飲んでいたジジイが「おまえ、死んでんぞ」と笑顔を向けてきたので、なんだと、と下を見るときっちりと足がなくなっていた。先ほどまで飲んでいた麦焼酎(いいちこ)の水割りが入ったグラスをつかもうとするも、透過してしまって持てない。困ったことになったナと途方に暮れていたところ、霧吹きを持った店主がカウンターから出てきて、わたしに向かって何かの液体を吹き付けた。すぐに身体は溶け始め、わたしは床に広がる水溜まりになってしまった。
「溶かし剤、買ったんだなあ」ジジイの声が聞こえる。それに答えるマスターの「そうだ」という声。死人は溶かされるらしい。なにも悪いことをするつもりはなかったのだけどナと寂しい気持ちになりながら、その場を移動しようとするも水溜まりのため動けない。床に水たまりが広がっているのも悪いなあと思うが声が出ないので謝罪を伝えることもできない。聴覚と嗅覚、触覚、意識なんかははっきりと残っている。酔ったジジイがよろめき、わたしを踏みつける。踏みつけられる感覚はあるが痛みはない。水は痛みを感じないらしい。「この水、どうすんだ。踏んじゃったよ」ジジイの声がして、「後で片付ける」マスターの声がした。
しばらくして、ジジイの足もなくなった。摂取したアルコールが致死量を超えたのだろう。水割りグラスを持ち上げようとして、自分が死んだことに気付いたらしい。「おいおい、俺も死んだぞ」ジジイは店主に告げ、店主は「ああ」と答え、先ほどと同じ霧吹きを持ってカウンターから出てきた。液体を吹きかけられたジジイはみるみる溶けはじめ、液体になってわたしと混ざり合った。(これってセックスになるんか?)ジジイが低俗な意識を流し込んでくる。(セックスでしょうね)わたしが返事を返すと同時に、カウンター内に戻った店主が「売上がマイナスだな」と呟いた。
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