二月二一日

 本日は仕事を早々に終えて酒を飲みに行った。仕事もプライベートもボロボロである。ボロボロのときにそのへんの人間と飲みに行くなんてバカなことをしてはいけない。風呂に入らないため脂ぎった頭髪はベタベタに固まり、耳が遠く歯がなく唾を飛ばしながら意味不明な言葉を喚き散らし、ぼろぎれを身にまといしジジイババアと酒を飲まねばならんのだ。定時きっかりに仕事を終わらせたわたしは、急いで職場をあとにした。やらねばならないことが残っていたものの、そんなことは気にしていられない。連日の「叱られ」でもはやヒットポイントもマジックポイントも残っていない。職場のビルをあとにして一応携帯電話を確認したところ、上司から飲みの誘いが入っている。あっちゃあと思うも無視を決め込んだ。本日は気を遣う元気もなかった。

 わたしの職場付近は繁華街である。繁華街といってもきれいなものではなく、性風俗店と飲み屋が混在する場所だ。わたしが帰るときには立ちんぼの女性と呼び込みのボーイが多量に発生しており、通行人を呼び止めている。そのあたりで飲もうかと画策していたものの、なんだか店を探すのが面倒になってしまった。やはり、自宅の近くが一番よい。

 わたしの自宅はなかなか終わりの人間が住んでいる。自転車をとめていれば三分で盗まれてしまうし、荷物から一瞬でも目を離したが最後、瞬間なくなっている。トイレのドアにカバンをぶら下げていれば天井との隙間から盗られるし、しかし、どこかの変態がトイレにつけて放置していたらしい隠しカメラで犯人が特定されることもある。そういう街なのだ。

 わりと頻繁に通っている立ち飲み屋である。アサヒビールの大瓶が四百円だ。かなりうれしい価格だろう。瓶ビールとイカの塩辛とおでんの大根を三つ注文する。おでんの大根は無限に食える。ウメエウメエとやっていたところ、見たことのあるババアが声をかけてくる。ボサボサの白髪まじりの髪を後ろで雑に束ね、家にあった服をすべて着てきたのかと言いたくなるようなファッションセンス。彼女は「久しぶりねえ」とかなんとか言いながらわたしの隣に自分の酒をおく。わたしも「一週間ほど前に来ましたが、お会いしなかったみたいですね」とかなんとか言いながら笑顔をつくる。「おでんの大根三つも食べて!他のものも食べたら?」なんて言われて、「おでんは大根が一番美味しいので」なんて返す。こういうのだ。誰も傷つけない、けれども世間体とかそういったところから離れたところで会話がしたいよ。

 一時間ほどババアととりとめのない会話をし、ビールの大瓶を空けてから店を出た。わたしが会計を店主に告げると、ババアはほかの客のほうに向かい「久しぶりねえ」なんて言ってる。本日より、明日はマシな日になる気がするよ。

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