朱い惑星 2

 マリンゴートの廃工場地帯から少し離れた街場に、一軒の古書店があった。

 マルス・クレインは、その古書店の前に立ち、何回かドアをノックした。しかし出てくる人は誰もいなかった。

 今日は、店休日だった。

 だが、マルスはそのドアをノックし続けた。

 すると、耐えかねたのか、その古書店のドアの鍵が開き、一人の老婆がドアを開けた。ドアの前に立っていたマルスの顔を確認すると、落胆したようにため息をついてドアを閉めようとした。しかし、マルスはそのドアを開けたまま、老婆を睨みつけた。

「ここに、あいつがいるだろう」

 すると、老婆はまた、ため息をついた。

「あいつとは誰だい? ここには私だけだよ」

「しらばっくれるのか。だったら、僕が化けの皮を剥がすだけだ」

 マルスはそう言い、老婆が何かを叫ぶのをそのままに、店内に入って行った。

「こんなことをして、ただで済むと思っているのかい、赤目の兄ちゃん!」

 そう言われて、初めてマルスは動きを止めた。

「そうだ、僕は赤目だ」

 マルスは、そう言いながら、老婆の胸ぐらをつかんだ。

「僕の目は朱色の目だ。この星の紅とも違う、母星である地球の瑠璃色とも違う」

 そう言い捨てて、マルスは老婆を放し、古書店をあさり始めた。老婆はそれをただ見ているだけで、何も言わなかった。

 しかし、マルスが、店の奥にある本棚に手をかけたその時、老婆が拳銃を構えて、マルスのすぐ後ろに立った。

「それ以上は行かせないよ。ここは、あたしのシマなんだ。これ以上荒らしたら許さないよ」

 しかし、マルスは動じなかった。

「困ったな。これじゃ、大事な証拠を失いかねない」

 マルスがそう言ったそのすぐ後のことだった。

 古書店の間ドアが勢い良く割れた。それと同時に、老婆が拳銃を取り落とした。

「スナイパーは、配置しておくものだ」

 マルスはそう言って右手を窓のほうにかざした。そして、老婆の持っていた拳銃を床から拾い上げると、それを老婆の額に押し付けた。

「さて、あんたには聞きたいことがある」

 マルスは、そう言うと、ちらりと窓の外を見た。まだ、スナイパーであるシリウスはいるだろうか。彼は、読唇術が使える。こちらの状況をうまく掴めているはずだ。

 マルスは、続けた。

「ジョゼフは、どこだ」

 老婆は、笑って答えた。

「答える義務はあるのかい? 兄ちゃん、その拳銃に弾はないよ」

 すると、もう一発、どこからか弾丸が飛んできて、本棚にある本に穴をあけた。壊れた本の紙が散らばる。

 老婆の顔が青ざめた。

「答える義務はあるさ。お前がここにいる限りは」

 老婆は、マルスのその言葉と、ここに打ち込まれた二発の弾丸のおかげで、震えていた。

 恐怖に支配された老婆は、簡単に口を割った。

「ジョゼフはクリーンスケアに行ったよ。もう、あんたたちの手に負えない世界だ。あの人を殺したいんだったら、クリーンスケアと事を構える覚悟がいるだろうよ」

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