二、朱い惑星

朱い惑星



 ああ、ここはどこなのだろう。

 地平線まで続く赤土の大地。空気は薄く、極地は寒い。

 山はどこまでも高く、地球のそれに比べるとはるかに大きい。

 赤土の大地に海はなく、乾いた砂漠のような大地が広がりを見せている。

 この、不毛な地に輝く伝説や希望。それは地球のそれと匹敵するほどに大きく、人の心をつかんで離さなかった。

 太陽系第四惑星、火星。

 その星に多くの人間が期待する、テラフォーミング。

 朱色の星を青く染め、海を作り、人を置く。

 いまだ成し遂げられていないそれは、はるか遠くに人類の夢を置き去りにしていった。

 地球に住む人々が、増え続ける人口におびえ、月や火星への移住を夢見るころ、彼らは、地球にもっとも近い環境を持つ火星にすべてを投げ込んだ。

 地球人類の移住先としての火星、生命の存在を期待している人々の希望。

 火星は、地球人類が地球において飽和状態にならなければ、見向きもされたかったのだろうか?

 だとしたら、地球人とは何と勝手な生き物なのだろう。

 それなのに、火星はいつも、地球をその身に宿していた。火星もまた、自分にないものを地球に求めていた。

 黒い土、豊富な空気、強い引力、豊かな海、青い空、地平線まで続く緑。

 すべてが憧れであり、火星にないものだった。

 もし、人類がやってきて、何百年もかけて火星を地球のような住環境にしたなら、いつかそれを得られる日が来るのだろう。いびつな形の月に衛星を配し、快適な環境で暮らす人類。火星もまた、それを夢見ていた。

 地球と火星は、もともとそういう関係であったのだ。

 その在り方は、そう簡単には変えられない。

 ふと、火星は、遠くに青く輝く一点の光を見た。

 ともに、太陽の光を受けて輝く星。その色は対照的で、また、魅惑的でもあった。

 マルス・クレイン。

 地球に生まれ、紅の星にわたり、地球のシリンを探し続けてきた彼は、今、一つの目標を達成させ、また、新しくわいた問題をその腕に抱えていた。



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