第二の星 5

 深い雪に覆われた雪原に飛び出して、どれだけの時が経っただろう。

 おそらくはそんなに時間は経っていないのだろう。マルスの焦る心が時間を引き延ばし、雪原をさまようだけの状態がそれを助長させているだけだろうから。

 教会から雪原を東に進んで約三キロ、マルスは、車を止めて、あたりを捜索することにした。東といっても、この広い雪原での東は、想像よりも広範囲だった。わずかに感じる人のぬくもりを頼りに、草原を進む。

 少し経ってから、車に乗るためにマルスは雪原を元の場所に戻った。先ほどから何か嫌な予感がする。何もなければいいのだが。

 マルスは、今、少し冷静になっていた。ただやみくもにこの草原を探していては何もならない。少し対策を立てなければならない。そう思って車に乗り込むためにそちらに向かった。

 雪原から少し、車とマルスの間には川があり、その川には小さな橋が架かっていた。その橋を渡ろうとしたとき、マルスは、この草原に会ってあるはずのない、人影を見つけた。

 マルスは、急いでそちらに走って行った。人影は橋の欄干にしがみついて、ゆっくりと歩いていた。雪にまみれたその体は、今にも雪原に埋もれてしまいそうだった。

 マルスは、そこで、あっと声を上げた。そして、ガタガタと震える足でその人影に近づいていった。

 マルスが近づくと、その人影は、彼を確認して、その場に足をついた。マルスはそれを受け止めると、今にも泣きだしそうな声で嘆いた。

「マルス」

 人影は、マルスの背に手を回して、その体を抱いた。

 アースだった。

 手は凍傷になりかけていて、感覚はもうなかった。しかし、今ひとたび、温かい身体に抱かれて、安堵に体の力を抜いた。

 そして、気を失った。

 マルスは、自分の腕の中で力を失っていくアースを抱えて、車に乗り込んだ。しかし、そこで非常にまずいことに気が付いた。

 車のエンジンがかからない。

 見ると、雪がエンジンルームにまで入り込み、さらに、その雪に埋もれてしまっていて、エンジンがかかっても動けなかった。

 もはやここまでか。

 そう思って、自分の手を見る。アースと違い、まだ凍傷にはなっていない。手袋もしていたし、何とか使えそうだ。

 マルスは、思い立って、アースの、凍傷になりかけた手を握った。

「僕の、この力なら、教会に」

 マルスは、祈るように自分の手を顔の前に持って行った。アースの体中に、そして、意識の奥底に眠る力が呼び覚まされて、マルスの中に流れ込んでくる。

「アース、君が大事なんだ。だから、死なないでくれ」

 そう祈りながら、マルスは、そこから忽然と姿を消した。

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