ファイル3 桃太郎
「またかよ……」
市民センターに設置された『なんでもお悩み相談室』のカウンセリングルームでおれは頭を抱えた。原因は受付兼助手の
『氏名、OBA。年齢、55歳。性別、女性。職業、主婦』
また、OBAの相談だよ。ついさっきも、OBAの相談を受けたぞ。偶然にしてはおかしいだろ?
やはりこれは
カウンセリングルームには、初老の女性が座っている。
まずは、相談者の話を聞くことが大切だ。相談員の基本中の基本の姿勢だな。
「おめえさん、どうしたね?」
「洗濯機が壊れたので」
「
「はい。そこで川に洗濯に行きました」
相談というよりも、
「洗濯機が壊れた
「ええ、川で洗濯してたら、桃が流れてきたので拾いました」
「
「ええ。桃は家に持ち帰りました」
「桃
「桃を持ち帰った日から、大変なことが起こりました」
なんだよ、大変なことって。前置きが長過ぎるだろ。
「大変なことってなんだい?」
「玄関の前に、犬と猿と雉がいるんです」
川で流れてきた桃に、犬、猿、雉かよ。なにかピンときたぞ。そうだ。十四代前の相談員の申し送り状にあったような気がする。
確か――桃の中から男子が産まれる。男子は成長し桃の大将となって、きび団子で犬と猿と雉をたぶらかして部下にするんだ。桃の大将は、犬、猿、雉を引き連れて、鬼が島を征服する。鬼が溜め込んでいたお宝
いけない。忘れるところだった。
おれは、相談票の相談内容欄に『玄関前に
「犬と猿と雉
「ええ。犬と猿と雉が、何やら落ち着かない様子なんです」
「
「はい。犬と猿と雉にきび団子をあげてみます」
ところで、桃の大将は何をやっているのだろうか。
「ところでおめえさん、拾った桃はどうしたんだい?」
「桃は傷んで腐ったので生ゴミで出しちゃいましたの」
「
「桃はねえー。わたしは、家に帰って犬と猿と雉にきび団子をあげてみます」
「ああ。きっと犬と猿と雉は
「ええ。先生。ありがとうございます」
「
初老の女性はほっとした表情で、相談室から出て行った。これで、きっと
おれは、相談票の対応内容欄に『犬と猿と雉にきび団子を与えることを推奨』と記述した。
「高木さん、次の方お願い」
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