ファイル4 鶴の恩返し

「先生、次の方の相談票です」


『氏名、Y.H。年齢、28歳。性別、男性。職業、会社員』


 受付兼助手の高木加奈子28歳Dカップから渡された相談票を眺める。いたって普通だな。


 とりあえず、話を聞いてみなければ、始まらない。


「おめえさん、どうしたね?」

「妻の様子がおかしいのです」


 男の様子を覗えば、いわゆる熱烈的愛好者キモオタ系男子である。風貌は女性には非常に縁遠い感じであって、少々信じられない許せないぞ


「おめえさんの奥さんが?」

「はい。妻が部屋から出てこないのです」


 愛想をつかされたんだろうね。夫婦関係の相談は長引くから大変なんだよなギャラ上げろ小林。まあ、とりあえず、詳細な情報収集だ諦めたほうがいいぞ


「おめえさんの奥さんはどんな人だい?」

「『鶴みー』に激似です」


 通称『鶴みー』とは鶴見さやかのこと。大人気アイドルグループのセンターを張っているめちゃくちゃ可愛い若い女性だ。鶴みーに激似とは、信じられない全く許せないぞ。


「鶴見さやか似の奥さんですかい?とは許せんぞ

「ほらっ見ます? デュッフッフ」


 キモオタ男が、スマホ画面の画像を見せてくる。確かによく似ている。呆れるほど似ているのだ神様は不公平だよな


 いけない。忘れるところだった。相談票の相談内容欄に『部屋から出てこない妻への対応方法』と記述した。


「おめえさん、いつ結婚したね?」

「三か月前に、突然知り合いでもないのに、鶴みーが押しかけてきて結婚してくれと言われました」


 何だよ。そのシチュエーションは? 全く信じられないぞおれに女運分けてくれ


 あれ? なんかピンときたぞ。鶴、押しかけ女房、部屋から出てこない。九代前の相談員の申し送り状にあったような気がする。


 確か――怪我をした鶴を助けた平凡なキモオタ男に、鶴が美しい女性鶴見さやかの姿で強引に嫁にくるんだ。そして、妻は部屋に閉じこもって綺麗な布を織る。男に覗かないように警告して。男は布を売ってかなり富を得る。ところが平凡なキモオタ男がつい部屋を覗いてしまうと、美しい女性鶴見さやかは鶴の姿に戻ってどこかに行ってしまう結末だった気がする。


 まてよ。まだまだ情報が足りないだろう。


「おめえさん、数か月前に鳥を助けたことないか?」

「ええ。四か月ほど前に、北海道で怪我をしたタンチョウヅルを手当てしました」


「タンチョウヅルを手当てしたんだな?よ、おれに来てくれ

「ええ。可哀そうだったので」


 まだ少し情報が足りないだろうお願いだから、神様嘘と言って



「おめえさんの奥さんは仕事しているかい?」

「服飾デザイナーをしています」


服飾デザイナーかいアパレル系だよな

「ええ。部屋というのも妻の仕事部屋です」


 間違いない。機織はたおりもアパレル系だよな。間違いない。コイツは本物だぜ鶴みーカムバック


「おめえさん、部屋を、絶対に開けちゃなんねえぜ今すぐ開けろといいたい

「ええ。絶対に開けません」


おう、おう間違えて良かったなあ、おい開けてもいいぜ


 男はほっとした表情で、相談室から出て行った。これで、きっと心が休まって悩みも消えるはずだ。いい仕事を終えた充実感残念感がある。


 おれは、相談票の対応内容欄に『妻をそっとしておくことを推奨』と記述した。


「高木さん、次の方お願い」

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