ファイル4 鶴の恩返し
「先生、次の方の相談票です」
『氏名、Y.H。年齢、28歳。性別、男性。職業、会社員』
受付兼助手の
とりあえず、話を聞いてみなければ、始まらない。
「おめえさん、どうしたね?」
「妻の様子がおかしいのです」
男の様子を覗えば、いわゆる
「おめえさんの奥さんが?」
「はい。妻が部屋から出てこないのです」
愛想をつかされたんだろうね。夫婦関係の相談は長引くから
「おめえさんの奥さんはどんな人だい?」
「『鶴みー』に激似です」
通称『鶴みー』とは鶴見さやかのこと。大人気アイドルグループの
「鶴見さやか似
「ほらっ見ます? デュッフッフ」
キモオタ男が、スマホ画面の画像を見せてくる。確かによく似ている。
いけない。忘れるところだった。相談票の相談内容欄に『部屋から出てこない妻への対応方法』と記述した。
「おめえさん、いつ結婚したね?」
「三か月前に、突然知り合いでもないのに、鶴みーが押しかけてきて結婚してくれと言われました」
何だよ。そのシチュエーションは?
あれ? なんかピンときたぞ。鶴、押しかけ女房、部屋から出てこない。九代前の相談員の申し送り状にあったような気がする。
確か――怪我をした鶴を助けた
まてよ。まだまだ情報が足りないだろう。
「おめえさん、数か月前に鳥を助けたことないか?」
「ええ。四か月ほど前に、北海道で怪我をしたタンチョウヅルを手当てしました」
「タンチョウヅル
「ええ。可哀そうだったので」
「おめえさんの奥さんは仕事しているかい?」
「服飾デザイナーをしています」
「
「ええ。部屋というのも妻の仕事部屋です」
間違いない。
「おめえさん、部屋を、
「ええ。絶対に開けません」
「
男はほっとした表情で、相談室から出て行った。これで、きっと心が休まって悩みも消えるはずだ。いい仕事を終えた
おれは、相談票の対応内容欄に『妻をそっとしておくことを推奨』と記述した。
「高木さん、次の方お願い」
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