予期せぬ訪問とショートケーキ2
「・・・・・・どうして分かったんだい?」
一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元の表情に戻ったアルフォンスはなぜ?と問いかけてくるが答えは簡単だ。
「貴方の振る舞い、と言うよりもヴィーの態度ね」
ヴィクターは貴族だ。それも公爵家の次男だと聞いている。それに加えて国王陛下直属の騎士団所属だと知っているからこそ、普段と違うヴィクターの態度が気になった。
「俺の態度・・・・・・?」
「やっぱり無自覚だったのね」
明らかに自分よりも身分が上の人に対する接し方だったと言えば、ヴィクターは肩を落とし目の前の人物は面白そうに目を細めた。
「へぇ、よく見ているね」
「同僚、と言うには丁寧だし、ただの知人だとしても距離が近いから、何かしら繋がりはあるのだとは思ったんだけどね」
当たってた?と聞けば、アルフォンスは正解だと言うように頷いた。
「私とヴィクターは幼なじみなんだ」
「俺の父が宰相で国王陛下とも親しくさせてもらっていて、アルフォンス様とも幼少の頃からの付き合いなんだ」
「ヴィクターは昔から俺の遊び相手であり、友人だと思っているよ」
「どちらかと言えば体のいいおもちゃだったような気も・・・・・・」
「ヴィクター?」
「いえ、なんでもありません」
二人の力関係が見えるやり取りに、良い関係が築けているのだと感じた。それと同時にいつもよりも素直な姿に笑いが零れた。
「・・・・・・なに」
「ふふっ、今日はいつもよりも可愛いなぁって」
「かわっ?!」
「だって、いつもはもっと格好つけてるでしょ」
どこかショックを受けたように固まるヴィクターを前につい笑いがこぼれてしまったが、決して馬鹿にしているつもりはない。
年下なことを気にしているのか、いつも灯の前では物分りの良い大人ぶってみせているヴィクターがアルフォンスに振り回されている様は面白いし新鮮だと思っただけた。
何よりそっちの方が素を見せてくれているようで、灯は好きだ。
それをそのまま伝えればヴィクターはなにか言いたそうにしながらも、視線を逸らした。だけど完全に顔は隠せていないし、赤くなっている耳は隠しきれずに見えているので表情はバレバレだ。
そんな拗ねた子供みたいな顔にますます可笑しくなって笑ってしまった。
「へぇ〜お前でもそんな顔をするのだな」
「うるさいですよ、アル」
「呼び方が昔に戻っているぞ」
「失礼しました、アルフォンス殿下」
「やめろ」
「仲良しね」
王族だが気さくなアルフォンスの態度にこんな王族もいるのだな、と思いながら二人のやり取りを眺める。アルフォンスの言葉にいつもの調子に戻ったヴィクターだが、若干疲れた顔をしているのは今日のように振り回されたことが、過去にもあるのだろう。
それに加えてサラリと暴露されたがアルフォンスの父親は国王陛下らしい。つまりアルフォンスは王子様ということになる。
「つまりあなたはマジーク国の、王子で合ってる?」
「あぁ、一応王太子だ」
よろしく、と言われたが正直困る。森の魔女としては、どこの国とも仲良くするつもりなど灯にはないのだ。
それこそ灯は自分の存在が異質であると分かっている。神様に頼まれたからとはいえ、その見返りに与えられた力は強大で使い方を誤ればこの世界を滅ぼす可能性もある。
自分一人の存在で、国同士のバランスが崩れかねないほどの力があることも分かっているからこそ特定の国と親しくしない、深く関わらないと決めていた。
そう決めていたからこそ静かにひっそりと森の中で平穏な生活を願い大人しく暮らしていたのだ。
それなのに王太子であるアルフォンスがやってきた。
それ自体に驚きはないし、過去に何ヶ国か接触を図ろうとしてきたものもいたので、これが他の国であればいつも通り無視するか、もしくは適当に流していた。だがこれまでなんのアクションもなく静観を保っていたはずの国だからこそなぜ?と思うのだ。
これまでお互い関わってこようとしていなかったのに、なぜ?と。
森の魔女の噂なら、随分と前から把握していたはずなのに、と。
「それで?本当の目的は何?」
今更何をしに来たのか、もしくは何を求めているのか。
その返答次第では森の結界を強化する必要があるかと考える。基本的に悪意のあるものは近付けないようになっているが、強すぎる望みを持つ者は例外となる場合もあるので、もっと細かく設定する必要があるかもしれない。
しかし、そんな灯の考えを他所にアルフォンスの答えはシンプルだった。
「なにも?というか本当に君に会いに来るのが目的だったけど」
「はぁ?」
「森の魔女に会ってみたくてね」
だからヴィクターに無理を言って連れて来てもらったのだ、と続けられたそれに開いた口が塞がらない。
一体どこの国に、ただの魔女と呼ばれている人間に自ら王族がわざわざ会いに来るのか。しかも護衛一人で。
「私が君に会いたいと望んでいるのに、他の人間を連れて来るのはおかしい話だろう」
「それは、そうかもしれないけど・・・」
それでも普通、というか灯が知るこれまでの王族は一方的に手紙を送り付けて呼び出してきたり、灯を探し出そうとしたり勝手にモノ扱いする礼儀のなっていないものが多かった。もちろんそんな相手には顔すら見せていないのだけど。
「だからといって、そんな望みでこの森を抜けれたの・・・・・・?」
「実際、その望み通りここに来れただろう?」
「それは、そうなんだけど・・・・・・」
強い望みがなければ、例外を除いてこの森を抜けて灯の元へ辿り着く事は出来ない。
それは自分自身がよく分かっている事だが、実際王族であるアルフォンスに言われるとすぐに納得することが出来ない。
チラリと確認するように、静かに控えているヴィクターを見れば嘘はないというように頷かれたが、やはり直ぐに納得は出来なかった。
先入観だと言われたらそれまでかもしれないが、それでも何かほかにあるのではないかと疑ってしまうのは灯がこれまでに王族や王族の使いと名乗るものから受けた扱いがあるからだ。
直接でないにしても、日本人である灯には理解の出来ない人権も道徳もない、人をものとしか思っていないそれに何度青筋を額に浮かべたことか。
そんな思いが顔に出ていたのか、灯の反応に王太子であるアルフォンスは仕方が無いと言いたげに苦笑を浮かべた。
「王族と聞いて君がそう思うのも仕方ないことなのだろうけど、国は関係なく私は本当に君に会いたかっただけだよ」
「・・・・・・一応そういうことにしておくわ」
「本当なんだけどなぁ」
はいはい、と半分流しながらカップに残っていたお茶を流しこんだ。そうすればすぐに新しいお茶をいれてくれるヴィクターに好感度が上がったのは内緒だ。
「まぁ、あえて言うならば君の今後について少し聞きたくてね」
「今後?」
それはどう意味だと見つめれば、アルフォンスは真っ直ぐに見つめ返してくる。
「君は何をしたいんだい」
これから先、何をどうしたいのか、と。
先程の柔らかな雰囲気とは一変してピリッとした緊張感が一瞬流れるが、灯は逸らすことなくその視線を受け止めた。
そう問われるのは初めてではないが、昔から灯の答えは変わらない。ここに来た時から、そうあると決めているから。
「何も、私は望まれたからここに存在するだけよ」
この世界に存在する神様に望まれたからこそ、灯はこの世界に存在する。それは灯と神様の間で交わされた約束であり、外野は関係ない。その為にたくさんの話し合いを神様と交わして、理解のうえでここにいるのだから。
「それに国は関係ないし、特定の国と関わる気もないわ。大体ここはどこの国にも属さない独立国家のようなものだから」
だから例え相手が王族であろうとも、どこの国にも従属する気は無い。
「一応ここはマジーク王国の領土にある森のはずだけど?」
それでもこの森はマジーク王国の領土だとアルフォンスは主張するが、それに灯は鼻で笑って応えた。
「それは地図上の話でしょう。実際ここはどこの国でもあって、どこの国でもない場所なのよ」
「それを証明するものは?」
それが証明出来なければ、ここはマジーク王国の領土であり、当然だが灯はこの国に属する人間だと。
灯の言葉にそう話すアルフォンスはここがマジーク王国の領土であることを疑っておらず、ただ事実を述べているように見える。実際何も知らなければそう思うのは無理のないことで、何度もこの森に訪れているヴィクターも同じことを思っているのだろう。
灯を見つめる眼差しは心配げでありながら、どこか困惑が見え隠れしていたから。
「・・・・・・見た方が早いわね」
「見る?」
それはどういう意味なのか?
その意味を問いかける前に立ち上がった灯は少し付き合って欲しい、と言うとスタスタと外へと出てしまった。
「アカリ?一体どこに・・・・・・」
「すぐそこよ」
玄関を出て、すぐ側にある森の出入口に通じる場所を灯は指さす。正しくは今日アルフォンスとヴィクターが通ってきた道がある方向を。
「あなたたちはこちら側から来たけど、この先は何処に通じると思う?」
「この先、というと・・・・・・」
「マジークだろう?」
この森はそもそもそんなに大きくないので、森を抜けた先も同じマジーク王国の領土だろうとヴィクターは疑いもなく答える。
「本当にそうかしら?」
あくまでそれは想像であり、彼らの言葉は見てきた答えではない。それならば実際に自分の目で確かめてみればいい。
ここがどこで、どういった場所にあるのかを。
それだけ言うと灯は先導するように歩き出す。灯の言葉に疑問は残るが、一先ず言われた通りに従おうとアルフォンスとヴィクターは彼女の後ろを追いかけた。
「どこまで行くんだ?」
「もうすぐよ。ほら」
「っ!これは!!」
一番最初に目に飛び込んでくるのは、青と白。
そして潮の匂いと降り注ぐ太陽。
灯からすればもう見慣れた景色の一部だが、彼らにとってはそうではないだろう。現に呆然と、どこか受け入れられないようにその景色を見つめていた。
森を抜けた先には綺麗な青い海と白い砂浜、そしてその奥に見えるのは白を基調とした建築物が建ち並んでおり、それは明らかにアルフォンス達の国・・・・・・マジーク王国とは異なる景観だった。
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