保健室

「う~ん……」

 真也は保健室で目覚めた。

「あれ、何で?」

 真也は辺りを見回しながら呟いた。

「少し疲れているみたいだね。大丈夫か?」

 見慣れない中年の男が立っていた。

「誰?」

 真也は半起きになって男に訊いた。

「その人、市民病院の田中先生。今日はたまたま用事で来られていたの」

 背後から養護教諭の立川が答えた。

「あっどうも……」

 真也は小声で挨拶をした。

「どこか痛みは無いかね」

「あの、首が痛くて」

「ああそれか。どうしたもんかね。自分で絞めたのかな……」

 田中は真也の首を見ながら不審な表情で答えた。

「自分で? すみません。覚えていないんです」

「まあ帰ったら、親御さんに話してみなさい」

 田中はそう言うとベッドの前から去った。

「もう少し休んでいなさい」

 立川は真也に話しかけると田中の後を追うように部屋を出て行った。

「何だよ……」

 真也は仰向けになって暫く天井を見ていたが、首の痛みが気になり携帯電話を取り出して自分の顔に向けた。

 画面に顔が映るとズームインして首の部分を見た。

 首に内出血の跡が数か所残っていた。

「何だ、これ……」

 内出血の跡から指の形を想像した。そして首を絞められた感覚を思い出した。

(そうだ。あの時首を絞められたんだ。見上げたら……)

 脳裏に浮かんだ顔の見えない『誰か』に真也は思わず「うわっ」と叫んで携帯電話を手放した。誰もいない保健室なのに真也は視線を感じた。

「誰もいない。誰もいない……」

 自分に言い聞かせてベッドで横になるとまた首の痛みが疼いた。

 その痛みの箇所に爪を立てて食い込む感覚がした。

「いた……」

 真也は声を上げようとしたが声にならず目を開ける勇気も起きずにただ黙って痛みに耐えた。

 耳の穴に髪の毛のような長い物が入ってきたがそれでも目を閉じたまま耐えた。

(痛くて死にそうだ。助けて……助けて……)

 真也は心で叫んだ。爪が首に食い込む力が増してきた。

 ガラガラ──

 保健室のドアが開く音がした。

 首を押さえていた力が消えた。

「ゲホゲホ!」

 真也は激しく咳き込んだ。

「大丈夫!」

 立川がうずくまっている真也に駆け寄った。

「うわっ……」

 立川は小さく叫んだ。

「首を触らないで!」

 更に大声で叫ぶと医薬品の並ぶ棚に向かった。

 真也は咳き込んだまま小さく「はい」と呟いた。

「はい、気分を落ち着かせて」

 立川が真也の首に消毒液を染みこませた脱脂綿を当てた。

 真也が「つっ!」と小さく叫んだ。

「こんな事やったのは初めて?」

「こんな事?」

 真也は立川が言っている意味がわからなかった。

「そう、初めてなのね。担任の先生には言っておくから午前中は休んでいなさい」

 真也の首を包帯で巻きながら立川は優しく言った。

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