閻魔の持つ力

「ふむ、伽滅羅キャメラで仏力を絞り出しても、この程度しか壊せませんでしたか。閻魔と言っても所詮は地方勤め。大した事はありませんでしたな」


「何だと?」


「まぁ宜しいでしょう。ここまで脆くなったのなら、そこに幽閉されている我が配下達でも十分全壊は可能でしょうからな。ご苦労でした、間抜けな閻魔殿」


「こいつ、俺の力を使って……おいジジイ! もしやてめぇ、“ マーラ” の一味か!?」


「ええ、ご名答。といっても、しがない中間管理職というやつです。いい加減部下が少ないと何かと不便でしてな。――さんしょう達よ、あるじ自らの出迎えだ。死に体の地獄門より我が下に集い、再び破壊の限りをつくそうぞ」


“マーラ”。太古より仏の教えに背く『魔』の者。ここ数百年は大人しくしていると聞いていたのに、まさかこのタイミングでこの衛門府を狙って来るなんて……。


「一応、名乗っておきましょうか。“僧正ギリメカラ”と申します。以後お見知りおきを。と言っても、すぐにあなた方とはお別れしますが。ほっほっほ」


「ふざけやがって……くっ……」


 事態の収拾にかかろうと立ち上がったゾーマ殿だが、体の力が抜けた様に再び膝を落とす。


「ニャーナ! 結界張って輪廻者サンサーラー共を門に近付けないようにしろ!」


「りょ、了解しました!」


 簡易的な結界呪文を門の周りに発生させる。これで輪廻者サンサーラー達はこの周りを忌避するはず。だけど状況は……。


「いやぁ何でしたかな。恐悦至極、ですかな? 立ち上がる程度の力も残さず使い切ってくれるとは。では閻魔殿は後回しにして、そちらの元気そうなお嬢さんから始末しましょうか」


 ギリメカラの周囲に漆黒の刃が四本生み出され、その刃先を鈍く光らせたかと思うと、一斉に私目掛けて襲い掛かって来た。


「――!?」


 目を瞑り防御姿勢をとるも、痛みも衝撃も無い。目を開いて状況を確認すると、私の前に立ちはだかったゾーマ殿がその凶刃を受け止めていた。


「ゾーマ殿!?」


「……大丈夫だ。ギリ致命傷にはなってねぇ。ぐ……」


 刃がゾーマ殿の体から抜け、再びギリメカラの周辺を浮遊する。そして奴が手をかざすと、目視が不可能な程の高速回転を始めた。


「美しい上下関係ですな、反吐が出そうな程に。まぁいいでしょう、次で終わりです。お二人共、骨くらいは拾って差し上げますよ。ほっほっほ」


 刃は私達の体を切り裂かんとばかりに唸りを挙げながら、ギリメカラの元から再び放たれる。


 ガキィン!


 刹那、ゾーマ殿の体が一瞬緑色に光り、迫りくる刃を一瞬で粉々にした。


「おや?」


「おや、じゃねぇよ、クソマーラジジイが。心にもねぇ嘘抜かしやがって。クッソ不味かったじゃねぇか」


「なるほど。私とした事がこれはうっかり」


 ゾーマ殿――閻魔の称号を与えられた者のみが持つ、『相手の嘘を自らの力として吸収する』能力。相手を騙そうとする力が強ければ強い程、もしくは嘘の思念が固まれば固まる程、その回復力は比例して大きくなる訳だけど……。


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