異質な来訪者
「ああ? んだよ?」
「お忙しいですかな? 申し訳ない。
「ああ、あっち」
「ゾーマ殿、もう少し詳しくご案内された方が」
「いいんだよ。おい爺さん、お前どうせ観光目的だろ?」
「ほっほっほ、お恥ずかしい。お手間を取らせましたな。――では」
柔和な表情は崩さずに、老人は軽く頭を下げながらゾーマ殿が指差す方向に歩いて行った。――通常の
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あのお爺さん、無事に阿鼻地獄門に着きましたでしょうか」
帰省のピークも過ぎ、ようやく衛門府入口周辺は落ち着きを見せ始めていた。とは言えここから冥府の各地区へと繋がる門周辺は未だ大混乱だろう。ここは申し訳ないが、そこを担当している獄卒達に任せる事にしたい。
「距離で言えば半里も
「確かにあの門、不自然なくらい豪華ですからね。と言うよりゾーマ殿、裁判を受け持った
「無理無理、絶対無理。一日何人来ると思ってんだよ? んでよ、門な。上から急に予算が下りたかと思ったら、『阿鼻地獄の門を作り直せ』だからな。給料か福利厚生で還元しろっていう獄卒共を
「中間管理職ですね、お疲れ様です。しかしそのお蔭で、冥府屈指の強固な門が出来たと各方面でも話題になっていましたよ」
「まぁな。阿鼻地獄だけは
「勉強になります。――ところで今思い出しましたが」
ここで一つ、隠していた事実を彼に明かす。これも仕返しのひとつだったが、今がその事を打ち明けるのに最適なタイミングであろうと判断したからだ。
「私がここに配属する際に小耳に挟んだのですが、近日中に閻魔職の評価管理官が抜き打ちで訪れるとの事です。何でも、関係者に扮してゾーマ殿の日頃の業務態度を観察するんだとか」
「な……」
「そう言えばさっきのお爺さん、妙に風格がありまし――」
「それを先に言えぇぇぇぇぇ!」
私が言い終える前に、ゾーマ殿は人ごみの中に突っ込んで阿鼻地獄門方面にに向かって駆け出した。
「ちょ、ちょっとゾーマ殿。持ち場を離れては……」
「んなもんどうでもいい! さっきの管理官探すからお前も手伝え!」
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