鮮度と粘度

「なずな。もう一回目を閉じて」


 そう優しく私に語りかけてくれる、股間から讃岐うどんを生やした筋骨隆々の鮭面人。もはや鈴城君の面影すらも残っていない。私のせいとは言え、やっぱり鮭とはキスしたくない。なんとか顔だけも戻さなければ。鈴城君、すずしろくんんんんんん……!


 何とか戻った。でもなんか目が離れてて口がちょっと尖がっている。イマイチ鮭感が拭えてないが、さっきよりはましだ。私は彼の言葉に従って目を閉じる 。


 目を閉じた数秒後、冷たい感触が私の唇に触れる。健人の尖った口の奥から這い出た舌が私の口腔に侵入し、意志を持った様に私のそれと絡み合う。


 ファーストキスはレモンの香り。


 大人のキスは北国を思わせる芳醇な潮の香り。


 顔を離した健人はその手を私の下腹部に伸ばし、少し悪戯っぽい笑み浮かべて私に耳打ちする。


「なずなのここ、もうトロトロだよ」


 そりゃあそうでしょうよ、今の私、名前からしてお粥テイスト満載だもの。


「いい?」


 そう言って健人はまた真面目な顔をする。私は目を閉じ、小さくうなずいて彼を受け入れる意思を示した。彼はゆっくりと腰を前に押し出し――――


「い……んんん……!」


 破瓜はかの痛みに耐えながら、母なる産道で健人の讃岐うどんを噛みしめる。いいコシだ。


「なずな……出すよ……?」


 入ってから十秒くらいしか経ってないけど、リアルな時間が分からないから仕方ない。でも何が出るくらいは私にだって分かってる。彼の全てを、受け入れると決めたのだ。ああもうまた鮭に戻ってるし。目を瞑って見なかった事にする。


 お腹の奥に、健人から分けてもらった命のかけらが引っ越して来た様な気がした。まるで私の体の中に、彼の為の部屋がひとつ作られたみたいに――

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