知識と想像

『明日、鈴城君が家に来る』


 その事実から妄想世界へと逃げ込んでしまいたくなる自我をなんとか保ちながら帰路につく。あっちに精神を置いたまま歩いてしまうと、家に着くまでに確実に事故に合う。



 鈴城 健人君



 カナダと日本のクォーターで、ハーフである母親の影響で英語はネイティブレベル。その他の成績やスポーツも得意という、非の打ち所のない完璧男子。女子からの人気も高く、私もその例外では無い。そもそも、私が今日英語の補習を受ける羽目になったのは、彼が原因でもある。


 別に、英語が嫌いという訳ではない。ただ英語に触れていると、どうしても鈴城君の事を考えてしまい、妄想モードに突入してしまうのだ。そして気が付いたら一時間などあっという間に過ぎてしまい、目の前の白紙のノートに愕然とする事がしばしば。


 いや、それはまだいい。良くは無いが、勉強が遅れた分は家でするなり緒美奈おみなやなでしこに教えてもらえば何とかなっていた。――今までは。


 しかし最近、どうも妄想の種類が変わってきてしまっているのだ。種類というか、内容が大人向けになっているというか。――つまりは、エッチな妄想にふけってしまう頻度が高くなってきた。自己弁護になるが、それは仕方ない部分もあると思う。中学生にもなればそういった事に興味が湧くのは当たり前の事で、ある意味健全な事だと思う。先程の補習中はまだ可愛い方で、自宅ではもっと生々しい描写が脳内で繰り広げられている。


 しかし困った事に、私には『知識』が無い。我家は厳しく、スマホはもちろんの事、家のパソコンも自由に触らせてもらえない。調べ事があるのならば図書館で、という方針らしい。

 当たり前だが図書館の端末ではエッチなサイトに繋ぐ事は出来ず、私が図書館で触れ合えた性的な本と言えば源氏物語くらいのものだ。


 父親は私が望めば家庭方針に反するもの以外は何でも買い与えてくれたが、如何いかんせん仕事人間な為、父と触れ合った記憶が全くと言っていい程無い。もちろん一緒にお風呂など皆無だ。つまり、私は『男性の裸体』というものを見た事が無い。


 そんな欠落した性的知識を想像で補う訳だが、それが正しいのかすらも分からない。分からないが故に、それに対する知識欲ばかりが向上して勉強により一層身が入らなくなる、という悪循環に陥りつつある。


 もちろん、こんな事は絶対誰にも相談できないが。


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