第3話 指の震え

 2週間たっても症状は消えない。ますますひどくなっている気がした。

 朝は自分一人で起きられていたのに、このごろは親に起こされないと目が覚めない。授業中に当てられても答えられないことが増えた。

 体育の授業なんてもう、半分くらい欠席している。


 薬が切れたので、症状の説明も兼ねてもう一度心療内科に行くことにした。

 ひょっとしたらこの症状が薬のせいかもしれないし、それなら薬を止めてもらうか変えてもらおう。

 今日も診察室も待合室も清潔で、看護師さんたちも親切だ。

「こんにちは。本日はどうされましたか?」

 くだんのイケメン先生は今日も親切そうに話を聞いてくれた。

「先生、うつの症状とか、頭がぼんやりする感じとか…… 薬のせいじゃないですよね?」

 だけど私がそう言った途端、イケメンの先生は一瞬だけ顔色を変えた。

でも私の気のせいだったみたいで、すぐに優しげな笑顔を浮かべて告げた。


「薬が合っていなかったのかもしれませんね。元気が出る薬を追加しておきましょう」


「そんなお薬があるんですか? ありがとうございます!」

 やっぱりお医者さんだ。私の話をよく聞いてくれて、ちゃんとお薬を処方してくれる。

「それで、今までのお薬は止めていいですか?」

 お医者さんは、また一瞬だけ苦虫をかみつぶすような顔をした。

「飲み続けてください」

 それだけ言って、手元の書類に何か書き始めた。

 私と目を合わせようとせず、その日の診察は終了となった。



 新しい薬を飲むと、一時的にすごくテンションが上がる。

 翌日の朝はちゃんと起きられて、元気がモリモリ出てくる。なんだかすごく効くドリンク剤を飲んだみたいだ。全身が火の玉になったみたい。

「今日は大丈夫そうね?」

 お母さんが嬉しそうな顔をしたので、私も嬉しくなった。

「うん、もう大丈夫!」

 元気に手を振って返事をした。 

お薬って、すごいな。


 でも昼近くになるとまた、元気がなくなってきた。

 いきなりハイテンションになったかと思うと、反動で気分が落ち込む感じだ。

 うつの波が前よりひどくなった感じさえする。

 昼にも薬を飲むように言われたので飲むとまた元気が出るけれど、夕方ごろになるとまた気分がふさぎこむ。


 ひと月くらい経ったある日、食事中に箸を落としてしまった。

「大丈夫?」

 お母さんに心配をかけてしまって、申し訳ない。

その日の授業では、字を上手く書けなかった。


 手がけいれんを起こしたように、震えだしていた。


 ぎゅっと力を込めてももう片方の手で掴んでも、止まらない。

 どうして?

 どうして?

 なにが起こったの? 怖いよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る