学園都市アケメネス

 跳びはねた直後、景色が劇的に変わった。

 荒廃した地獄とは打って変わって、栄えた街並み。温暖湿潤な、過ごし易い気候。周囲には、学生らしき人物が多く、和気藹々としている。

 平和だ。


「⋯⋯⋯⋯あれ、ここどこ?」

『違う次元に移動している。どうやら、君の心臓に混ざった次元パズルが作用したみたいだね』


 きょろきょろと辺りを伺うαーズ。ボアも倣って周囲を見渡した。お上りさん丸出しである。


『ここは、文明が栄えている世界のようだ。ええと⋯⋯学園都市アケメネス。惑星マギアと比較すると、ちょうど100億年前の文明レベルだね』


 要するに、ボアが活動していた時代の文明水準。どこか懐かしいのか、少女がそわそわと身体を揺らす。


『敵性反応のない平和な世界だし、ちょっと見て回ろうか?』







「んま⋯⋯うま⋯⋯⋯⋯うますぎてうまだわ、馬」

『牛らしいよ』


 少年少女の喧騒。安さが売りのフードコートの一角。適当に肉と野菜をパンで挟んだだけの料理が、異次元の怪物の舌を攻略していた。


「ハンバーガー! こっちのフライドポテトもいいなあ! 食の文明水準はこっちのが上だって!」

『楽しそうでなにより』


 お金は全て電子マネーで取引されている。αの演算力に掛かれば、ただ食いなどお手の物だ。少女の笑顔が何よりの報酬である。


「はい、αもあーん」

『あーん』


 瞳の繋がった唇がジャンクフードを咀嚼する。


『⋯⋯旨味の暴力だね。人工調味料をふんだんに盛り込んだ、まるで麻薬みたいだ。僕は味覚が無いからいいけど、あやかはあんまり食べすぎると舌が馬鹿になるよ』

「えーそんなこと言うならもうあげなーい」

『取り消すよ』

「はい、あーん」

『あーん』


 そんな、一見すると年頃の少女が謎のモニターと戯れている異様の光景。それでも、とりわけ騒ぎ立てられることはなかった。ここは、学園都市。だ。異常が日常に盛り込まれている世界。

 だが、悪目立ちはしていてたようで。


「――――――おい」


 中肉中背の、いかにも悪そうな目つき。外見だけで比べると、ボアよりも歳上に見える。その後ろにはどきつい色のモヒカン野郎数人。揃って釘バットを構える取り巻きたちだ。


「そこは、俺の特等席だ。すぐにどいて貰おうか。それに、珍しいもの持ってやがるな。置いていけ」

「誰、アンタ? 悪い奴?」


 青年は、背後に目配せする。


「ヒャッハー! とどろき過殺すぎる様を知らねえのか!?」

「学園都市でも124人しかいないランクSの序列118位を!?」

「とんだモグリちゃんだぜ! ヒャッハー!」


 釘バットをブンブン振り回しながら、取り巻きのモヒカンが息巻く。


「αは俺様の相棒だ。大人しく渡してやるつもりはねーぜ?」

『あやか⋯⋯ッ!』

「で、アンタは悪い奴なの?」

『あやかぁ⋯⋯』


 正義感と自己顕示欲に溢れまくっている少女の、いつもの癖だ。モニター6つが喧騒から逃れるように距離を取る。


「あと、意外と順位低いんだな」

「貴様、言ってはならんことをッ!!」


 青年の周囲に轟く雷光。凄まじい電圧が、フードコートに轟いた。隣の席。スーツに似た黒色の服装で統一した兄ちゃんが水を被る。とても嫌そうな顔をされてらっしゃる。


「はッ! 雷光電圧轟々ボルテックス・改!!」

「リロキャ(※リロード・キャノンの略)」


 迷惑な悪は滅んだ!







「騒ぎがあったのはここ!?」


 白を基調とした学生服の少女。短めのツインテールがぴこぴこ揺らしながら、凄惨な事件現場を見渡す。


「うわぁ⋯⋯」


 燃えるゴミ箱に突っ込まれた、能力自慢の不良生徒たち。最近ご近所を騒がしている不良グループが、ピクピクと震えていた。まだ息はあるらしい。


(誰かが成敗しちゃったんだ。でもコイツらって、リーダーはランクSの筋金入りだったはずだけど⋯⋯)


 能力だけが成長し、精神は未熟のまま。そんな典型的な不良グループだった。直接的な脅威が大きい分、大人たちも迂闊に手が出せない能力者バケモノたち。

 だから、少女は戦うのだ。

 悪い能力者を成敗する。そのためにこの能力を使いたい。そんな正義感溢れる想い。人を助けたい。少女は考える前に動いた。


「片付けます⋯⋯!」


 悪は雑に成敗されたが、このままでは色んな人が困ってしまう。そんな人たちのためにも、まずは動く。

 敷島しきしまツムギ。彼女は、そんな人間だった。

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