釣れた。

 ルネルの装飾布を借り、それを使って髪を束ねていたのが効いたのだろう。装飾布の赤紫色が森のなかを動けば目立つ。アダムが身を低くして斜面を横に駆けると、樹間に見えはじめた黒い影も追ってきた。

 アダムは駆けながら、足場を確かめた。山の斜面は枯木が幾重にも横たわり、岩肌はこけが覆っている。草地も多いが、えぐられたように土がき出しになっている箇所もところどころにあった。長雨があがってしばらく経つが、土の露出しているところは地滑りを起こしたあとである。近づくのは危険だった。

 どちらを選ぶべきなのか。

 木々を縫うようにして、七人の隠術師いんじゅつしと立ち合うことができるのか。あるいは、いくらか開けた場所まで引きつけるべきなのか。

 連中は短剣と、おそらく小型の弓を携行しているに違いない。見通しのよい場所が、必ずしも適しているとは言いきれなかった。狙いはルネルを始末することで、捕らえることではない。遠くからでも、射殺いころすことができればそれでいい、と考えているはずだ。

 隠術師たちは、明らかに数をたのんでいる。すでに気配や姿を隠すこともなく、距離を詰めてきていることからも、それは明らかだった。それを、逆手に取る方法はないのか。アダムは考え続けた。

 泥濘ぬかるみ。足を取られて、アダムは体勢を崩した。斜面に倒れるような恰好で片手をつく。その瞬間、鋭い風が頭上をかすめた。短い矢がそばの樹に突き立っているのを、眼の端で捉えた。

 続けざまに、矢が射かけられてきた。アダムは斜面を転がりながらそれをかわし、大木の幹の裏にまわって素早く身を隠した。肩で大きく息をする。矢が届く距離に入ったということだ。背の向こう側で、大木に矢が突き立つ音が聞こえた。

 こういった難所の移動を、隠術師とは張り合えない。連中は幼いころから、血を吐き、死者も出るほどの厳しい調練を重ねているのだ。だが、それだけではない。隠術師というのは、そもそも異能者の集まりといってもよかった。

 調練で得られるのは忍耐力や技術であり、身軽さや耳のよさ、夜眼が利くといったような、生まれ持ったものがなければ務まらないのだ。務まらなければ、調練で死ぬ。影に生きるとは、そういうものなのだろう。

 身体的な特徴は親から子へと受け継がれる場合が少なくない。炳辣国ペラブカナハに根づく、生まれながらに進む道が決まっている、という原理神教由来の慣習とも、実のところ相性がいいのかもしれない。この地域に精強な隠術師団がいくつもあることが、それを裏づけてもいる。

 追手との距離は次第に縮まってきている。周囲に眼をやるが、やはり近くに開けた場所は見あたらない。ここに選択の余地はない、とアダムは判断した。

 アダムは足もとの石を拾い、横へ大きく投げた。枝を折りながら下草のなかに落ちた石は枯木に当たり、一帯に音を響かせた。一斉に、そこをめがけて矢が射られる。簡単に音の誘いに乗るということは、アダムが隠れている場所を特定できていないのか。

 動けるのか。こうしている間にも、間合いは詰められていく。どこかで、動かなければならない。じっとしていれば、このまま囲まれて終わりだ。

 射られていた矢が不意にやんだ。張り詰めた空気が、山全体を包んでいるかのようだった。

 アダムは、自分の呼吸を数えた。ひとつ、ふたつ。三つ数えたとき、飛び出していた。静寂を斬るように指笛が響き渡り、いくつもの矢が、うなりをあげて耳の横をかすめる。片手をついて倒木を飛び越え、その先の斜面を滑りおりた。先の様子を確かめている余裕はない。駆ける。岩から岩へ跳ぶ。絡み合う枝を押し、払いけ、やぶを突き抜ける。再び斜面を滑りおりる。水。前方は小川だった。

 周囲の緑が少なくなり、足場が安定してくる。岩場である。アダムはそのまま駆け、両岸に茶色い岩が転がる川辺へ出た。

 水量は豊富で、小渓谷とも呼べるような起伏に富んだ岩場が、川に沿ってずっと続いている。少し前まで、かなり増水していたのだろう。上流から流されてきた木や大量の枝などが、巻きこまれるようにして流れのなかに留まっている。

 アダムは川沿いに素早く移動し、岩場に身を隠した。追ってきた連中は、アダムがどこに潜んでいるか判断に迷うはずだ。

 川を渡る風が、アダムの背に吹きつける。全身の汗が、すっと冷える。

 ルネルの装飾布は、いまもアダムの髪を後ろで束ねている。いま一度、指先で結びを確かめた。この布にだまされて、連中はまだルネルを追っているつもりでいるのだろうか。

 できるだけ、隠術師をこちらに引きつけておきたかった。片づけてしまえば話は早いが、いまのところ矢の届く距離以上に間合いを詰めてはきていない。いずれにせよ、こうして引きつけている間はルネルは無事なのだ、と信じるほかはなかった。

 ルネルはどこまで進んだだろうか。別れた場所から丘をひとつ越えれば古い吊橋があり、その先をひたすら北へと向かえば簪呂国カザクロフトである。渡ればすぐに安全というわけではないが、隠術師から逃げおおせる可能性は高くなるはずだ。

 枝葉を掻き分ける音。それから、小川に連中がおりてきた気配があった。浅い箇所があるらしく、流れのなかにも入っているようだ。ざぶざぶとすねで水を掻く音が聞こえた。探索のために散開している。それを耳で確かめると、アダムはそろそろと移動をはじめた。

 死角を縫う。アダムが川を渡ったとは考えないだろう。そうなれば、上流と下流の二手に分かれるはずだ。

 黒尽くめの姿が、積みあがった岩の隙間から確認できた。降り立った場所に一人を残し、流れの中央に一人が立ち、上流と下流を見通す恰好である。下流に向かっている背が三人。姿は確認できないが、アダムのいる上流側には、二人が向かってきているということになる。

 息を殺した。隠術師はみな斥候せっこうの達人である。身動みじろぎひとつで居場所を特定される。岩場に残った土の跡などを見ても、どちらに向かっているかという判断はできるだろう。

 かなり近づいてきた。かすかな気配は一人分。もう一人は、どこかで立ち止まっているのか。あと数歩で、アダムの隠れている岩の横を通る。

 アダムは親指で小石を弾き飛ばし、離れた岩に当てた。ぴしり、と小さな音が鳴る。すぐそばの隠術師は、それを聞き逃さなかった。背を向けた黒尽くめの男にアダムは素早く跳びつき、首に腕をまわした。男は顎を引いて防ごうとしたが、それよりもアダムの腕が食いこむのが速かった。大柄な男だったが、体重をかけて男を後ろに引き倒し、そのまま落とした。死んではいない。男が抜きかけていた短剣が、岩の上に落ちて音を立てる。

 眼を覚ましても動けないよう、男の足首のけんを切るかどうか、アダムは一瞬迷ったがやめにした。すぐ近くで指笛が鳴っている。物音を聞きつけて、散開していた隠術師が集まってくる。もう一度岩場に隠れたが、場所の特定は容易たやすいだろう。

「出てこい。そこの岩場にいるのはわかっている」

 地方なまりのない、明瞭な炳辣国ペラブカナハの言葉。やはり炳都ペラブーハンの隠術師なのだろう。アダムは連中を分断して片づけることを狙ったが、結局は一人減っただけだった。

「矢で射られるとわかっていて、のこのこと出ていく馬鹿はいない」

「男だと。待て、どういうことだ?」

「どういうことだとは、ずいぶん勝手な言い草じゃないか。いきなり追い立てられて、事情を訊きたいのは私のほうだ」

 連中は、やはりルネルだと思って、ここまでアダムを追ってきたようだ。声色に浮き出た動揺が隠しきれていない。

「姿を見せろ、おい。そこの岩場なのはわかっているんだ」

「いやだね。私には、なんの得もない」

 すっと近づいてくる気配があった。囲もうとしている。足音は一定で淡々としており、訓練を積んだ者の足運びである。

 完全に囲まれる前に、アダムは岩場からおどり出て、短剣を投げ放った。こちらが意表をく。それ以外に、この状況を切り抜ける手立てはない。

 アダムが投げたのは、先ほど絞め落とした男が落とした短剣だった。狙った男にはかわされたが、その後ろに立っていた男の鎖骨の下あたりに突き立った。

 矢。アダムは手にした白杖をめまぐるしく振り動かし、巻きこむようにして矢を弾き落とした。打ち漏らした鋭い一矢が、アダムの眼の横をかすめていく。全身が、かっと熱くなった。次の瞬間には、自分を狙う弓矢に向けて、跳躍していた。

 白杖の先で弓をねあげ、男の手にある矢を素早く掴む。一瞬押して横に引き、男の重心を崩す。男が投げられたように倒れながら、隣の男に肩をぶつけたところで、アダムは背後にまわりこんできた男の足を払って転倒させた。

 投げた短剣が突き立った男が、掴みかかってくる。口もとには、泡立った血があふれてきていた。胸のなかが破れたのだろう。短剣はアダムがはじめに思ったよりも下に刺さっていたようだ。アダムは右肘を使って男の顎を打ち、左の拳で眉横の急所を打った。口から血を吹いた男が横に吹っ飛ぶ。

 眼の端で、白い光を捉えた。次々に増える。矢は適切でないと判断したのだろう。ぎあげられたいくつもの短剣が、ぎらりと輝きを放っていた。

 立っているのは五人。間合いを取りながら、左右に分かれていく。

 炳都の隠術師のやり方は、前に森で襲われたときに見ていた。左の二人はアダムの視界の外側に行こうと、じりじりと横に移動している。斬りかかる気配。それが濃厚な右の二人は誘い役だろう。正面の男。両手に軽く短剣を構えているが、そこにいないかのように気配を消している。跳躍に向いた小柄な体格だ。

 アダムはさっと腰の短剣を抜いた。この瞬間を逃せば、連中の策にまることになる。左手に白杖の柄頭。右に逆手で短剣。

 右。殺気を剥き出しにして斬りこんでくる誘い役の二人に、アダムは柄頭を掴んだ白杖を大きく振り、鞘だけを勢いよく飛ばした。鞘が二人の男を横薙ぎに打つ。アダムはそのままからだを回転させ、抜き身となった白杖、蒼剣そうけんブラウフォロウで左から斬りかかってきていた二人の短剣を払った。触れたという感覚もなく、二本の短剣は柄だけを残した。刃を断ち斬ったのだ。

 ここだ。アダムは後ろに倒れこみながら、逆手に執った右手の短剣を、勢いよく下から振りあげて放った。びゅっと空を切り裂き、確かな手応えがあった。アダムの頭上から、黒い人影が地に落ちる。正面の、気配を消して立っていた男だった。

 蒼剣の鞘を当てた右側の二人が、一瞬のひるみを見せたあと斬りこんでくる。アダムは後方に転がって飛び起き、上体をひねってそれをかわした。すれ違いざま、片方の男の脾腹ひばらに左肘を叩きこみ、右手でもう一方の男の手首を打つ。短剣は白く輝いて岩場の隙間へと落ちた。素手で向かってきた男の拳をかわし、眼を突く素振りを見せてすねを蹴りつけた。片膝をついた男の側頭部めがけて、球を蹴るように左足を飛ばす。横に蹴倒しはしたが、男のほうが一瞬早く、アダムの蹴りは腕で防がれていた。

 蒼剣を執る左手に力が入るが、斬れなかった。やはり、この剣は斬れすぎる。太刀打ちできない妖魔ようま相手ならともかく、蒼剣で生身の人間を斬ろうという気に、アダムはどうしてもなれなかった。

 一瞬の迷いを衝いて、蒼剣で短剣を斬り飛ばされた左の二人が、アダムの背後と横から組みついてきた。右からは体勢を立て直した二人が迫ってくる。

 蒼剣を手から離し、アダムは左の男二人の襟首を、それぞれ左右の手で掴んだ。両手首をまわしながらぐっと身を屈め、相手の下をくぐるような恰好で一気に躰を寄せる。男二人の躰を宙に踊らせるように投げ飛ばしていた。向かってくる相手の力を利用する。そうすることで、投げることもなく投げた、という感じになる。

 眼の前の岩の上に落ちていた二本の短剣の柄を拾った。蒼剣で斬り払った二本で、柄から出た刃の根本だけをわずかに残し、その先は折れてなくなっている。アダムはそれを、両手に構えた。ともに逆手である。

 気合いとともに、右から短剣が襲ってきた。折れた短剣の刃の根でそれを受け、弾く。一瞬、火花が散った。白い光が輝きながら、川へ飛ぶ。相手の短剣を弾き飛ばしていた。続けざまに突き出されてきた左の拳を腕で受けて後方へ流す。それは抜けの技のひとつで、体勢を崩した男が足をもつれさせ、岩場から転げ落ちた。左。右。息をする間もなく、攻撃が来る。

 残りは三人。手練てだれではあるが、三人の手に短剣は残っていない。落ちたものを拾う隙を見せれば、そちらに踏みこむ。全員が、肩で大きく息をしていた。それはアダムも同じだった。苦しい。言葉はなかった。息遣いだけが、川の流れに掻き消されていく。

 測り合い。右の男が、腰にさげた弓に手をやった。踏みこんだ。構えようとする弓に折れた短剣を叩きつけ、弾く。返す拳で男の顎を打った瞬間、息が詰まった。左の男の拳がアダムの鳩尾みぞおちに食いこんでいる。低い姿勢の左の男にアダムが足を飛ばすと、男は身軽に飛び退すさった。弓を構えようとした男は、誘いだったのか。続けてもう一人に右の膝の後ろを蹴られ、アダムは体勢を崩して片膝をついた。

 すぐには息が吸えなかった。視界が一瞬、暗くなる。戻っても、本当に一瞬のことだったのかはわからなかった。アダムは落ち着いてゆっくりと息を吐き、肺のなかを一度空にした。そうやって、ようやくまともに息が吸えるようになる。

 顎を打った男は棒のように倒れたが、あと二人残っている。まだだ。まだ膝を折るわけにはいかない。 

 全身が、汗に濡れている。立っている二人の隠術師も、すぐには動けないようで苦しそうだった。川の流れだけが、やけに大きく聞こえている。

 手を引け。ルネルはもう、炳辣国には戻らない。炳都は、好きにやればいい。それを伝えたところで、隠術師たちは立ち去らないだろう。アダムを打ち倒して訊問し、ルネルの行方を追う。任務を帯びた隠術師というのは、そういうものだ。利害などは関係ない。ただ任務があるだけなのだ。

 台座のような岩の上だった。いつの間にか、雲間からかすかに陽が射してきている。

 アダムは両手を膝につき、立ちあがった。いきなり、一人が殴りかかってきた。頬に一発貰ったが、アダムの膝が相手の男の下腹に綺麗に入った。うずくまりかけた男の肩を押し、上向きになった顎を拳で打った。男が、膝から崩れ落ちる。

 あと一人。素手だった。拳闘の試合のように、きちんとした構えでアダムと向き合っている。小柄だが、猛禽もうきんのような眼。腕に覚えがあるようだ。

 アダムも、両手に持っていた先の折れた短剣を捨て、拳を握り締めた。

 息遣いを読む。自分のものと、対する相手のもの。互いの眼を見据えて、測り合う。相手が息を吐ききったところが、打ちこむ機になる。浜に打ち寄せる波にじっと眼をやるようなものだ。余計なことはなにも考えなかった。

 男が先に動いた。右手の拳。アダムは左手を前に出してそれを受け流し、やや外側から右の拳を打つ。男は左の脇を締めて顔の横に腕を引き寄せ、アダムの拳を受けた。互いに跳んで離れ、再び間合いを取る。

 アダムは、一度のやり取りで男の癖をひとつ読んでいた。右を打つ前に、わずかに左を打つ仕草をしてみせる。しかし、本当に危険なのは誘いに使っている左だろう、と見当をつけた。

 男が左足を前に出した。踏みこむ姿勢。肩を大きく左右に揺らし、誘ってみせている。

 アダムは逆に、小さく構えた。次の拳は横ではなく、縦に使う。脇を締め、動きを小さくして内側へ内側へと入れば、縦の拳は活かせる。攻撃自体が相手の動きを巧みに牽制けんせいし、突き出した腕がそのまま防御となり得るのだ。

 同時に、踏みこんでいた。手応てごたえ。縦に構えたアダムの右の拳は狙い通り、突き出されてきた男の左腕の内側を走り、顔面をしたたかに捉えていた。対する男の左の拳は、アダムの腕に沿って外側を走り、アダムの顔の横で空を打っている。

 男の右の拳。アダムは首を右に倒してかわし、拳を打ちこむ要領で内側から腕を伸ばし、左手の指先で男の眼を払った。うめき。け反って顔を押さえた男の腹に、拳を続けて叩きこみ、掌底しょうていで胸板を打った。

 岩の上に、男が仰向けに倒れた。胸板が激しく上下しており、すぐには起きあがってこれないだろう。

「殺せ」

 両手両足を投げ出したまま、男がそれだけ言った。川音にまれてしまいそうな、諦めの声色だった。

「意味はない」

 答えたアダムも、息があがっていた。膝に両手をついて、しばらく呼吸を整えていた。岩の上に点々と血の染みが落ちる。右耳から、血が出ていた。男の拳がかすめたためだろう。左の拳が打ち出されてきたときに、頬を打った風は確かに凄まじいものだった。あれをまともに食らっていたら、倒れていたのは自分のほうだっただろう、とアダムは思った。

「あんたに、教えてやろう」

 空を見つめたまま、苦しそうに男が言った。面体を覆っているため表情は見てとれないが、それほど若くもない声だった。どこかびついている。その分、熟練の隠術師ということには違いないだろう。

「なんだ」

「あんたがそこの岩場で、最初に絞め落とした男がいただろう」

「隠術師にしては、大柄なやつだったな。待て、姿が見えない」

「あの男は、山のほうへ戻った。あんたと俺が殴り合っている間にな」

「まさか」

「あんたが、殺しておかなかったからだ」

 血の気が引いていた。アダムがおとりだったと判断し、ルネルの行方を追っていったということなのか。アダムが姿をさらして斜面を駆けはじめたあたりまで戻り、痕跡をたどる。時を要するとしても、隠術師にはそれが可能なのだろう。

「なぜ、私にそれを教える?」

「すっかり枯れたようになっていた全身の血が燃えた、とでもいうのかな。あんたが何者かは知らんが、俺たち七人を相手に、見事な闘いぶりだった。隠術師として、使い捨てられて死ぬ。この国で、俺はそういうつまらぬ生を送るのだろう、とずっと思っていた」

「いまは?」

「生きてみるのも、面白い。上手く言い表せないが、そんなふうに思う。そう思いながら死んでいけるのは、いい死に方だ。多分な」

「それならもう一度生きてみるといい。捨てごまのような生き方はやめて」

「殺さないのか?」

「何度も言わせるな。私はもう行く」

「さっきは不意を衝いて絞め落とせたのかもしれんが、あの男は俺たちの組のなかでは一番の腕だ。それに好色ときてる。急いだほうがいい。山には後続の小隊もふた組、到着するころだ」

 アダムは自分の短剣と蒼剣を拾いあげ、それぞれ鞘に収めるとすぐに歩きはじめた。背後で男が呻き声をあげていたが、構いはしなかった。

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