第17話 〃②

「え、今、なんて……」


いや、違う。とっさに聞き返してしまったが、違う。


本当は聞こえていた。


僕は手を振って、再び口を開こうとした彼女を制止する。


そう、僕は、……


信じられなかっただけだ。


だって、僕は彼女を知らなかった。


今年になって席が前後ろになるまで。


いや、きっと僕は知れたはずだったのだろう。


だって、去年も席は近かったはずだから。


それどころか、ずっと同じクラスだったというのだから、いつでも知ることはできたはずなのだ。


知ろうとしなかったのは、僕なのだ。


中学生の時から、知れたはず、知っていたはずなのに、記憶に残そうとしなかった。


中学時代は、色々あったから、僕はあの頃の記憶を忘却の彼方に送ってしまっているけれど、覚えていてもよかったはずなのだ。




自分に似た人物の事を。


それはつまり、彼女にたいして僕は全く興味を持っていなかったということだ。


であれば、僕は彼女にそういう態度をとっていたはずだ。


気にも留めなかったはずだ。


それでも、彼女は言ってくれた。


僕の事を、「好き」だと、僕の事を、知っていたと、知っていてくれたと、言ってくれた。


だから、僕は知るべきだろう。


そんな彼女のことを、知らなかったことを、恥じ、今度こそ知るべきなのだ。


これまで知ろうとしてこなかった、けれども僕をよく知ってくれていた、彼女のことを。




そう思いながら、僕は思いに答えようと、口を開こうとする。


その時、僕の目には、鈴木千尋が写った。


こちらをなんとも表しがたい表情で見つめる、彼女が。


その時、脳裏によぎったのは、僕のついた嘘だった。


そうだ。僕には、あの嘘がある。


だから、僕にはそもそも、選択肢なんてない。


断ることなんて、できるはずもないのだった。




だから、僕は言う。


「そうかい。でも僕は君の事を知らなかった」


そう僕が言うと、クラスはザワッとする。


僕と相対する彼女は、


「そう、ですか、では……」


「だから、僕は君の事を知ろうと思う。というわけで、僕と付き合ってくれるかな?」




彼女の答えは、記すまでもないだろう。


こうして僕は佐野友華と付き合うことになった。

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