第16話六月の梅雨と佐野友華。①

「おはよう」


朝。


六月に入り、梅雨で最近は雨が降り続いている。


今日も今日とて雨が降るなか、傘をさして学校へ向かう坂を上っていると、後ろから声をかけられた。


「おはよう、佐野さん。最近よく会うね」


これで三日連続だ。


「実はこれまでもよく見かけてはいたの。最近仲良くなってきたから、声をかけるようになったっていうだけ」


「あ、そうだったんだ。気がつかなかったなぁ」


「あなた、いつも空を見たり下を向いたりして、回りを見てないもの」


「ああ、そうだね。あんまり他人に興味ないし」


「そう。私と一緒ね」


「この学校じゃあ、大抵の人は蹴落とす対象になっちゃうからなあ」




できるだけ友達は作らない方がいいと、去年知った。


去年同じクラスでなかがよかったやつらは皆、南高校へ行ってしまった。


そうなることに気づいたのは、二学期ごろだったけれど。


一年生でいる期間が短くなっていくと、彼らの僕を見る目には、憎悪が混じるようになっていった。


それを見たとき、この学校のシステムは残酷なものだと気づいた。


友達を作ることを躊躇わせるシステム。


誰もが気づいたことだろう。


ここに入ったことで、僕らの人生から普通の青春は失われてしまったと。


きっと、将来大人になっても、同窓会が開かれることはないだろう。


……、いや、もしかしたら、加藤のようなやつが開くのかもしれないが。




「そうね。あなたに関係あるかはわからないけれど」


「そう? いつも僕は戦々恐々としながら学校に通ってるよ? いつ後ろから刺されるかわかったもんじゃない」


そんな会話をしながら、僕らは並んで歩く。


校門をくぐり、校舎へ向かう。


「そこまで野蛮でもないでしょう。それと、戦々恐々なんて言葉、久しぶりに聞いた。驚き桃の木山椒の木よ」


「いやあ、それもずいぶんと珍しいけどね」


「そう? 私はよく使うけれど」


「君もずいぶんと僕に近い思考回路をしてるみたいだね」




そう喋りながら、階段を上る。


二年生の教室は三階だ。


「あなたの真似をしながら生活するようになっただけ。だから、あなたに似るのは当然」


「え、僕の真似?」


「ええ。実は、中学からずっと同じクラス」


「え、そうだったの?」


「ええ。そう。中二の夏から、ずっと見てた」


「え、それって……」


呟き、考えながら教室の扉を開く。


一つの回答に思考が至るのと同時に、教室へ入った。


振り向く。


彼女も入ってきた。


そして、彼女は口を開いた。


そして言う。


僕に、思いを伝える。






「ずっとあなたが好きでした」


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