第15話 〃⑩

さて、本格的に準備が始まった。


と言っても、開催場所は講堂で決まっている。


開催するのは文化祭でだ。


実は準備を急ぐ必要はなくなっていた。


文化祭は九月に行われるからだ。


とはいえ、クイズ研究会と顔合わせすらしていないのは問題だということで、五月の最終週の始めの日となる今日、空いている教室を使って、集まることになった。


クイズ研究会の会室はあまり広くはないらしい。まあ、生徒会室もだが。




「こちらが、クイズ研究会のメンバーだ。うちと同じだけの人数だな」


生徒会長が僕たちに説明する。


と、向こうも向こうで説明しているようだ。


声が聞こえてくる。


「あっちにいるのが、生徒会のメンバーだ。学力は高い連中だが、クイズでは負けるなよ」


うん、なんで向こうは好戦的なんだろう?


訳がわからない。


僕たちはどこかのスポーツの試合よろしく、横一列にならんで向かい合った。


「よろしく」


生徒会長が言う。


全員がよろしくお願いしますと言いながら頭を下げた。


いや、ほんとに協力するんだよね? 戦わないよね?


なんだか不安だ。


と、僕の正面に立っているのは、見知った顔だった。


たしかクラスメイトだ。名前は……。


「佐野友華。よろしく」


そう、佐野友華だ。


僕の前の席に座ったいる子だったはずだ。


「? 佐藤の佐に、野原の野、友人知人他人の友に、皇族華族平民の華で、佐野友華。よろしく」


「ああ、聞こえてるし、わかってるよ、ごめん。僕は」


「鈴木千尋。二年A組出席番号十五番で席は私の後ろ」


「……うん。そうだね」


「よろしく」


差し出された手を、拒むのは難しい。


まあ、普通に握るけど。


「よろしく」




「では、今正面にいる者と、これからはペアを組んでもらう。そのペアでクイズを十五個作るように。では、今日は解散」


ああ、そういうことか。


「じゃ、また明日」


僕は佐野に挨拶すると教室を出た。


クイズ研究会はこの後、活動があるようだ。


「また明日」


向こうも返事を返してきた。




教室を出ようとした僕に、生徒会長が抱きついてきた。


「一緒に帰ろう。ちーくん」


最近スキンシップが激しい気がする。


もしかしてもとからそういう人だったのかもしれない。


まあいい。


「とりあえず離れてください。暑いです」


あと、なんだかいい匂いがする。やられてしまいそうだ。


ちーちゃんも来て、三人で駅まで帰った。


余談だが、ちーちゃんは、例の人の好みに合わせるため、髪を長くすることにしたらしい。


これで「実は僕が好きでした!」という展開は消えた。


だって、僕は髪は短めの方が好きだから。


伸ばす前の君くらいの長さが。

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