第5話 〃⑤
四月も最終日だ。
その日、僕は家で勉強や読書をし、他の時間はぐうたらしていた。
夕飯を終え、お風呂からも上がると、着信がひとつと、メールが一通届いていた。
[時間空いたら、電話ください。
鈴木千尋]
僕はさっさと歯を磨き、携帯をもって、自室のベッドへ向かった。
ベッドに腰かけると、電話をかける。
数回のコールのあと、彼女は電話に出た。
「あ、もしもし、鈴木千尋だけど、どうしたの? 何かあった?」
『あ、もしもし、鈴木千尋です。ううん、特に何があったって言う訳じゃあないんだけどね』
「? なにか話があったとかじゃないの? まあ、なにか困ってるとかじゃないなら、良かったけど」
『ぁぁ、話は、ないって言う訳じゃあないよ』
「そっか。まあ、話してみてよ」
『うん。えっと、実はね……』
彼女は話を、『あ、この話、内緒にしといてね』と締め括ったわけだが、話の内容から、僕にこの話を漏らせるような相手はいない。
彼女の話を要約するとこうだった。
曰く、彼女には去年から気になる人がいて、
曰く、その人と今年になって話せたらしく、
曰く、彼女は彼が好きらしい。
そして、彼と付き合いたいが、どうすればいいのかわからないらしい。
告白すればいいと僕は言ったが、相手にもこちらを好きになってもらってから、らしい。
なんでも、失敗したくないとか。
とはいえ、相手の気持ちを知るすべなどないから、どうしよう、ということだ。
その話を聞いて、僕は言った。
それは、本心でありながらも、望む展開には、結び付かなさそうだと、知っていたのに、
そう言った。
「僕でよかったら、手伝おうか?」
『い、いいの!?』
「うん。っていっても、すぐに策が浮かんだりはしないから、少し時間がほしいかな」
『うん。ありがとう。また明日』
「うん。また明日」
そう言って、僕は電話を切ろうとした。
しかし、一刻も早く切りたいという僕の願いを、叶えてくれはしないようで、彼女は言う。
『あ、あのさ、このお礼に、君に好きな人とかいたら、私も手伝うよ。いる?』
困った。
困ったあげく、僕は言った。
「いや、いないかな。じゃ、また明日ね」
そう言って、僕は返事も聞かずに、電話を切った。
僕は、この日、嘘をついた。
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