第17話
一人旅を始めてしばらく経つが、護衛の仕事にうまいことありつけたので生活出来ている。キャラバン隊の護衛なのだが、金払いがいいのでしばらくくっついて移動している。
「ふぁーあ。今日も平和だねぇ」
欠伸をしながら呟く。隊の護衛なので基本的に襲撃がない限りは暇なのである。まぁある程度の雑用もこなすが。
「ジョン、夜更しでもしたのかい?」
同業のアンドリューが話しかけてくる。
「ああ、最近少し寝付きが悪くてな」
「おいおい、頼むよ我が隊のエースさん」
アンドリューは俺をエースと呼ぶ。まぁ腕を見込まれて雇われたのだからそうもなるが。なお、俺の正体は話していない。
「そっちこそ頼むぜ? 護衛副隊長さんよ」
アンドリューの脇腹を小突く。
「いてて、よせって」
「まぁいいけどさ」
俺とアンドリューは笑い合う。
「ところでアンドリュー。目的地のイズシの街への行程はあとどのくらいなんだ?」
「あー、あともう少しだな、一日二日ってところだ」
「まぁ街道筋だからそんなに危険もないしな。今回は楽な仕事だ」
「ジョン、そういう油断が危険を生むんだぞ?」
「はいはい。以後気を付けるさ」
「よろしい。ところでイズシでは編成やらなんやらがあるから準備しとけよ」
「あいよ」
そんな感じで隊の先頭で談笑していると急に霧が出てきた。
「ん、霧が出てきたな」
「ああ。アンドリュー。何かおかしい。警戒しとけ」
アンドリューが馬車を停めている間にもどんどんと霧が濃くなってきた。こんな速度で濃霧とはどう考えてもおかしい。嗅覚に集中し魔力の残り香があるか試す。
「アンドリュー! この霧は魔力で発生させられたもんだ!」
返事がない。
「おい、アンドリュー! 返事をしろ!」
完全に孤立してしまったようだ。ものの数十秒でここまで分断されるとは思っていなかった。敵は何なんだ、という思考が出てくる。人なのか、魔物なのか。
ガサリ、と背後で音がする。
「!?」
人影のようなものが目に映る。
「ジョンか!?」
その影の主はアンドリューだった。とりあえず一息つく。
「ああ、そっちはどうだ?」
「どうもこうもあっという間に霧にまかれたぞ」
「馬車は?」
「近くに停めてある。とりあえず応戦するか、エース」
「ついてこいよ? 副隊長」
腰のエッジに手をかける。エレメントに力を入れて帯電させ、構え、全力で飛び上がる。目の機能で霧、空気の流れを可視化し、一刀両断する。
霧が裂けて、そこには呪術師と思われる人間を見つける。
「アンドリュー! 追え!」
「おうともさ!」
俺は着地して一足飛びにアンドリューに追い付く。ローブを着た呪術師の足はそんなに早くはない。
「身柄はどうする? 捕縛か?」
俺はアンドリューに尋ねる。アンドリューは頷き返す。
「ああ、捕まえて情報を吐かせる」
「了解」
更に加速し呪術師を射程圏内に捉え、鞘で殴りつける。
「グエッ!」
呪術師は転倒し、俺はその喉元にエッジを突きつける。
「よくやってくれたジョン。そいつを馬車まで連れて行って尋問だ」
前後に挟まれ拘束された呪術師は大人しく歩く。そして馬車の停めてあるところまで到着する。
「さて、ジョン。ここから先はエグい事になるぞ」
アンドリューは呪術師の肩をグキリと外す。悲鳴を上げる呪術師。
俺は馬車の様子を見に少し離れる。ああなったらアンドリューはしぶとく尋問するのを同じ護衛隊のメンバーから聞いていた。
「あ、ジョン」
他のメンバーも散り散りになっていたのか、霧が晴れて戻ってくる。
「いやー一時はヒヤヒヤしたよ」
「いきなりの濃霧だもんなぁ」
メンバーは割と呑気なもんだ。隊長は先行しているため、こちらのトラブルなどお構いなしに今頃目的地に着いているだろう。
「ジョン、副隊長は?」
「ああ、敵に尋問してる」
「あっちゃー……。長いんだよなぁ、あの人……」
しばらく足止めだな、と頷く。俺としては早く切り上げて金を払って欲しいのだが。
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