第14話
俺とジェイは今日も訓練をしている。なんとなくだがジェイのクセが分かってきた気がする。ただし本来ハントするのは魔物なのでいろいろなパターンを試すのでクセを知る事はあまり歓迎したくはないのだが。流石にジェイの腕を増やしたり四足歩行にしたりは出来ない。
訓練を終えて自警団の詰め所に向かう。団員と軽く会話をしながら巡回。
「ふたりともストップ、視線を感じる」
ジェイが俺と団員に警戒を促す。俺は言われて感覚を研ぎ澄ませる。
「獣の匂いがするな」
「え、本当かい?」
団員が戸惑う。
「ああ、もしかしたら獲物かもしれん」
「そうだな。俺とジョンで見てくるから団員さんはここで待機していてくれ」
「わ、わかった!」
俺達は匂いの強い方へと足を進める。ホムンクルスの便利なところとしては人間にはないいろいろな機能がある事だ。こういう時は暗視が役に立つ。
敢えて火をつける時もあるにはあるのだがあまりメリットはない。
「ジョン、近いよ」
「ああ、匂いもキツくなってきたな」
できるだけ音を立てないように周囲を警戒しつつ接近を試みる。
漂う獣の匂い。そしてそれに混じる微かな血の匂い。手負いか、はたまた獲物の血か。ここからでは判断が出来ない。
「グルル……」
巨大な狼がそこに居た。口元は血で汚れている。どうやら食事中のようだ。鼻先にはこれまた巨大なイノシシらしき肉塊がある。それを噛み砕き、血を飲み、咀嚼している。
狼の体長は余裕で俺達を縦に並べても足りないくらいだ。体重は、考えたくもない。
やはり尾は大蛇。どうやら自警団員の話が誇張でもなく事実だったらしい。
キメラは未だに咀嚼を続けている。一瞬顔を上げ周囲の匂いを嗅いだ。幸いこちらは風下。匂いでバレる心配はない、と思いたい。
「……」
さて、どうしたものか。ここで攻撃を仕掛けたところで正直装備が心もとない。エッジに拳銃、ショットガンではあの体躯を仕留めるのは少々骨が折れる。
肩を叩かれそちらに向くとジェイが首を振っている。やはり考えは同じらしい。ならばせめて巣を突き止めなければ。
手を使いこちらの意思を伝える。ジェイは頷いて観察を開始する。俺もそれに倣う。微動だにせず観察していると肉塊は残り僅かになり、やがて残滓を残してキメラが立ち上がる。おそらく巣に戻るのだろう。流石にあのイノシシは食べごたえがあったのだろう。この場の主は自分だと言わんばかりのゆったりとした動きで歩き出す。
視界でギリギリ捉えられる距離をキープしてジェイを自警団員のところへ向かわせる。俺は追跡を始める。
何キロメートル追跡しただろうか、空には星が煌めき、月明かりが僅かに木々の隙間から差し込む。
そしてようやく目的地らしく昔の砦だったであろう建造物に入り込む。
それを確認してから撤退を開始してジェイと自警団員と合流する。今夜は無理だと言う事と頭に叩き込んだ目印になりそうなものから周囲のマップで正確な位置を合わせて作戦を練る。
「とりあえず武器がなくちゃどうしようもない」
「ああ、武器が完成したら討伐に移ろう」
「自警団からの助力は必要?」
「そうさなぁ……。被害を広めたくないから特にこれといったのはないか」
「了解。二人の足を引っ張るような事はしたくないからね。詰め所にいる他の団員にもそう伝えておくよ」
「ああ、頼む。流石に誰も無駄死にはしたくないだろうしな」
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