第13話

 それから俺は近接戦闘に絞った訓練を始めた。拳銃はしばらくお休みだ。

「まずは……エッジの本来の力を見てみるか」

 エレメントに力を込めて同じ極性の力を鞘と刀身に。

「何かふわふわした軽い感じだ」

 紫色の光を帯びたエッジに見惚れる。

「ジョン、とりあえずこの木を切り倒してみなよ」

 ジェイは人体の胴と同じくらいの太さの木を指差す。

「どれ……」

 俺は目の前に立って構えながら腰を落とし更に右巻きに回す。

 スパンッ! と大音量を立てて羽の軽さと紙で空気を切るような感覚で逆袈裟に切り裂く。

「おー、見事なもんだ」

 目の前には倒れる動きを見せている木があった。少し離れて倒れるのを見守る。残光がまだ明滅している。

「でもこれって一発だけだろ?」

 ジェイが冷静に分析する。それはそうだ。一度納刀するという動作が加わり連発は出来ない。

「爺さんは属性乗せて切るだけでも十分とは言っていたがな」

「そんだけの業物って事だな」

 ジェイも頷く。

「とりあえず戦闘訓練させてくれ」

「あいよ。じゃあジョンは木刀な。俺は長物だからまぁ棒みたいなもんでも探すか」

「探すのに手間取るのなら今の木を切ってみればいいんじゃないか?」

「じゃあジョン、練習がてらにやってみてもらえるか? 居合はなしで」

 頷き返し、雷光を纏わせたまま適当な長さのところで上段から切り落とす。

 再び光が走り、その反動で反対側が跳ね上がる。それを足でトスをして縦半分に今度は下段から切り上げる。

「器用だな」

 ジェイが呟く。あとは残り三方向からまっすぐ切り落として完成だ。


「これでどうだ?」

「ああ、十分。俺らは同型だから肉体性能もだいたい同じって事か」

「鍛錬がまだ足りてないけどな」

「ああ、そりゃそうだ」

「起動がほぼ同時でも組んで歩くまでのラグもあるだろうよ」

「再会したのも賭場だったしなぁ……。流石兄弟だよな」

 そんな事を喋りながら棒を渡す。

「さて、ジョン。行くぞ?」

「おうよ」

 瞬時にジェイが間合いを詰めて横薙ぎを仕掛ける。それをバックステップで回避しステップで沈んだ足をバネにして今度はこちらから間合いを詰め、突きを繰り出す。

 ジェイは獲物の先端を蹴り上げ木刀に当てて軸をずらす。

「それは読んでたぜ!」

 ジェイは上がった先端を中心に回転しつつ更に斜め上から薙いでいく。

「読んでるのはこっちもだ」

 俺は体を沈めてジェイに足払いを仕掛ける。

「甘い!」

 ジェイは俺の足のリーチから外れるところまで後退。

「これが長物の長所だ。そらよ」

 棒の先を眉間に突きつけられる。勝負ありだ。

「クソ……」

「近接だけならまだ俺のが上だな。でもまぁジョンもかなり強いと思うぞ」

「そりゃどうも」

「その辺の魔物なら余裕で狩れるな。自信持てよ」

「前向きに捉えておく」


 それから何回か訓練をして時間は夕方になる。俺達は街の自警団の詰め所に向かう。そしてドアをノック。

「はーい。どちら様?」

「俺達はガラマの爺さんから紹介された助っ人なんだが」

「あーはいはい! ジョンとジェイね」

「ああ、俺がジョン。こっちがジェイ」

 ジェイを指差して言う。

「ふたりとも腕利きらしいじゃないか。よろしく頼むよ」

「おう、頑張るぜ。なんせ俺の武器がかかってるからな」


 自警団員に同行して街の周辺をぐるりと一周する。

「今日は魔物が居ないみたいだ」

「そりゃこっちの都合で魔物は動かないからな。ちなみにどんな魔物なんだ?」

「ああ、聞いていなかったのか。巨大な狼だよ。ただし尻尾は蛇の頭なんだがね」

「キメラか……」

「とりあえず今日はもう引き上げよう。何かあったらガラマさんの家に人をよこすから」

「了解。じゃあジェイ、行こうぜ」

「あいよ」


「おかえりなさい」

 スーさんが出迎えてくれる。

「ただいま。今日は何も出なかったよ」

「まぁジョンの訓練もあるからしばらくは出て欲しくないかなぁ」

 ジェイが苦笑いしながら言う。そしてスーさんの作った晩飯を食べて就寝前にガラマの作ったヨットというゲームのルールを読む。

「そういえばジェイ。カードは?」

「あー、そういえば返してなかったな」

 ジェイが取り出したカードを受け取る。

「そういえばジェイは何の属性をエンチャントしてもらうんだ?」

「まだあんまり考えてないけど炎か毒かな」

「魔物のハント特化か」

「ああ、やっぱりハントするのなら特化しておきたいからな。炎はスピアで突いた傷を焼いて傷口を固定させるし毒はそのまま仕留めるのに便利だ」

 その夜、俺達はヨットでしばらくルールとにらめっこしつつ練習していた。


 次の日。

「ジェイ。エンチャントの方針は決まったかの?」

 ガラマがジェイに問いかける。

「迷っているんだが炎か毒のどちらかにしようかと」

「炎がいいぞ。スピアならなおさらじゃ」

「そういうもんか?」

「メシも作れるし炎は何かと便利じゃよ」

 なるほど。ガラマの言う事ももっともだ。火起こしだって立派なハント中の行動だ。

「爺さんがそこまで言うなら炎に決めるかなぁ」

「ああ、炎ならエレメントの手持ちがあるから割とすぐ出来るしの」

「じゃあ替えの武器があればすぐにやってもらえるのか?」

「まぁ出来なくはないが替えがないんじゃよ」

「そうかぁ……。残念だ」

「ジェイは一応ショットガンがあるじゃないか」

 俺は口を挟む。

「まぁそりゃあるけど残弾の管理やらが面倒でなぁ」

「訓練と思ってやってみたらどうだ?」

「まぁそれもアリ、か。じゃあ爺さん、頼むわ」

「任せろい。まぁジョンの時と違ってスピア本体にエンチャントするだけじゃからそんなに時間はかかるまいて」

 ジェイはロングスピアからショットガンを外してガラマに渡す。

「よし、早速取り掛かるかの」

 ガラマは工房へと向かっていった。

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