第4話

「夕飯が出来たよ!」

 女将さんの声で俺達は階下に降りる。

「何かさっき嫌な匂いがしたんだけど、アンタ達かい?」

「俺の服の匂いだな」

「ジョンは今日街道筋の魔物の尾行をしたんだよ」

 ジェイがフォローを入れる。

「そうかい。なら洗濯しちゃうから後で出しておきな」

「ありがとう女将さん」

「今日もまた酒場に行くのかい?」

「今日は行かずに明日の準備さ。ああ女将さん、後で香草を少し分けてもらってもいいかい?」

「ああ、別に構わないけど何に使うんだい?」

「オークの嗅覚を狂わせる為にね」


 夕飯を終わらせて香草を少し分けてもらう。オークには悪いが人を襲う以上仕方がない。

「なぁジョン」

「なんだ?」

「なんでサブウェポンがダーツなんだ?」

「そういえば話していなかったか」

「そうだよ。ジョンからスカウトしておいて自分の事は結構だんまりなんだからさ」

 ジェイは少し怒った様な顔をして言う。

「ダーツの理由はだな。単純に酒場の手遊びみたいなもんで自然と上手くなった投擲武器だからだ」

「武器になるの?」

「針やらに細工を加えるとなるな。毒だったり」

「なるほどね。まるでアサシンみたいだ」

「こんな目立つものを投擲して暗殺も何もないと思うがな」

「案外気付かれないかもよ?人の目って意識の外にあるものほど盲目になるから」

「そういうもんか」

「そういうもんだよ」

 そんな事を話しつつ、明日に備えて寝る。


 翌日の昼間。はぐれのオーク討伐の為に肉を漬け込んだ酒瓶をバッグに入れオークのねぐらから少し離れた位置に陣取る。

「お宝とかないかなぁ」

 ジェイは気楽に言う。

「あまり大きい声出すなよ? あれでもオークは感覚が鋭い」

「了解」

 風のタイミングを見計らい、酒瓶から肉を取り出し地面に置き、香草をまぶしてから残りの酒をぶっかける。これで嗅覚は塞がれるはずだ。

「うわ、ああして見ると美味そう」

「お前が食うなよ」

 数十分後、のそりと岩の陰からオークが一匹顔を出す。相変わらずの悪臭だ。

 オークはゆっくりとした動作で肉を拾い上げて匂いを嗅ぐ。これで香草の役目は果たしてくれた。なまじ鋭い感覚のおかげでツーンとした匂いが嗅覚を駆け巡っているはずだ。そしてオークはそのまま肉をかじりながらねぐらへと向かって歩き出す。

 そうしてオークのねぐらまで辿り着いた俺達は顔をしかめる。

「こりゃ酷い。馬やら人やらの骨か?」

 小声でジェイが言う。

「静かに」

 ねぐらからはいびきが聞こえる。追跡の後半は酔いが回ってかふらついていた。作戦通りだ。

 まずはオークにとどめを刺してから探索からの火葬となる。死体を放置していたら狼やら他の魔物に食われるだけでいい事は何もない。

「ジェイ、やれるか?」

 小声で尋ねる。

 ジェイは頷き武器を構える。俺も構える。

「せーの!」

「せっ!」

 お互いの全火力を集中させて頭を吹き飛ばした。首からは血が出ておりかなり強烈な匂いだ。

 数秒オークは首がない状態で痙攣していたがすぐに動きを止めた。

「さて、火を付ける前に探索だな」

「お宝があるといいんだけどね」

 血生臭い中でねぐらを探索していると一振りの剣が目についた。

「ん、こいつは……」

「何か見つけたの?」

 ジェイに見せてみる。

「業物、しかも雷の属性がついてる」

「やっぱりそうか」

 俗に言うサンダーソードというヤツだ。

「掘り出し物だな」

「手入れすればまた使えるよ」

「ジェイが使うか?」

「いやジョンが使いなよ。近接武器ないんだから」

「そうか。とりあえず残りの探索をしよう」

 そう言いつつサンダーソードを引き抜くと同時に何かの気体が吹き出すシューッとした音がし始める。

「ねぇジョン。こいつはもしかして」

「ああ、トラップに無警戒だったな」

 そして二人で一気に出口へとダッシュをする。一瞬遅れてねぐらがあった洞窟の外から爆発音がする。

「ジェイ、頼む」

「了解」

 ジェイは並走している俺を抱えて更に加速する。

「じゃあジョン後は頼んだよ」

 抱えられた俺は爆薬を背後に投擲して爆破させる。そしてその爆風で二人で吹き飛ぶ。

 爆風の勢いで俺達は洞窟から吐き出される。

「いったー……」

 ジェイが愚痴りながら立ち上がる。

「まぁなんとかなったな」

「ガスのおかげで予想以上に吹き飛ばされたね」

 ねぐらの入り口は完全に岩で塞がれていた。

「収穫はサンダーソードだけか。まぁ仕方ない。引き上げるか」

「お宝がぁ……」

 俺とジェイは街へと足を向けてとぼとぼとと歩き出す。

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