第3話

「いらっしゃい」

 昼間の人もまばらな酒場に俺とジェイは獲物を携えて入る。

「詳しい話を聞かせてもらおうか」

「ジョン、いきなりはよくないぞ」

「いいんだジェイ。じゃあ二人に今回の依頼について話をさせてもらうよ」

 マスターは依頼について話す。

 曰く、近くの街道筋に魔物が出る、そのせいで街道の整備が荒れて馬車やら交通の便や食べ物、酒、日用品に至るまで不便をしているとの事。

「その魔物の特徴はあるのか?」

「ああ、なんでも人型で単体での行動、馬車を襲う事から肉食で少しばかりの知性はあるらしい、と被害者は言っていたよ」

「なるほどなぁ……。そりゃはぐれのオークかもしれないな」

「はぐれか。やりにくいな……」

「どうするジョン?」

「どうするもこうするもないな。昨日賭けに負けたんだ。しっかり仕事はしないとな」

「オッケー。トラップの用意は?」

「レンジャー関係は俺の分野だろジェイ」

「はいはい。必要なものは?」

 俺はマスターに少しばかりの肉と度数のとびきり強い酒を蔵から出してもらい、肉にアルコールを漬けておく。

「まぁはぐれならこれで大丈夫だろ」

「オークなら、ね」

「まぁ後はやってみるしかないな」

「二人とも気をつけてくれよ?」

 マスターは心配顔だ。

「大丈夫、マスターより長生きするつもりだから」

 ジェイが軽口を叩く。

「なんじゃそりゃ?」

「こんなところじゃ死ぬつもりはないって事だよ」

「そ、そうか」

 やれやれ、なんて思いながら漬け込むには一日じっくり時間をかける必要があるな、なんて思いつつジェイの首根っこを引っ掴んで宿に戻る。


「さて、俺は街道筋を偵察に行くがお前はどうする?」

 ジェイに尋ねる。

「偵察ならジョンだけの方が楽だろうから任せるよ。俺はー……」

「寝るとか言うなよ?」

「寝ないけどさ。サブウェポンの整備でもするかな」

「じゃあ俺のも頼むわ」

「えーマジかよ……。ジョンのは殆ど趣味みたいなもんだろ?」

「まぁダーツだからな。針先を研いでくれればそれでいい」

「ちぇー。わかったよ。じゃあ行ってらっしゃい」

「おう」

 俺はジェイに愛用のダーツの矢をとりあえず三本渡して宿を出る。オークなら夕方から活動を始めるはずだ。夜は夜目が効かないので逆に安全だろう。ただし松明なんかを自分が持っていたらその限りではないが。


 街道筋までの時間、被害者の足跡を遡っていく。必然として魔物の足跡にぶつかり、魔物の足跡を辿ればある程度足のサイズから種族やら住処やらの情報が出てくるからだ。

 時刻は夕方。良い子も悪い子も住処へ帰る時間だ。

「さて、この辺でいいか」

 俺は敢えて松明に着火。そして街道筋に落としておく。これでオークならば獲物と思い釣られるかもしれない。

 じっと岩陰に身を潜め観察する。三十分ほどしてからだろうか、腐肉のような匂いが立ち込める。これは釣れたな、と思いつつ風下に移動する。

 フゴフゴと緑色の肌をしたオークが一匹、松明に近づいていく。どうやら、予想通りはぐれのようだ。しかしその分、通常のオークよりも二周りほど体が大きい。群れからはぐれて強くなるほかなかったのだろう。まぁそれでも倒さねばならんが。

 松明だけで何もない事に気付いたのか、腐臭を撒き散らすオークはねぐらと思われる方向へのっそりと歩いていく。

「さて、追跡開始だ」

 俺は小さく呟いて風下を意識しながらオークの後ろを追跡し始める。


 一時間ほどの追跡を終え、俺は宿に戻る。オークの風下に居たせいか少し服に匂いがついたかもしれない。まぁそれは仕方がないと思いつつ自分の部屋に入る。するとジェイはこちらをチラリと見ながら鼻をつまんだ。

「やっぱりオークだった」

「そうかい。とりあえずジョン、匂いがついてる。女将さんのメシの前に着替えておいた方がいいよ」

「そうだな」

 服を着替え、匂いのついた服を水に漬けておく。後で洗濯して貰う事にしよう。

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