第12話 朽ちたつり橋を前にして
妖樹王の一撃に、大地は深々と抉られていた。
巻き上がった土煙が、太陽を隠し、『妖樹の森』の闇を一層濃くする。
「コォォォォ!!」
薄暗闇の中で、妖樹王が、勝利の雄たけびを上げていた。
しかし、それはいささか気が早い。
俺、新山珪太は、未だ健在であるのだから。
「ク、クソッ、なんて威力だ」
直撃はかろうじて避けたものの、俺は余波だけで十数メートルは吹っ飛ばされていた。
「気をつけてください。妖樹王のパワーは、あの
俺の傍らには、同じく紙一重で回避した、美少年も転がっている。
「昨日のあいつより更に上だって!? 冗談じゃないぞ、まったく」
俺たちは、互い身体を支え合って、立ち上がる。
「僕の名前は荒井
「虎太郎ねえ。名前だけは男らしいな」
「うるさい!」
「コォォ!」
妖樹王の腕が垂直に伸びた。
塔の如くそびえ立った巨腕が、ゆっくりと俺たち目がけて倒れてくる。
「「!?」」
凄まじい衝撃に、大地が
「くそっ、こんなのオーバーキルにも程があるだろうが」
左右に分かれて避けた俺たちの間には、深いクレバスが出来上がっていた。
「まともにやり合っても勝ち目はないですよ」
「勝つ必要なんてないんだ。どうにか時間を稼ぎさえすれば」
(篠原会長たちなら、きっとどうにかしてくれるはず)
「ココォォォ!!」
妖樹王の巨大な枝が大きくしなり、俺たちに、また襲いかかった。
それは言わば、巨人の振るう巨大鞭。
風圧は大型台風にも等しく、あたりの木々が大きくたわんだ。
運悪く巻き添えを食らった樹は、へし折れるどころか、木っ端みじんにはじけ飛ぶ。
「一旦距離を取りましょう!」
この構図は、子供と大人どころか、子供と重戦車にも等しかった。
「コオァァァ!」
妖樹王は、執拗に俺たちの背中を追いすがる。
蠢く根の放つ音は、さも巨大な蟲が這うようであった。
「の、残りの二人は助けに来てくれないんですか!?」
「い、今、あの二人はシエナとやらだ。ここに来るには時間がかかる!」
「シ、シエナですって! そんなに遠くに!?」
不意に、妖樹王の腕が、水平に払われた。
「頭を下げろ!」
「!?」
ちょうど俺たちの頭の位置を、太い枝が高速で通過していく。
軌道上の妖樹たちが、一斉に粉砕される。
「こ、これはとても逃げ切れない……」
無防備な背中を晒しつづければ、いつかは確実にやられる。
あるいは体力が先に尽きるか?
「前を向いて戦うしかない」
悲壮な決意が、俺の口をついた。
「ほ、本気で言ってるんですか?」
「冗談で言えるわけ無いだろ」
俺の目尻から不覚にも一粒涙がこぼれた。
「俺だって怖い。今すぐ家に帰りたい。自分の人生、安全な石橋だけを選んで渡りたかった」
「僕だってそうですよ」
「だろ、同士よ。だけど今はそれができないんだ。この朽ちかけのつり橋をどうにかこうにか渡り切るしかない」
「ううう、どうしてこんなことに。何が悪かったんだろう?」
「誰も何も悪くない」
強いて言うなら運が悪かった。
そう告げられると、虎太郎の目からも一筋の涙が流れた。
「虎太郎。お前何ができる?」
「ぼ、僕のスキルは風を多少操るだけです。テクニカルでスピードはありますが、巨大モンスターを相手取るにはパワーが足りません」
「それでもいい。少しでもいいから、俺を援護してくれ」
「え、援護!?」
「ああ」
俺は、脚を停めて、妖樹王と顔を正対させた。
「お前が後衛。そして、俺が前衛だ。あの化け物と直接斬り合ってやる」
腰の
「そんないくらなんでも無謀すぎます」
「コアァァア!」
妖樹王の咆哮が上がる。
「あああああっ!!」
負けじと、俺も雄たけびを張り上げるのだった。
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