第2話 安息

慌てて部屋を探すとシャワーを浴びて出てきた美鈴が、半裸でガウンを持ってバスルームから出てきた。

「は、班長!」

思わず美鈴は新堂のボディに一発入れてしまった。

新堂がうずくまっている。


「あ、すまん、つい。というか向こうを向いてろシン」


新堂はプルプル震えている。


ガウンのベルトを締めながら美鈴はちょっと心配になって覗き込む。

「大丈夫か」

新堂は立ち上がると号泣し美鈴を抱きしめた。

「班長、生きてたんですね。本当に、本当に!」


美鈴は新堂に抱きしめられ新堂の懐かしい匂いを思い出した。

「ああそうだな、私は生きている」

新堂は号泣している。


>ミスズ、新堂サンハナゼ涙腺カラ水分出スノデスカ

それは多分嬉しいんだよ


>嬉レシイ時ハ笑ウノデハナイデショウカ

人は『嬉しい』を通り過ぎると泣くんだよ。

>記録シマシタ


「シン、色々説明するから離してもらっていいか」

「あ、すんばぜん」

新堂が離れると新堂の鼻水が美鈴の頭に引っ付いて伸びた。


「あー! もう!! 洗ったばっかなのに! そっちの部屋で待ってて」


美鈴は慌てて頭をシャワーで流しにいった。


新堂がバスルームから出ると西門が冷蔵庫からジュースを出し飲んでいた。


「だから大丈夫っていったでしょ」

「す、すまん。しかしこれは道理が」


西門は新堂にもジュースを渡すと

「美鈴さんから聞いたほうが良いですね。

 とりあえず新堂さんもシャワーを浴びて朝食を摂りましょう。脳を活性化しないと」


西門は受話器をとりフロントと話をしている。

美鈴が頭をバスタオルで拭きながら出てきた。

ピートも足元にいる。


美鈴は新堂の前に行くとクンクンと匂いを嗅いで顔をしかめる。

ピートも新堂の足をクンクン嗅いで後ろに飛んで唸っている。


美鈴は新堂の顔に自分の顔を近づけじーっと観察した。

「まーた、風呂入ってないな! シン、直ぐいってきな」

「あ、はい」


慌てて新堂はシャワーを浴びに行く。

「ちゃんとその貧乏ヒゲも剃って来い」

「はい!」


美鈴は電話をしている西門を見て声を掛け電話を代わった。

『ピンポーン』


暫くすると女性のホテルマンが部屋を訪れた。

美鈴は女性を自分の部屋に招き入れ何やら話をしている。


「では取り急ぎですが直ぐにご用意いたします」


ホテルマンは一礼し部屋を出たが、大きな紙袋を三つほど持って直ぐに戻ってきた。


美鈴は一つの紙袋を部屋に持ち込み荷物を広げ何かをしている。

「……まじか」


『ピンポーン』

また部屋のベルが鳴り、いい匂いのする朝食が運ばれてきた。

ピートもにゃにゃーと言っている。


新堂はシャワーを浴びて髭を剃り着ていた服を再び着ようとしたが、

やめてガウンを羽織りシャワールームを出るとテーブルの上に食事が並んでいた。

新堂は驚愕した。食事の事では無い。


なんと美鈴がメイド姿で座っている。


美鈴は顔が少し赤く横を向いている。

「シン、じろじろ見るんじゃない!」

「あ、すんません」




     ◇


食事が届く少し前――


美鈴は紙袋を開けると下着とメイドの服が入っていた。

「んー」

昨晩まで来ていた警備員の服は血で汚れ流石に着れないので、とりあえずホテルマンに服と下着をお願いしたのだ。

下着を付けるとブラがデカい。

パカパカしている。


世の中の基準どうなってるんだ?

[エル]胸だけサイズ調整できる?

>ハイ。調整開始

美鈴がブラを外して見ていると胸が大きく膨らんでいく。

>ミスズ、モット大キクシマスカ

もう一声


中々の巨乳だ。

美鈴はまた自分の胸を持ち上げている。

そしてブラを付けメイドの服を着て姿見を見ると、胸の大きく空いたデザインで豊満な胸の谷間が見えていた。


部屋を出ていくと西門は美鈴を見てジュースを吹き出した。

「仕方がないだろう! 一着しか予備が無かったらしいんだから」

「いや、凄く似合ってますよ」

「やめろ」


美鈴はソファーに座り、部屋の時計を見ると午前8時を少し回ったところだった。

「店が開いたら服を買いに行きたい」


西門は財布から一枚クレジットカードを出した。

「とりあえずこのカード渡しておきますので使って下さい、あと携帯も必要ですね一緒に行きましょう」

そこに新堂がやってきてメイド姿の美鈴を見て驚いていたのだ。


「シン、替えの服あるのか」

「いや無いっす」

「そんな事だろうと思った」


美鈴は紙袋を新堂と西門に渡し着替えてこさせた。

西門はホテルマンに借りたスーツ、新堂はサイズが無かったらしく清掃員の服だった。


「さぁ食べましょう」

西門と新堂は朝食を摂っている。

美鈴はホテル側で用意した甘い飲み物を飲んでいる。

ピートはホテルが用意したにゃんこ用の食事をヒャッヒャ言いながら食べていた。


「実は私死んでたんだ、本当に」

「はい」


「でも生き返った」

「はい」


美鈴は自分が生き返った事と身体が電気で動いている事を順番に説明した。

篠原の施設から逃げ出した理由も。


身体のモーフィング機能とかモーション機能の話はやめておいた。

あと西門は篠原に研究データを盗まれた被害者で、成り行き上美鈴と脱出した事を伝えた。


「じゃあ、あんたが班長を助けてくれたのか。ありがとう」


新堂は西門に頭を下げ美鈴を見る。

「だからか、昨日の班長が大男と戦っていたのは驚きました」


美鈴の身体を信じられないといった顔で見ている。

「シン、腕をちょっと触ってみろ」


新堂はもじもじしながら美鈴が差し出した腕を触る。

「これが本当に機械なんですか?」

どう見ても人間だ。


うっすらLEDが光っている腕をじっと見た後、つい胸の谷間に目が奪われる。

「何処をみている」

「いや。あ、班長その……」

「なんだ」

「そんなに、ありましたっけ」

「?」

「そうか、その機械の身体の形が元々そうなってたんですね

 班長。デカくなって良かったっすね!」

新堂は喜んでいる。


>ミスズ、脳内コルチゾール値上昇シテイマス

ったく


「シン、お前のデリカシーの無さは変わってないな」


新堂は慌てて謝る。

「いや、でも何処から見ても生身の人間にしか見えないですよ」


新堂は改めて美鈴を見る。

「もう見るな。――で、これからの事を相談したい」

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