第2章 混沌

第1話 異様な三人組

新堂はボートを波止場に付けていた。

ピートは動かない美鈴の上で丸くなっている。


本島への移動中に西門は新堂に美鈴の事を説明しようとしたがやめておいた。

新堂は目を滲ませながら黙々とボートを操作していた。

新堂は美鈴を抱えるとボートから降りようとしたので流石に西門が声をかける。

ピートも床に降り新堂に「にゃにゃ!」と言っていた。

「ちょっと待ってください新堂さん」


新堂は冷たくなったいる美鈴を抱え西門を見る。

「お前は誰なんだ」

「よく聞いてください新堂さん。美鈴さんは大丈夫ですから」

「何処が大丈夫なんだ!」

「と、とにかく美鈴さんの顔の血とかふき取ってあげましょう」

新堂は美鈴を横に寝かせて自分のカバンからタオルを取り出し美鈴の顔を丁寧に拭いていた。


顔を拭きながら新堂はまた泣いている。


西門とピートはお互いに顔をみて困った顔をした。

「新堂さん、ちょっと僕必要なものを買ってくるのでちょっと待っててもらえますか」


新堂は美鈴の顔を拭き終わり美鈴を抱えボートを降りようとする。

「ちょ! ちょっと!」


西門の制御を振り払い構わず行こうとする。

「痛い痛い! なんだ!」

ピートが新堂の腕に噛みつき顔を引っかいている。


慌てて新堂は美鈴を下に下ろしピートを捕まえようとすると、ピートは美鈴の上に降りフーフーやっていた。

「ピートくんちょっと頼んだよ!」

西門はボートから降り走ってどっかに行ってしまった。


新堂はピートを睨みつけるがピートはツンとして動こうとしない。


「なんなんだよ一体」


新堂もやれやれともう一度ボートに腰を下ろし暫くすると車のライトが近づいてきた。


西門がタクシーを捕まえてきたのだ。

「お待たせしました、すぐ行きましょう」


ピートは美鈴の上からぴょんと飛び上がり足場へ移動した。

新堂はやれやれという感じで美鈴を抱えボートを降りタクシーに向かう。


タクシーの運転手はピートを見て困った顔をする。

「お客さん、動物はなんかケースに入れてもらわないと困りますよ」


ピートは「フー」と運転手を睨みつけるが直ぐに新堂に飛び乗り美鈴の上着の中に潜り込んだ。


「これでいいか」

巨大な新堂を見上げて運転手は驚く。

「うわ! あ、はい問題ないです。はい」


西門は助手席に座り新堂と美鈴は後ろの座席に座った。

新堂の体重で車がギィと軋む。

「近くの病院まで頼む」


西門は慌てながら場所を変更した。

「いや、***プリンスホテルまでお願いします!」

新堂が何か言いかけようとするとピートが美鈴の胸元から顔を出し「フー」と唸る。


新堂はもう勝手にやれと言わんばかりに外を見ている。

運転手はバックミラーで新堂を気にしながら返事をすると急いで車を出した。

車は広い通りに出ると街がにぎやかになってきた。

新堂は腕時計をみると0時を回っていた。


西門は途中車を止めさせるとコンビニで何かを購入し戻ってきた。


街中を抜けると金色にライトアップされた豪華なホテルが見えてくる。

正門を入ると美しい噴水で水が躍りウエルカムエリアがキラキラと照らされ、正面玄関は金色とインペリアルブルーの装飾が施してあり

見る者の心を上品な高みに連れて行ってくれるようなデザインで統一されていた。


運転手は異様なお客と超高級ホテルのギャップからかチラチラ見てくる。

正面玄関に通じる送迎エリアに車を付けて新堂たちを降ろすと逃げるようにタクシーは行ってしまった。


ホテルマンが駆け寄ってきた。

「西門様お待ちしておりました。今回も学会でしょうか」

「ああ、いや今日は連れがいてですね」

西門が後ろを振り返ると新堂が美鈴を抱えて立っている。

「左様でございましたか、さぁどうぞ、いつものお部屋をご用意しております」

「ありがとう」


ホテルの中は吹き抜けで広く中央には大きな桜が煌びやかな佇まいで活けてある。

照明は上に行くほど明るく、下に降りるほど床のワインレッドの絨毯と時代を感じさせる木造の手すりとが暗く交じり合っている。

待合はアンティーク調の小さな椅子と机があり、小さなスタンドがほんのり灯っていた。


二人ほど外国人のお客が座っていて巨像のような新堂に興味深くみている。


西門チェックインしている間、新堂が美鈴を抱えたまま立っていた。

ホテルの従業員が新堂に声をかける。

「もしよければソファーで横になっていただいても構いませんので」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか失礼いたしました」

礼儀正しく一礼をし後ろに下がる。


チェックインが終わり西門がキーをもらったようだ。

西門は手慣れたジェスチャでホテルマンの案内を止めた。

「何か御座いましたらお申し付けください」

従業員は気持ちの良い笑顔で見送ってカウンターに戻っていった。


新堂は先ほど見ていた外国人たちを見るといつの間にかいなくなっていた。

エレベータ横の時計は既に1時を回っている。


エレベータが静かに開き新堂が乗り込むとズシリと沈み西門が乗り込む。

2308号室の部屋はソファーとテーブルやカウンターバーが設置されている明るいおしゃれな部屋だった。

リビング以外に三室に仕切られベッドはフカフカのダブルベッドで、サイドにはおしゃれなサイドテーブルが付いている。

新堂はソファーを見つけ美鈴をゆっくりと下ろした。


ピートは胸元から顔を出し辺りを伺うとそのままモソモソとはい出て、美鈴の顔を舐め喉を鳴らす。

西門が電源ケーブルをバッグから取り出し美鈴の首の辺りを探っている。

「おい、何を」

新堂が声を掛けると西門が接続したらしい。

小さくピっと音が鳴り腕のLEDが点滅し始める。


新堂は美鈴の腕を見て目を丸くしている。

「美鈴さんは充電しているので今日は多分起きないと思います。

 僕たちも食事を摂って今日は寝ましょう」

「充電? なんの事だ、起きないって班長は死んでるんだぞ」


「何回か伝えましたが美鈴さんは死んでいません」


西門はバッグからレジ袋を机の上に置き、サンドイッチとコーヒーを摂るとさっさとシャワーを浴びに行ってしまった。

新堂は美鈴の首の後ろに接続されているケーブルを触ろうとしたらピートが唸りだしたのでやめた。

ソファーに横たわる美鈴を見ながら新堂はおにぎりをムシャムシャと食べ、いつの間にか寝てしまった。



翌朝、新堂が目を覚ますとソファーにいるはずの美鈴がいない。

「――!」

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