第41話 シン
二人は倒れ、一人は逃亡。
残り六人の内、三人も小さな悲鳴を漏らして、逃げてしまった。
「おい、逃げるなって! 畜生! 根性がない連中だぜ!」
>バッテリー残量14%
残り三人。
西門は海岸線を少し離れた場所まで移動し、新堂の到着を待っていた。
じっと目を凝らすと、大きな影が近づいてくる。
ボートのエンジン音だ。
ペンライトをチカチカさせると、応答するかの様にライトを点滅させてきた。
近くまで来ると男はボートを下り、浅瀬をザバザバと歩いてくる。
西門は男の大きさを見て少し驚いたが質問してみた。
「あなたは?」
「新堂です、貴方は? 班長は! いや、山本はどこですか!」
「僕は西門です。美鈴さんは、もう少し向こうにいるのでボートで移動してもいいですか?」
西門は新堂の返答も聞かずさっさとボートへ向かう。
新堂は西門を見ながらボートに戻り、美鈴がいる方向へ船を走らせる。
ボートを進めると、海岸で三人の男と美鈴が戦っている。
一体どうなっているんだ!
新堂は美鈴を見つけ、大声で叫ぶ!
「班長おおおおおぉぉお!!」
◇
美鈴は海側から確かに新堂の声を聞いた。
ひっさびさだな
相変わらずのデカい声だ
[エル]フルパワーにしてくれ。
>ミスズ、危険デス
いいからやって!
>ハイ。出力最大ニシマシタ
ありがと
三人はナイフを構え、ジリジリと美鈴に迫る。
「いけぇ!」
黒山は二人に突っ込ませ、その後方から走ってくる。
美鈴は隊員に背を向けてそのままジャンプした!
二人のヘルメットの前方部分を掴み、後ろに引きずり倒す。
そのまま高くジャンプし、二人の腹にジャンピングニードロップを叩き込んだ!
その時、周りが暗くなる。
黒山はその巨漢とは思えないジャンプで空中に飛び上がっていた!
地響きをたてながら凄まじいボディアタックがヒットする。
「へっへ! どうだあぁ!」
しかし起き上がると潰れた隊員しかいない。
「こっちだ」
>ミスズモウ限界
いいから!
◇
新堂がボートを降り、美鈴の近くに走ってきた。
メキッと鈍い音が響く。
美鈴のジャンピングローリングソバットが、黒山の首に直撃したところだった。
二人ともゆっくりと倒れる。
どさぁっと黒山は倒れ、白目を向けて気絶している。
美鈴も起き上がらない。
「は、はんちょうおおおおおお!」
新堂は美鈴に駆け寄り、抱き寄せる!
「よう」と美鈴が声を掛ける。
新堂は何か美鈴に話しているが聞こえない。
ふと美鈴が倒れた黒山を見ると、ピートが黒山の顔に乗りバリバリ引っかいていた。
「ピート」
美鈴が呼ぶと、ピートは美鈴に擦り寄ってきた。
「無事で良かったね」
美鈴は、新堂の目をじっと見る。
「シン。後は頼む……」
>スリープモードへ移行
腕のLEDが赤く点滅している。
バッテリーが切れた美鈴は、新堂の腕の中に倒れこむ。
新堂は真っ青になっている。
「は、班長? ――班長!」
顔は血だらけだ!
慌てて脈をはかる!
鼓動が無い!
呼吸もない!
新堂は絶句した!
「に、二度も俺はあああぁぁぁぁあ!」
泣きながら美鈴を見て、さらに泣く。
「だ、大丈夫! 俺が直ぐ病院に連れていきます!」
号泣しながら美鈴を抱きかかえると、ピートも美鈴に飛び乗る。
新堂は大事そうに美鈴をボートに寝かせ、ボートのアクセルをふかす。
西門が何か言っている。
三人と一匹を乗せたボートは、月夜の中を広島へ移動する。
◇
一方その頃、有馬は自宅で桜庭に連絡を取っていた。
「はい、篠原の研究データと思われる情報が大量に流出しています。何らかの事故があったのかもしれません。
私の方でもまだ拾い切れていませんが軍事兵器系の情報等もありました」
桜庭は舌打ちをする。
「わかった。山本の件もあるし俺から向こうに連絡を取ってみる。
で、例の件はなんか判ったか?」
「網を張っているんですが中々食いつきませんね。はい、では後程」
携帯を切る。
有馬一課長42才。バツイチ。中学生の娘と同居。
美鈴の事件の後、現在は千葉の所轄に移動した。
いつも穏やかで、怒ったことが無いのではないかと思える人物だ。
千葉に移動したとき、妻は都心から離れることを嫌がり、有馬を罵った。
元々有馬は東大出身のキャリア組でエリートだった。ゆくゆくは警視総監も夢ではない。
しかし妻は有馬を捨て家を出て行った。
出世レースに乗る予定が大幅に狂ったからだ。
妻はブランドに弱い。
合コンだったが有馬がキャリア組と知ってから急に態度が変わったのも覚えている。
結婚も子供も今考えるとちょっとした策略だったのかもしれない。
離婚を切り出してきたのも妻のほうだった。
親権もあまり揉めなかった。娘の遥はどうしても有馬についてくると言ってきかなかったからだ。
有名校に通っていたが千葉の中学に転校することになった。
今は遥が家事をやってくれている。よくできた子だ。
有馬も表向きはあの事件で飛ばされたことになっているが、実は違う。
桜庭にある事を託されていた。
それは神崎大臣の実家が千葉にある。なぜ三年もの短期間で今の大臣の地位までのし上がれたか調べる事。
高額な資金と反社会との繋がりの疑惑。更に、第三国との繋がりの疑惑もある。
もう一つ。有馬は桜庭から美鈴の事を聞かされていた。
また、改革派の桜庭の考えにも同意している。
今はこの田舎で着実に準備を進めている形だ
有馬は自室のPCを立ち上げ、あるフォルダを開いた。
PCにフラッグのアイコンが点滅している。
「やっと開いてくれたか」
軽く伸びをして別のPCを立ち上げ、カタカタと高速にキーを打ち込み始めた。
プログラム解析しながら何かを突破していく。
USBを差し何かをインストールし始めた。
実は有馬はネットの世界では『W-HORSE』と異名を持つホワイトハッカーだった。
知っているのは山本と桜庭、後は新堂だ。
どうして追えないヤマの時は有馬が非合法的に侵入し、証拠を見つける時もあった。
その手が止まる。
ちょっと意外な顔をしながら
「なんだこのデータは?」
暫く画面を見ていると
1階のキッチンから『おとーさーん、ご飯できたよー』と声がする。
有馬は何らかのコマンドを叩くとPCの画面が慌ただしく動き始めた。
スマホを触りながら階段を下り
「遙、明日出張でロスに行く事になった」
遙の不機嫌な声がする中
「あ、桜庭さん例の件でお話が。はい。明日向こうに行ってきます」
照明が消えた有馬の部屋で光るPCの画面に『ダウンロード完了』とメッセージが出て
PCの数十はあるウインドウが慌ただしく閉じた。
暫くすると、ウインドウが一つ開きテキストが表示された。
『W-HORSE I've found your place(私はお前をみつけたぞ)』
そしてすぐにPCの電源が落ちた。
◇
各国の情報機関でも篠原のデータ流出の情報をキャッチしていた。
関係員たちの会話から『ProjectOZ』『MISUZU』『MainSystem-Dorothy』が聞き取られる。
一人の男がある流出データを見ている。
そこには『confidential』と書かれた文書が表示されていた。
男はつぶやく。
「MISUZU?」
――――第1章 ReBorn【完】――――
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