第36話 失望

1階では走り出した偽の真由美が、入口前で隊員と揉み合いになっていた。

隊員を振り払いまた走り出すと、送迎エリアでピタリと止まる。

隊員が銃口を向け、ゆっくりと近づいた。

偽の真由美から、機械音が流れる。

『自爆モードON。全テノデータヲ消去完了。自爆マデ5、4、――

 離レテクダサイ』

「爆発するぞ、た、退避! 退避!」


カウントダウンが進む。

隊員は防護板で防ぎながら、距離を取った。

『0』

真由美の胴体部分からLEDがチカッと光り、凄まじい爆発と衝撃波が周りを包む。

誰も近づけない程スーツは激しく燃え、いまだ小さな爆発を繰り返している。

衝撃で飛んだパーツがパラパラと降ってくる。

「しょ、消火ぁぁぁああああ!」


隊員達は消火剤をかけているが、中々火は収まらない。

「そ、そんな……」

田中は涙をにじませ、膝から崩れ落ちた。

しかし奮い立たす様に、直ぐに起き上がり、

「全てのパーツを回収して! ビス一本残さないで!」

なんとか挽回しなければ!


真由美の横に、スーツを着た男が近寄る。

「ケガは無いかい?」

男を見て真由美はとっさに謝る。

「ごめんなさい!」

「テロリストは依然捜索中らしいな」

「ええ。それより本社はいかがでした?」

「ああ。社長はこの実験に対して満足していたよ」


渡辺は残骸を眺めながら煙草を取り出し、火を灯す。

深く吸った後、煙を吐き出した。

「しかし、戻ったらこの様だ」

「大事な検体もスーツも無くしてしまうとは。全く君には失望したよ。いいチームだったのに残念だ」

「挽回してみせるわ! 大丈夫!」

もう一回煙草を吸い、煙を吐き出しながら煙草を消す。


「いや、必要ない」

渡辺は後ろを振り向き去ろうとした。

真由美は咄嗟にすがり付こうとするが、かわされる。


渡辺の横に若くて綺麗な職員が走り寄り、腕を絡ませ真由美を見ている。

真由美は女性を睨みつけると、

「やん、こわーい」

少し騒いでいた気持ちが静かになった。

そうか。あれは昔の私だ。


はだけたガウンを閉める。

「どいて!」

職員を退かせると、エレベータに乗り3階のボタンを押した。

私には今までの研究結果がある。

私を欲しがる国は山のようにあるわ。

エレベータが静かに閉じた。

この件が今後、田中真由美と山本美鈴の運命に、大きく関わって来る事になるが。それはまだ先である。

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