第37話 フェイク
爆発の起こる少し前――
西門と美鈴は地下3階の駐車場エリアで身を潜めていた。
駐車場は広く20台くらい駐車できるスペースがあり、非常出口を出たところに乗用車が二台。
警備の車が見通しの良い中央に出口に向かって、封鎖するように三台停車してあり複数の隊員が見張っている。
美鈴達は乗用車と乗用車の間に隠れていた。
西門はまだタブレットをカチャカチャ触っている。
「おい、さっきのはなんだ」
「これを見てください。そろそろ始めます。もう少し奥へ隠れてください」
言われるがまま、後輪側へ移動する。
美鈴に向かってタブレットを見せてきた
「1階入口内の監視カメラの映像です」
裸の真由美と隊員が揉み合っている。その後、真由美が急に走って移動し入口から出てカメラのフレームから外れる。
西門がちょっと操作すると、正面入口のカメラに切り替わる。
入口の外は光沢のある大理石で施工された三段の階段があり、その正面が送迎エリアらしい。警備の車が奥に見える。
施設を飛び出した真由美が立ち止まった。
「では」と西門が言って何かを操作する。
隊員や職員たちが蜘蛛の子を散らすように真由美から離れた。
少しして真由美が爆発した。
カメラが一瞬コマ割りになり同時に少し揺れを感じる。
「――!」
「これで美鈴さんは、自由の身になりました」
大理石の階段の上で真由美がへたり込み、燃え盛る様子をじっと見ていた。
「これは何?」
西門は口元で指を立て、静かにと言うポーズをとる。
無線の音が聞こえ慌ただしく隊員たちが車に乗って出口へ移動する。
美鈴は見張りがいないのを確認し西門の方を向く。
「後でちゃんと説明しろよ」
今は見張りもいない。チャンスだ。
しかしこのまま駐車場の通路を歩いて行けば出口だがバレバレになってしまう。
「ここを抜ければ出口なんだがな」
西門は何か思いついた様に[エル]に命令する。
「[エル]この駐車場に防火用通路はないか?」
>Mr.マモル、構造データヲ表示シマス
西門はタブレットに[エル]からメッセージを受け取っているようだ。
「ちょっと、[エル]に勝手に命令しないでよ」
西門はお構いなしだ。
美鈴も仕方なく目を閉じデータを見る。
西門の読みは当たっていた。
駐車場と外を繋ぐ道路脇に避難用のドアがあり、中の通路は外までつながっているようだ。
二人は出来るだけ壁沿いを進み避難用のドアを見つけ中に入った。
中は非常灯がついており意外に明るい。
[エル]監視カメラは付いてる?
>ハイ。10メートル間隔デ設置サレテイマスガ現在作動シテイマセン
え、動いてないの? なんで?
>施設内デ通信ノ大規模障害ガ起キテイマス
へーそうなんだ。
通路の中を歩きながら西門は美鈴に説明した。
あれは渡辺の管理部屋で、西門が見つけた美鈴の予備スーツだと教える。
「通常は予備パーツは用意していますから、どっかにあると思ったんですよ」
「窃盗じゃないか」
「僕も奴に盗まれてますし、痛み分けということで。
あのスーツ自体は、元々無人行動を基本とした設計なので使えると思いついたんですよ。
充電は十分でしたし、[エル]から田中真由美のモーフィングデータを受け取り、リモート操作してた訳です。
まぁ彼女でなくてもよかったんですが、ここの職員のデータはそれしかなくて。結果、一矢報いたことになりましたが」
「報いた?」
「何を言ってるんですか。美鈴さんを管理し解体する権利を持っていたのは彼女ですよ」
「嘘!」
「事実です」
「更衣室であんなに真剣に、私を保護してくれようとしてたのに」
「それはそうですよ。大事な実験体なんですから。
最初、この施設で美鈴さんの研究に関して説明してくれたのは彼女でした。また実験を繰り返すとも言ってましたね。
この施設の名前はEMERALD Laboratory。篠原の中でも選ばれた者だけが入れる施設なんです。
恐らく彼女は、美鈴さんを踏み台に更なる高みに進みたかったんでしょう。研究者はそういったのが少なくありませんよ。
これで暫くの間ですが、美鈴さんは爆発で死んだことになるでしょう」
美鈴は、背中に冷たいものを感じた。
データを取るだけ取ったら、また記憶を初期化し実験を繰り返される。
なんだこの気持ち。怖い。真由美の笑顔が怖かった。
今、私は被害者の立場だ。
そうか。今までは自分の価値観だけで、被害者に接していたんだ。
有馬課長に何度も言われた言葉を思い出した。
『お前はちゃんと気持ちを聞いているのか』と。
警戒しながら出口に向かって進む。
念のため監視カメラは全て物理的に壊しておいた。
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