第35話 ヌケサク

釜崎、黒山達が非常灯しか付いていない暗闇の中、留置所の鉄柵をこじ開け、警備室に戻るが銃や衣服はどこにも見当たらない。

黒山が吐き捨てるようにつぶやく

「くそ! あの女!」


そこに、さっきの女のアナウンスが聞こえる。

スーツだと! 噂に聞いていたが、確かにあのパワーは尋常じゃない。

黒山と釜崎は元イラク傭兵部隊だったが、強盗を犯し出所後はコネでこの警備隊に入った。


釜崎が警備室を出ると、さっきの女が走ってくる。


「おい、ねーちゃん! さっきは良くもやってくれたな」

真由美は走ってガウンがはだけている。

「お! こいつ裸じゃねぇか! いいオッパイしてやがるぜ!」

本物の真由美に釜崎はいきなり抱き着き、ガウンをはぎ取り真由美の豊満な胸にしゃぶりつく。

「ちょ! や、やめなさい!」

「へ! これでもう動けまい!さっきのパワーはどうした」


後ろから走ってきた隊員が慌てて叫ぶ。

「釜崎さん! なにやってるんです! その人は田中チーフです!」

「へ?」

「このフロアの責任者! 偉い人! 早く下に降ろして下さい!」

釜崎が、真由美の胸から顔へ目をやる。

「貴方! 私になにやってんの!」

強烈な金的と、『バッチーン』とフロアに響き渡る強烈なビンタがさく裂した!


釜崎から解放され床に降りた真由美は、落ちているガウンを直ぐに羽織り吊り上がった目で睨みつける。

「隊長! ここの教育はどうなってるの! クビよ!」

「す、すみません!」

「今の私の放送聞いたでしょ! 早く山本美鈴を捕まえなさい!」


隊長の怒号が響き、全員移動のためエレベータ前で待つ。

釜崎は怒っている真由美の後ろから小さく謝罪した。

「そのー。さっきは本当に申し訳ありませんでした」

「もうその話はしないで頂戴!」とピシャリ


黒山は釜崎を指差して笑っている。

「貴方たちこの騒動が収まったら覚えてらっしゃい!」

黒山と釜崎は更に小さくなった。


「一体このエレベータどうなってんの! 遅いわね!」

小さく『エレベータが動きます。ご注意ください』とアナウンスが聞こえ『チン』と音を鳴らしてドアが開いた。

開くと同時に薄い煙と刺激臭の強い匂いが漏れてくる。

「全員エレベータから離れろ!」


中では複数の隊員が倒れていた。

部屋からガスマスクを取ってきた隊員が全員に渡して回る。

「対象はこの階から移動したとみていい! 恐らくテロリストの男も一緒だ」

「「「おう!」」」

と怒号が響き、1階へ移動する。

扉が開くとフロアは煙が充満し、職員たちが移動している。

真由美は1階の混乱を見て唖然としている。

隊員達はエレベータを飛び出した。

ガスマスクを付け下着一枚の男達を見て、女子職員が悲鳴を上げる。


隊長は入口の増援部隊を確認し走っていった。

釜崎と黒山はマスクを外し、目を細めながら状況を確認していた。

その中、釜崎は何か見つける。




     ◇


二人は奪った白衣を羽織り入口の列にいる。


西門がタブレットを出し、何かを触わりだした。

その時釜崎が『見つけたぞ! おんな!』と大声で叫んだ!

美鈴は慌てて縮こまる。

恐る恐る振り返ると釜崎が指をさしているのは、1階の奥から出てきた田中真由美だ。

隊員達は唖然としている。


見事な裸体を見せつけながら、悠然と歩いている。

周囲は驚嘆の声をあげ、モーゼの十戒のように道が出来上がる。

本物の真由美は、慌てて捕まえようとした。

その途端、偽物の真由美が入口に向かって走り出す。

「それは私にモーフィングした山本美鈴よ! 早く捕まえなさい!」

フロアは大混乱だ。

中にはスマホで写真を撮る者までいる。

真由美は叫ぶ!

「早く捕まえて!」


西門が、美鈴に早く来いと目配せする。

美鈴はどうなっているのかわからない。

「今がチャンスです。行きましょう!」

二人は1階の出口には向かわず奥に向かって歩き出す。

その先には非常階段の扉がある。

少しずつ早足になる。

扉を開け踊り場へ滑り込み、階段を降りる。

「地下3階の駐車場から表に出られるはずです」

西門はタブレットを走りながら操作している。


黒山はその混乱の中、白衣の二人がフロアの奥に歩いていくのを見ていた。

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