第32話 ピート
「で、この子を使って、発信機には移動してもらいます」
この子?
西門はバックから何かを出そうとするが暴れている様だ。
「痛い! 痛い! 暴れるなって!」
西門は慌ててバックから手を抜くと、引っかき傷と噛まれた後で血だらけになっている。
バッグから超機嫌が悪そうな顔をした猫が顔を出す。
猫はヒョイっとバックから飛び出ると、華麗に床に降り上を見上げ細い目で西門を見て『フンっ』と鼻を鳴らす。
美鈴は動物に目がない。
直ぐにその猫を持ち上げて抱き寄せる、顔を摺り寄せて撫でている。
綺麗なキジトラで、オッドアイ。右目が黄色で左目がグリーン。
左目の瞼には傷がある。
猫は美鈴のほっぺに顔を摺り寄せ散々甘えまくった後、スっと床に降り何かを訴えている。
「にゃにゃ! にゃー!」
美鈴は目がハート状態。
「君はキジトラだねぇー。よし! 君の名前は、ちょっと太ってるから『ブーニャン』だ!」
猫は、細い目をする。
「気に入らないの?」
猫は西門のタブレットを眺め、誰もが想像も出来ない行動に出た。
西門の膝に乗ると前足で、ちょんちょんとメモ帳アプリを起動する。
そして
『ピート』と打ち込んだ。
美鈴も西門も目を見開く。
実はこの猫、実験体として葛飾で回収され脳実験を受けてた。
元々は煙草屋の看板猫。
名前は煙草の『PEACE』から『ピート』になった。
飼い主の店の主人と毎日任侠映画を見るのが日課だった。
しかし主人は高齢で大往生。近所に助けを呼んだのもピートだった。
そんなピートは街の人に愛され引き取り手は沢山居たが、主人の葬儀の後、店先で「にゃあ」と一声鳴くと家を出て居なくなってしまった。
ピートは第二の人生を、いや『猫生』を野良猫として生きて行く事にした。
そして逞しくもボス猫として君臨し徒党を組んでいたのだ。
だが保健所に捕獲され、この研究所に実験材料として運ばれてきたのだった。
そして脳実験され人の言葉を理解出来る様になったのだが、とんでもない副作用が発見されこの施設で大事件になりかけたのだ。
その後レベル4の隔離厳重取り扱い指定になっていた。
ピートは先程の美鈴の戦いをこっそり顔を出し一部始終を見ていた。
この人間には敵わないと野生の勘で感じ取り、既に服従していた。
元々は上下関係に厳しい猫社会である。
ピートは美鈴の舎弟になる事を既に決めていたのだ。
「にゃにゃ!(俺の名前はピート! ミスズ姐さんお見知りおきを!)」
「この子もしかして人の言葉が判るの?」
西門は興味深く観察している。
美鈴が呼びかける。
「ピート君?」
ピートは嬉しそうに喉を鳴らす。
「かわいい! ピート宜しくね」
ピートはまた美鈴の膝に乗り、美鈴の顎をぺろぺろ舐めている。
西門は美鈴に声を掛けようとすると、ピートが威嚇する。
「美鈴さん。僕もこの子には非常に興味深いんですが、今はコレを何とかしないと」
手には発信機と小さなバッテリーがビニール袋に入り、テープで巻かれていた。
西門はピートに向かって話しかける。
「ピート君、お願いがあるんだが、コレをどこか遠くに運んでくれないか?」
ピートはツーンとソッポを向いている。
「え、ちょっと。そんなのピートが危ないでしょ!」
西門は上を眺め机の上に登りダクトの格子を外す。
「しかし、この発信機が囮になってくれれば、脱出もかなり楽になるかと思うんです」
「確かにそうだけど……」
美鈴は、ピートを申し訳なさそうに見る。
ピートは話を理解し、美鈴に答える。
「にゃにゃーーーー! にゃにゃ!(姐さんの頼みなら一大事だ! 任せてくだせい!)」
美鈴の膝からシャッとジャンプし、西門の手からビニール袋を奪う。
西門は驚いた。
ピートは口に咥えたビニール袋をしっかり咬み直し、ダクトを見ている。
美鈴に向かって頭を下げたように見えた後、『タン! タン!』と飛び移り中から顔を出す。
「にゃにゃにゃー!(姐さん! 行ってきやす! ご武運を!)」
首を引っ込めると、ダクトがガタガタと音を鳴らす。
美鈴は止めようとしたが、あっと言う間に行ってしまった。
「ちょっと! ピートに何かあったらどうするつもり!」
「まぁまぁ。頭が良いし危ない目には合わないでしょう。それより行きましょう!」
美鈴が位置を確認すると、ピートがすごい速度で東側へ移動している。
無線を聞くと美鈴が移動を開始したと報告が飛び交っていた。
その途端、無線が切れた。
監視カメラも次々に消えていく。
二人は奪った戦闘服に着替え、美鈴はリュックに無線や懐中電灯を詰め込んで背負う。
西門がリュックに荷物を詰め込み、手には銃を持っている。
「絶対、使うなよ」
「判ってますよ」
[エル]今充電何パーセント?
>マダ45%デス
この後の戦いを考えると、正直心配だ。
あ!
[エル]やっぱり元の姿に戻してくれる?
>現在ノ状態ダト、約2%消費シマスガ良イデショウカ?
うん、やって。
田中さんの体形は、正直戦いにくい。
特にこの爆乳は何をやっても体が振られる。
アニメでよく巨乳の女の子が戦っているが、あれは戦力ダウンだと思う。
戦うの女子は貧乳が一番。
>貧乳ニシマスカ?
しなくていい! デフォルトのサイズで構わん!
>モーフィング開始シマス
元のサイズに戻った美鈴は、体を伸ばしながら感触を確かめていた。
非常に軽い。
隊員の所持品の中に施設内のマップがあった。これを入手出来たのは大きい。
ピートはダクトをまだ元気に走って回っている。
その先に食堂でもあるのかも。
警備員室からフロアの照明を全部消す。
西門は操作パネル等の機材を全てショートさせ、使用不能にした。
よし、行くか!
西門が美鈴のリュックの中に、何かをゴソっと突っ込んできた。
なんだ? 確認すると大きなバッテリーだ。
「充電しながら行きましょうか」
あ、その手があるか。私自身がモバイル端末みたいだがこの際どうでもいい。
今の状態はできるだけ戦いは避けたい。
二人は急いで部屋を出た。
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