第27話 混乱

美鈴は西門に引っ張られる様に、部屋を飛び出す。

廊下にでると濛々と煙が立ち込める中、四人の警備員が警棒を持って立ち塞がった。

「貴様動くな! その女性を離して大人しくしろ。逃げられないぞ!」

西門は「くそ!」と下手な演技で私を警備員側に突き飛ばした。


彼らは慌てて私を保護しようとする。

[エル]!

>格闘モーション起動シマス


「きゃあ!」

と言いつつ警備員に美鈴は肩から体当たりする。2メートルぐらい吹っ飛んだ。


次に美鈴はもう一人の腹部に一撃を入れる。骨の軋む音とうめき声。

体を反転させながら、もう一人の顔を下から蹴り上げた。


最後の一人が無線で連絡を入れているのが見える。

蹴り上げた反動を使い、無線機をもっている男の目の前に着地。

顔と胴に二発入れると崩れ落ちる。

美鈴はあっという間に四人を倒してしまった。


念の為、警備員達の様子を見てみたが、大きな外傷もなく気絶しているだけだった。

まだまだ、力加減が難しい。

もうちょっと練習しないと。


西門がびっくりした顔で

「いや、そのスーツの威力は知っていましたが、ここまで人体を再現するとは素晴らしい!」

――ん?


気が付くとガウンの前が開いてほぼ半裸状態になっている

そっちか!

慌ててガウンで体を隠し西門を睨みつけながら

「次見たらぶっとばす! さっさと行くぞ!」


西門は警備員からIDカードを拝借する。

また、二人は走り出す。

しかし、このままガウンで逃げるわけにはいかないし。

[エル]どこかに更衣室ない?

>30メートル先左側通路ニアリマス


目の前に建物のモデル映像が出る。

わかった。

西門に「ちょっと寄り道するぞ」

と言ったが、どうやら別の事を考えている。


走りながら西門は何か思いついたようだ。

「[エル]東側奥の通路までの最短ルートを出してくれ!」

>Mr.マモル、了解デス

西門はタブレットを見ながら廊下の角を曲がっていく。

美鈴が見ている映像には、廊下に矢印が表示されている。


「ちょっと! [エル]に勝手に命令しないで!」

「まぁまぁ、用事を思い出したので、後程更衣室で!」

そう言って西門は美鈴とは逆の方向へ走って行ってしまった。

「ちょっとー!」

ったく。あいつとは合わないな。

とりあえず、まずは何か着ないとだ。これじゃあ裸で走り回ってる痴女と同じだ。


煙が立ち込める中、職員たちが混乱しながら走ってくる。

美鈴は慌てて柱に隠れ、顔を出す。

更衣室の前で見覚えのある職員が外の様子を伺っていた。

担当の田中だ。

美鈴が足を引きづりながら近づくと、田中が美鈴に気付き慌てながら走り寄ってきた。

「山本さん、大丈夫!? 今、不審者が施設内を逃げ回っていると聞いて心配してたんですよ」

「た、助けて!」

美鈴は内心自分の演技の酷さに凹み、田中には気付かれていない事を願った。

「とりあえずあの部屋に行きましょう!」

田中は周りを伺いながら、煙の中美鈴の肩を抱きながら更衣室へ移動する。

あぶなー。

「中に入って、このドアはロックが掛かるから」

美鈴は震える演技をしながら中に入る。

「私の部屋にも煙が立ちこめてきて、慌てて逃げて来たんです!」

「大変だったわね。ここは大丈夫よ。安心して」

「ありがとうございます」

美鈴は思い出したようなフリをして顎をさわり、凄まじい棒読み口調で話す。

「そういえば、逃げ出したときに変な人を見かけました」

「え、どこで?」

「さっき私を突き飛ばして、私の部屋の方向に走っていきました!」

「ちょ、ちょっと待ってね」

田中は、美鈴の異様な口調も気にせず、慌てながらスマホを取り出しどこかに連絡をしようとしている。

美鈴は静かに後ろから首に指をあてる。

「ごめんなさい」

その途端『バチっ!』と指から光を発し、田中は気絶してしまった。


美鈴はバチバチ電流が流れる指を眺める。

この指使える。雷球は危ないけどね。

>モードOFFニシマシタ

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