第25話 [エル]の嘘

美鈴は慌てて腕を振り落とそうとした、その時!

部屋のドアが勢いよく開き、背広を着た一人の男が飛び込んできた!


「[エル]! 直ぐに第一、第二指の供給パターンをアセットBへ変更!」

>Mr.マモル、供給プログラムトパターンヲ変更シマシタ

――!?

「出力60を切ったらアセットCへ」

マモルと呼ばれた男はタブレットを見ながら[エル]へ直接命令している。


美鈴は男を見ながら、

誰? やばい! 雷球もやばい、もっとやばい!

大混乱の美鈴はどうしようもなく指先をみつめている。


>出力低下中。マイナスプラズマ低下

「そうだ、いいぞ」


球体は少しずつ、少しずつ小さくなってきた。

美鈴は放心状態で、振り上げた腕を落とす。

男は「おっと」とその場を飛びのいた。

小さな光は指先を離れ、ふわふわと男の元居た場所に落下し、小さく『ボン!』と音をたて床を削り、大きな焦げ跡を作った。


男は少しため息をついた後、にっこりと笑って、

「初めまして、西門 護さいもん まもるです」

この西門との出会いが、美鈴の運命を今後大きく変えることになる。


誰だ誰だ誰だ!?

バレてる! バレてる!

こうなったら発信機とかどうでもいい! このまま逃げるしかない!

[エル]! ポルトモーションセットして!

>ミスズ、落チ着イテ


西門はあわてて

「ちょ! ちょっと、落ち着いてください。大丈夫。僕はあなたの味方みたいなもんですよ。

 データは常に僕に送信されてモニターしていたので

 あなたが[エル]と名前を付けたことも、スーツのリミッターを独自に解除していることも知っています。

 僕はこの子を[ラブ]と呼んでいましたが[エル]の方がいいですね。うん」


え? えー!

[エル]そうなの!?

>ハイ。Mr.マモルニハ、ダミーデータデハナク、内部データヲ送信シテイマシタ

そんなの聞いてないよ!

>ゴメンナサイ、ミスズ


美鈴は構えながら、西門に訴える。

「味方? だったら分解しないんですよね?」

「はい」

「絶対に?」

西門は少し笑いながら

「はい、彼女は僕の子供。いや恋人みたいなもんですから絶対に分解しませんよ」


彼女って、[エル]は女の子だったの?


「だって開発したのは僕ですから」


え?そうなの?

>ハイ。私ハ、Mr.マモルニヨッテ誕生シマシタ。SEXモードハ女性ニ設定サレテイマシタ


「で、でも。じゃあ、あなたは篠原の人間なんですよね」

「違います。私は京都大の教授です。正確に言うと」

西門の表情が少し硬くなった


「三年前、[エル]は渡辺という助教授に盗まれたんです。

 今はそれなりの椅子に収まっているようですが」

渡辺?

あぁ、あの責任者の男か。


西門はタブレットを美鈴に見せてきた。

画面には論文らしき画面が出ている。

『脳とAIの融合と確立 京都大 ヒューマンサイエンス研究室 教授 西門 護』

と書いてある。

「まぁ盗まれたとはいえ、油断した僕も悪いですが。

 しかし、理論上成功していましたが、まさか臨床実験をするとは思いませんでした。

 というわけで、僕は彼女を取り返しにここに忍び込んだってことです」

え?


西門は、ちらっと美鈴をみて

「ですが、山本さんと[エル]との剥離はまず無理だと思うんで、一緒に逃げてもらえますか?

 解体しません。信用してもらえませんか」


さらに

「しかし、驚いた。AI自身が自我に似たものを生み出しているのは想定外だ」

と目がキラキラしている。


んー本当に信用してよいのかどうか。


>ミスズ、Mr.マモルハ信用デキマス

>現在ノ声紋偽証レベルハ5%デス


西門はずっと一人で話している。

「もう、あきらめていたんですが、先月彼女からデータが送信されてきたときは驚きました。

 あなたの様な平凡な人格構成と、ここまで融合率上げているとは非常に素晴らしい」


平凡?


「この目で見るまでこの現象は信じられなかった」

ウロウロしながらブツブツ言っている。

「次回の論文はこうだな、AIサポートにおける人体への……」


んーなんだろ。

若干腹が立つ。


タブレットを見ながら若干興奮している西門をみながら


「忍びこんだっておっしゃいましたが、一体どうやって?」

「あなたにも理解できるように説明すると

 [エル]にも協力してもらいましたが、ハッキングで支部の職員研修の一環で来たことになっています。

 自慢ではないですが、僕は天才なので」


ちょっと此奴なに誰?

>西門 護、年齢35才。10歳デMITコンピュータ科学・人工知能研究所ニ入学

>現在ハ京都大学ニ研究所ヲモツ。現在教授


むー。

すごいのは分かった。でも自分の事天才いうか? 普通。

こーゆうタイプは苦手だ。

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